マガジンのカバー画像

【短編小説全12話】私と僕と夏休み、それから。

12
初めて投稿した短編小説です。 【あらすじ】 地元の高校に通う高校1年生の中村キコは、同じクラスで同じ委員会になった男子生徒から、突然「大っ嫌い」と言われる。しかし、なぜそう言われ…
運営しているクリエイター

#青春小説

【短編小説】私と僕と夏休み、それから。(第8話/全12話)

【短編小説】私と僕と夏休み、それから。(第8話/全12話)

夕方、キコは帰宅して二階の自室に戻ると、ばったりとうつぶせにベッドに倒れてしまった。
実の母と姉が、今のシオンの家族。
シオンは自分に会うために、キコと同じ高校を選択。 
母は、自分のことを今でも思ってくれている。
父と母は連絡を取り合っており、私のことは筒抜け。
今日知った驚きの内容を整理する。整理するほど、これからシオンとどう接していけばいいのか分からなくなっていた。これまで通りでいいのだろう

もっとみる
【短編小説】私と僕と夏休み、それから。(第5話/全12話)

【短編小説】私と僕と夏休み、それから。(第5話/全12話)

夏休み前で小学校が早く終わった日のことだった。学校が終わるやいなや帰宅し、けん玉を掴むと、自転車に乗って急いで神社へ向かった。
拝殿前の段に座って涼みながらけん玉を見つめていると、祖父との思い出が次々とよみがえってきた。
優しかった祖父のことを思い出すと、涙がぼとぼとと落ちてきた。キコは無意識に「家族の前では泣いちゃいけない」としていた。その時は「泣いちゃいけない」とは、一切考えなかった。涙が落ち

もっとみる
【短編小説】私と僕と夏休み、それから。(第4話/全12話)

【短編小説】私と僕と夏休み、それから。(第4話/全12話)

期末テストが終わり、いよいよ夏休み目前である。今学期最後の美化委員会の会議のあと、シオンが言った。

「このあと時間ある?確か今日は茶道部ないよね」

キコは初めて話しかけられたときと同じくらい、固まった。何かの誘いだとしたら、いったい何なのか。けれどすぐ持ち直して答えた。

「…あああ、うん、今日は部活無いから帰るだけ、うん、時間ある。何、テストの復習、なわけないか私より勉強できるのに」
「じゃ

もっとみる
【短編小説】私と僕と夏休み、それから。(第3話/全12話)

【短編小説】私と僕と夏休み、それから。(第3話/全12話)

美化委員会の会議の日がやってきた。「大っ嫌い」の日から約1か月が経っている。話すようになってから「大っ嫌い」のことは忘れていたが、この日はふと、あの日の情景から温度、シオンの笑顔まで詳細に思い出されてきて、またもやもやしてきた。最近見かける笑顔には優しさを感じるが「大っ嫌い」の笑顔からはいまだに何もわからない。
帰りのホームルームが終われば会議だ。ホームルームが終わり、生徒たちは部活や委員会、帰宅

もっとみる
【短編小説】私と僕と夏休み、それから。(第2話/全12話)

【短編小説】私と僕と夏休み、それから。(第2話/全12話)

6月に入った。衣替えで夏制服になる以外に変化はないように思えたが、朝のホームルームで予告なしの席替えがあり、キコとシオンは窓側の一番後ろの席で隣同士になった。
あれから一週間、朝の挨拶以外は特に接点はなかった。

「大っ嫌い」の意味はよく分からないが、やっぱり気になってもやもやしていた。週1のごみ置き場掃除と月1の会議さえ乗り切ればいいと思っていたのに、これから毎日隣にいることになってしまった。

もっとみる
【短編小説】私と僕と夏休み、それから。(第1話/全12話)

【短編小説】私と僕と夏休み、それから。(第1話/全12話)

「大っ嫌い」

時は5月後半のよく晴れた日の放課後、2回目の美化委員会の全体会議の帰り。場所はもうすぐ教室の目の前の廊下。
渡辺シオンは突然立ち止まり、同じクラスで同じ美化委員会に所属する女子生徒の中村キコに、そう言い放った。
それまで二人は無言で教室に向かっていた。いきなりの発言にキコは自分の左を歩いていたシオンの方を向く。すると、シオンはいつものニコニコとした表情をしていた。
いわゆる満面の笑

もっとみる