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グループkasy(金土豊、他)
2018年9月1日 05:41
「あのドアかしら?」 有田真由美は、部屋の右端にある扉を指差した。ノブは通常のものだ。少し錆付いている所を除けば。有田真由美が、ノブに手をかけてひねるが、びくともしない。よく見ると、ノブの下に鍵穴がある。その様子に気づいた小手川浩が、部屋中を探し出した。すると、配電盤の横の壁にある、小さなフックにキーを見つけた。小手川浩は、その鍵束を手に取った。その鍵束に視線を落とす。
2018年9月4日 07:32
「感染?何の話なの?」 小手川浩の言葉を聞いた斐伊川紗枝の声には、驚きと怯えの入り混じっていた。「紗枝ちゃん、これにはわけが・・・」 有田真由美が斐伊川紗枝をなだめようとするが、彼女のパニックは収まりをみせなかった。「前から変だと思ってた。水落さんは顔色悪くなってるし、 小手川さんは左目、銀色に・・・ あの化け物みたいになってるし・・・」 斐伊川紗枝の両目から、
2018年9月5日 06:48
その水槽は長さ10メートル、幅4メートル、高さ3メートルあった。中には緑色の液体で満たされていたが、4人が目を見張ったのは、その液体の中に入っている異形のものだった。それは今までの化け物とは、形態がまるで違っていた。水落圭介たち4人は、その巨大な水槽の周囲を回りながら、その異形のものを見ていった。誰もが無言だった。 元は人間だったものを、両腕を残し、首と下半身が切
2018年9月6日 05:14
保存庫の中には他にもあった。B5サイズくらいの茶封筒を見つけ小手川浩は手に取った。その袋を慎重に開けてみる。中には6本の細くて小さい注射器が入っていた。それは保存状態も良く、70年以上も前のものとは思えないくらい、真新しい。「・・・でどうするの?ジャンケンで決める?」 有田真由美は、おどけた素振りで言った。「命のかけてのジャンケンか・・・」 水落圭介もほくそ笑
2018年9月7日 04:03
化け物を沈めていた水槽に、クモの巣状に大きな亀裂が入っていく。亀裂はさらに稲妻のように広がって、今にも破壊されそうだ。水槽内の人体ムカデは暴れ狂っていた。人体ムカデは巨大な体躯をうねるようにくねらせ、20本以上ある腕で、水槽を内側から所かまわず殴りつけている。二つの上半身の二つの頭は銀色の目を見開き、裂けたような口を大きく開け、無音の叫びを上げている。そして、今は
2018年9月11日 01:38
人体ムカデが、凶悪な形相で迫ってきた。もう3メートルも離れていない。だが、水落圭介は鉄扉を押さえている両手を離せなかった。というより、恐怖で体が膠着して、身動きできないでいた。有田真由美の凄惨な殺され方を目の当たりにして、金縛りにあったように、体がいうことをきかない。意識では早く逃げねばと思いながらも、どうにもならないでいた。まるで両手が鉄扉に接着されたかのようだ
2018年9月11日 12:07
その轟音は地鳴りのように響いて、部屋全体を震動させた。天井からコンクリートの破片が、時雨のように落ちてくる。間違いない。隣の部屋にいる、人体ムカデが壁に体当たりをしているのだ。しかし、壁も厚さは1メートルもあるのだ。大丈夫だ。水落圭介はそう思いたかった。斐伊川紗枝は不安そうに、脱出ハッチに足から入っていった。まだ、ハッチの縁を両手で掴んでいる。まだ降りる決心がつか
2018年9月11日 19:16
「水落さん、早く逃げてッ!」 遠くで小手川浩の叫ぶ声がした。圭介は反射的に、脱出ハッチに足から飛び込む。それでもなお、人体ムカデは追ってきた。脱出ハッチに入ろうとするが、あまりの巨体で入って来れない。しかし、化け物は諦めていない。無理やりにでも、体をねじ込もうとしている。水落圭介は、そんな化け物を見上げながら、外へと続くパイプの中を滑り落ちて行った。小手川浩は、
2018年9月12日 19:52
水落圭介は、よろめきながら、あちこちが痛む体に渾身の力を込めて、なんとか立ち上がった。ふたりとも全身ずぶ濡れな上、着ている服は泥と煤にまみれ、あちこちが破れている。斐伊川紗枝も上半身を起こした。彼女の視線は怯えきった視線を辺りに走らせている。「水落ちさん、左腕が動かない・・・」 斐伊川紗枝が、圭介に向かって訴えかけるような、それでいて力のこもらない声で言った。
2018年9月15日 05:43
所沢宗一の船は、エンジンがかかったままだった。エンジン音が、咳き込むような音を立てている。この『名無しの島』に迎えに来るはずだった、約束の時間はまだ先だ。圭介は、おそらく所沢も我々が心配になって、早く来たのだろうと考えた。振り返ると、笑みこそ浮かべてはいなかったが、斐伊川紗枝も希望に、瞳が輝いているように見える。それは水落圭介にとっても、同様だった。所沢の漁船
2018年9月17日 07:44
水落圭介は『はやぶさ丸』の操縦室に入った。操縦室は意外と狭かった。4平方メートルほどしかない。漁船はおろか、船の操縦などしたことがない圭介だったが、操縦盤をのぞくと、案外やれそうな気がした。正面の中央には、大型トラックと同じくらいの大きさのハンドルがある。これが、船の進路を変える舵と連動しているのだろう。左下には、長いレバーが二つ。まるで木琴のスティックを思わせる
2018年9月17日 21:00
「どうしたんだ?紗枝」 水落圭介は、カナヅチを握り締めたまま、構えている斐伊川紗枝を訝しむように言った。「水落さん・・・目があの化け物と同じようになってる・・・」 斐伊川紗枝の声は怯えたように、小刻みに震えている。彼女の言葉に、圭介はあらためて衝撃を受けた。RNA-774に感染していることはわかっていたが、その症状が確実に進行していることに、言い知れない恐怖を感じた
2018年9月18日 16:37
鹿児島県枕崎市漁港に到着してから1日半後、斐伊川紗枝の姿は、東京都内の、ある国立病理疾病センターの無菌隔離室のベッドの上にあった。枕崎漁港に曳航された『はやぶさ丸』を中心に、半径500メートルに及ぶ範囲で、待機していた警察、救急隊など関係者以外は立ち入りを固く禁じられた。異様だったのは、待機していた者全員が全身防護服に包まれた姿だったことだ。それに救急搬送用のヘリ