ショートショート:「人間の大穴」
【前書き】
皆様、お疲れ様です。
カナモノさんです。
自分は〝ディストピア〟という概念が好きで。
なんかそれを抽象的にイメージしたお話です。
少しの間でも、お楽しみ頂けていることを願います。
【人間の大穴】
作:カナモノユウキ
《登場人物》
・匿名A
・匿名B
匿名A
この【大穴】が何故できたのか、今の人間は…誰も分からないらしい。
最初は謎の崩落事故だった、街の中心地にマンション一棟を飲み込んだ【穴】が表れた。
綺麗な円形で、明らかに土地の陥没、ミサイル攻撃などで出来た穴じゃないみたいで。
大きな音なども一切なく、急に現れて建物を飲み込んだと言われている。
そこから【穴】は見る見る広がり、多くの建物や人間を飲み込んでいった。
まるで大きな傷口の様に、暗体に広がり続けて。
……そして発生から一週間後、等々街が一つ【大穴】に飲み込まれて消えた。
その不可思議な現象に、世界も【大穴】の調査に乗り出した。
ある者はドローンを内部に飛ばして、その奥を調べようとした。しかしドローンは途中で消息が途絶えた。
ヘリで穴の奥へ行こうとした者達も居たが、ドローン同様に闇の奥へ進んだまま戻ることはなかった。
【大穴】の淵から降りて調査しようとした者もいたが、異様に滑らかな穴の外壁に阻まれ断念。
調査隊を組んで底が見えない闇に降りて行った者も居た、
だが自ら命綱を外し闇に消えて行く者が続出し調査は打ち切られた。
【大穴】は関わるもの全てを容赦なく飲み込み、謎は深まるばかり。
いつしか、その【大穴】にゴミを捨てる者が表れた。
生ゴミに粗大ゴミ、建物を取り壊した時の廃材や使えなくなった電化製品…ありとあらゆるゴミを捨て始めて。
ゴミを捨て始めたおじさん達は、その後【大穴】へ身投げした。
関わるものを全て飲み込み、それを糧に成長を遂げるように広がる穴。
匿名B
「はぁ…。随分と立派に広がったもんだ。」
匿名A
「そうだな、よくもまあこんなにデカくなったもんだ…。」
匿名B
「遊園地も、デパートも、映画館も。全部飲み込まれたなぁ。」
匿名A
「…どうして、こんなに大きくなったんだろうな。」
匿名B
「…それ、マジで言ってる?」
匿名A
「え、何で?」
匿名B
「こんなの、全部自業自得でしょ。」
匿名A
「え?…どういうこと?」
匿名B
「いいかい?これはそもそも穴じゃない、【亀裂】だよ。人のネガティブな感情とか、やり切れない想いとか。
そう言うのが許容量をオーバーして、風船に空いた穴がスローモーションでゆっくりと広がる様に崩れてる。
それがあの【亀裂】の正体だよ。ゲシュタルト崩壊に近いのかもしれないし、ビックバンの前兆かもしれないよ。
いや、世紀末って案外この亀裂そのものなのかな!かの有名なルードビッヒの予言はこれだったとも言える…。
だとしたら!
この亀裂は世界の終わりに繋がるブラックホールかもしれないよね!
まぁとにかく、始まったものは止められない。あの【亀裂】は今は首都圏を飲み込んだだけだけど。この先は違う。
更に広がってその内日本は無くなるだろうね。そして世界を飲み込んで、果ては宇宙を飲み込むかもしれない。
分かるかい?僕たちは決定的瞬間の淵に居るんだ。それを生きて出会えた幸運に感謝しないと!」
匿名A
「……なぁ。壊れてんのか?お前。」
匿名B
「いやいや!壊れているのは僕だけじゃない。君も、他の人も。
みんな、みんな壊れているんだよ。だから出来た【亀裂】なんだよ。」
匿名A
「…他何言ってたか分かんなかったけど…それは何となく分かった。」
匿名A
多分、みんな壊れてるのに平然を装っている。
みんな、怖くないフリをして生きてるだけなんだ。
最初に空いた【亀裂】の場所、そこには俺の友人が住んでいた。
友人は【穴】が現れる前日、LINEで俺にこんなメッセージを送って来た。
《オレが死んだら、きっと大変なことになる。ザマアミロ。大バカ。》
…確かに、大変なことになった。
何でそんなことを言って来たのかも分からないし、こうなっては確認のしようもない。
ただ分かることは、もう臭い物に蓋をすることは出来ないし。
見て見ぬフリをしても、もう遅い。
どうしていいかなんてことは、とっくのとうに見失ったまま。
俺たちは【大穴】の淵で、闇を眺めることしか…出来ない。
大バカ者なんだから。
【あとがき】
最後まで読んでくださった方々、
誠にありがとうございます。
これは最初の出だしだけ、しばらく前に書いていて。
多分、大分心に余裕が無かったんだと思います。(笑)
ただ、考え方は変わって居ない様で。
だからこそ、続きが書けたんだなと思います。
色んな事件や出来事が、この大穴みたいに手遅れになる前に。
色々と見詰め直して、向き合っていかないと。
大事なものを失う。
そんなことばかりですよね、世の中。
…知りませんけど。
次の作品も楽しんで頂けることを、祈ります。
お疲れ様でした。
カナモノユウキ
【おまけ】
横書きが正直苦手な方、僕もです。
宜しければ縦書きのデータご用意したので、そちらもどうぞ。
《作品利用について》
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そう思っていただける方が居ましたら喜んで「どうぞ」と言います。
ただ〝お願いごと〟が3つほどございます。
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