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コロンビアビジネススクールでのアカデミックな学び:Accounting

私が通っていたコロンビアビジネススクールにおけるアカデミックな学びについて、前回は概論を記載しました。

今回はその各論の第1回として、Accountingをテーマにコロンビアビジネススクールで学んだことを記載したいと思います。

Accountingのテーマで紹介する科目は以下の通りとなります。
・Financial Accounting(必修科目)
・Earnings Quality & Fundamental Analysis(選択科目)
・Financial Statement Analysis and Valuation(選択科目)

いずれの科目でも共通することは、授業が「企業の財務諸表を正しく読みこなし、必要な情報を自由に取得し、必要に応じて修正や再構成を行う」ことに主眼が置かれていることです。
日本でAccounitng(会計)というと、まず先に簿記試験や会計士試験のような資格試験を思い浮かべると思いますが、資格試験のようにやたら細かい会計用語や会計処理を覚えるのではなく、授業では財務諸表(PL、BS、CF)や各会計項目ごとに重要な考え方や論点を学ぶことに主眼が置かれます。

Financial Accounting(必修科目)

Financial Accountingは最初の学期で学ぶ必修科目となります。他の必修科目が6週間で終わるのに対し、この科目のみ12週間かかることから学ぶ内容も多岐にわたります。いわゆる「会計基礎」の位置づけになっており、最初の6週間で仕訳のやり方と財務三表(PL、BS、CF)の作り方を学びます。後半では、各会計項目について重要な論点を学び、最後に一通り企業の財務諸表を読めるようになって終了となります。

各会計項目における重要論点とは、以下のようなものです。
・収益認識:収益認識のタイミングや金額の判断方法
・Accounts Receivable:Bad Debt Expense、Allowance for Uncollectible Accounts、write-offsの扱い
・Inventory:コスト計算の方法、先入先出法と後入先出法の差異
・Depreciation:減価償却の計算方法、固定資産の平均年数の計算方法、売却金額の計算方法
・Debt:経年の元本の変化や利息の計算方法、取得や返済時の仕訳方法
・Tax:永久差異と一時差異の会計処理、繰延税金資産(負債)の計算方法
・全体:収益性指標、安定性指標などの重要な指標の計算方法

この科目はほぼ講義の形で授業が進められ、成績評価もテストが主たる評価方法となりました。これまでほぼ会計の勉強をしてこなかったため、集中的に重要な論点を学ぶにはよい機会となりました。

Earnings Quality & Fundamental Analysis (選択科目)

Earnings Quality & Fundamental Analysisはその名の通り、財務諸表で示されている「収益の質」を検証できるようになる、ということが授業の根底にあります。公表される決算資料は多くの場合監査法人による監査がなされており、基本的には正当なものではありますが、正当なものであってもそこには企業によって会計方針が異なり、本来の収益性がゆがめられて記載されている場合があります。そうした「収益の質」を評価し、企業のバリュエーションに活かす、というのがこの授業の目的です。
そのため、この授業では大きく3つのテーマで内容が展開されました。
①企業のバリュエーション方法
②収益性指標、安定性指標などの重要な指標の計算方法
③各会計項目における「収益の質」を評価する方法

①企業のバリュエーション方法
こちらはコーポレートファイナンスの分野で学ぶ、バリュエーションモデルの作成であり、以下のような手順でそのモデルを作成することを学びます。
・BS、PL、CFの重要項目の将来予測
・フリーキャッシュフローの算定
・WACCの算定
・フリーキャッシュフローを用いた企業価値(Enterprise Value)及び株式価値(エクイティバリュー)の算定
・EV/EBIT(EV/EBITDA)マルチプルを用いた企業価値(Enterprise Value)及び株式価値(エクイティバリュー)の算定

詳細は以下の記事に記載しています。

②収益性指標、安定性指標などの重要な指標の計算方法
こちらは、必修科目で学んだ内容と同等ですが、Liquidity(流動性)とSolvency(支払能力)が取り立てて重要な指標として扱われました。
Liquidity(流動性)においては、
「CFにおけるcash from operations」を「BSにおけるcurrent liabilities」で割った値
が指標として最も重要視されていました。これは、企業のオペレーションから生まれるキャッシュが短期的な流動性の高さを測るのに妥当かつブレの少ない指標であると考えられるためです。もちろん、補助的な役割としてCash Ratio(Cash / Current liabilities)、Current Ratio(Current assets / Current liabilities)やQuick Ratioも見るべきです。

また、Solvency(支払能力)においては、
「BSにおけるDebt」を「EBITDA」で割った値(逆でも可)が
指標として最も重要視されていました。その他、EBITDA / Debt servicesも利息と元本の毎期の支払の余裕度を測るために重要です。

③各会計項目における「収益の質」を評価する方法
これがメインテーマで、様々な会計項目について細かく解説がなされました。スライドの量は1学期間で2,000枚を超え、すさまじい量となりました。
ここでは、重要な論点を記載します。

1) 収益を過大認識していないか
過年度の財務諸表において以下を比較します。
・Account Receivables / Sales
→比率が急激に上昇している場合には収益を過大認識している可能性あり
・Gross margin
→比率が急激に低下している場合には収益を過大認識している可能性あり
・Deferred revenue / Sales
→比率が急激に低下している場合には収益を過大認識している可能性あり

2) 売掛金の貸倒損失(Bad debt expense)を過小認識していないか
過年度の財務諸表において以下を比較します。
・Allowance / Receivables
→比率が急激に低下している場合には売掛金の貸倒損失を過小認識している可能性あり
・Bad debt expense / Sales
→比率が急激に低下している場合には売掛金の貸倒損失を過小認識している可能性あり
・Bad debt expense / net write-offs
→この比率が1を下回っている場合には売掛金の貸倒損失を過小認識している可能性あり

3) 過大生産を行い、収益を過大認識していないか
過年度の財務諸表において以下を比較します。
・Inventory / Cost of sales
→比率が急激に上昇している場合には過大生産を行い、収益を過大認識している可能性あり

4) 販管費をカットし、費用を過小認識していないか
過年度の財務諸表において以下を比較します。
・R&D / Sales
→比率が急激に低下している場合には販管費をカットし、費用を過小認識している可能性あり
・SG&A / Sales
→比率が急激に低下している場合には販管費をカットし、費用を過小認識している可能性あり

5) 純利益の質が低下していないか
過年度の財務諸表において以下を比較します。
・(Cash from Operation) - (Net Income)
→低下している場合には純利益の質が低下している

この授業は会計事務所の先生が担当され、かなりマニアックな論点まで踏み込むことと講義形式であることのために、眠くなってしまう場面もありましたが、内容としては非常に役立つものでした。

Financial Statement Analysis and Valuation(選択科目)

この科目では、企業の財務諸表を分析する演習を行いました。財務分析の一般的なツール、理論的概念、および実践的な評価におけるイシューについて学びました。
前半では、企業が抱える個別の会計論点に着目しながら、その企業の戦略、会計分析、財務分析、将来予測について段階的に分析を進めていきました。例として、以下のような企業や課題を扱いました。
・Bausch & Lomb, Inc.(医療製品メーカー)における収益認識の問題
・PolyMedica Corporation(ヘルスケア)における、広告費を費用化すべきか資本化すべきかの問題
・Boston Chicken, Inc.(レストラン)における、フランチャイズ店舗の収益性の評価問題
・Land Securities Group(不動産)における、固定資産の経年の評価方法(Fair Value versus Historical Cost)の問題
・The Home Depot, Inc. (ホームセンター)における、Debt Covenantsの問題
・Krispy Kreme Doughnuts(レストラン)やKevin McCarthy and Westlake Chemical Corp(化学)の財務諸表の将来予測

後半では、上記で培った分析のフレームワークを活かし、M&A、LBOやIPOといった、より難しい論点を扱いました。
・Ryanair Holdings plc(LCC)のバリュエーション
・Schneider と Square D(電気機器)の合併におけるバリュエーション
・Dollar General(スーパー)のLBOにおける買収価値の計算
・Accounting for Virtual Goods at Zynga(Tech)のIPOにおけるバリュエーション

そして、最終プレゼンテーション課題においては、今をときめくNVIDIAのバリュエーションを行いました。業界分析、企業戦略分析、会計分析、財務分析、将来予測、バリュエーション、といった内容を網羅する必要があり、ややハードな課題でした。

教授は若いながらもIBDからChicago大学でPhDを取得している新進気鋭の方で、非常にサポーティブに授業を盛り上げてくれました。珍しくホワイトボードに全ての内容を書いていく授業形式で、毎回の予習課題となるケースのまとめから、企業の戦略分析、財務分析、将来予測と、生徒に意見を求めながら進めていきました。非常に発言もしやすい雰囲気で、楽しみながら授業を受講することができました。

必修科目に「Strategy Formulation」という企業分析のフレームワークを学ぶ授業があるのですが、こちらは1回90分という授業の短さもありややふわっとした(授業が生徒の意見で発散したまま終わり、Take Awayが明確でない場合が多い)内容で終わることが多く、消化不良なイメージを持っていました。しかし、この「Financial Statement Analysis and Valuation」はしっかり数字的な裏付けを示しながらそうした企業戦略について学ぶことができるため、むしろこっちを必修にした方がよいのではないかと思うくらいでした。



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