記事一覧
名もなきチャイナタウン
行き交う自動車のヘッドライトや街灯が、濡れた歩道を赤く照らしている。その中を傘を差した観光客が俯きがちに歩いてくる。探偵小説じみた味わいのある、ポランスキーが好みそうな風景。真夜中だというのに、十数人の群衆が路地に犇めきあっているさまは異様だが、高層ホテルが林立しているのだから、とりわけ不自然な光景でもない。繁華街から離れた、寂れた漁師町だ。ドブ川に挟まれた東京湾のほとりで、いったい何が獲れると
もっとみる我が青春のブラックマンバ
九歳からバスケットボールを始めた。俺が入ったミニバスには一つ下の妹がすでに所属していた。通い始めは土日の早練が厭で、サボる為にあらゆる口実を使ったが、ある朝に母親が力づくで俺を引っ張っていった。どうしてあそこまで頑なに、半ばヒステリックに、むずがる俺を連行したのか。教育熱心なイメージがないからこそ、あの朝の母を、いまでも鮮明に憶えている。
俺は瞬く間にバスケットに熱中した。偶然にも、住んでいた