野風真雪(Nokaze Mayuki)

流浪の民。主にエッセイを書いています|心揺らぐ瞬間と人生☽ automatic→ht…

野風真雪(Nokaze Mayuki)

流浪の民。主にエッセイを書いています|心揺らぐ瞬間と人生☽ automatic→https://nokazemayuki.tumblr.com/

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"そうであったかもしれない"人生に想いを馳せる|映画『パスト・ライブス/再会』

東京発、福岡行きの飛行機。飛行時間から計算すると、今は四国の上あたりを飛んでるだろうか。遠く下に光る街の夜景をぼんやりと眺めながら、私は残りわずかしかない充電の携帯で音楽を聴いていた。 最終便の機内は、今日という日を終わりに向かわせる乗客たちで、しんと静まり返っている。そんな空間で、ぼうっと色々な考えに耽る時間が好きだ。 夜の飛行機では、普段よりも思考が一層自由になれる。スマホは機内モードに設定しているので、余計な通知や時事ニュースに邪魔されることもない。普段から脳内で色

    • アウシュヴィッツ=ビルケナウ強制収容所を訪れた記録

      約600万人のユダヤ人が殺された、第二次世界大戦時のナチスドイツによる大虐殺。20世紀は「大量虐殺の時代」とも呼ばれているが、今もパレスチナ・ガザ地区ではイスラエル軍による一般市民や子供たちに対して無差別攻撃が続いているなど、虐殺の歴史は決して過去のものではない。 私が東ヨーロッパを中心に約1ヶ月の旅をする中で、絶対に訪れたかった場所の一つが、アウシュヴィッツ=ビルケナウ強制収容所だ。 20世紀の歴史の中で最も暗い時代の一つを象徴するこの場所については、今まで多くの映画や

      • スリランカ・ニゴンボの魚市場で出会う、生と死とその中間

        舗装されていない道を自転車で走ること約30分、ようやく港に着いた。 前を走るドアや窓が開きっぱなしのバスや車、バイクから出てくる白い排ガスを浴び続けたせいか、目がひどく染みる。 道路では、獣のように強い意志を持ち一心不乱に進んでいく現地の人々の車やバイクの前では、私の自転車なんてカースト下位の下位に位置することになる。彼らは私の自転車スレスレを轟音と共に駆け抜けていくので何度も肝が冷えたのだけれど、私が出来るのは「お願いだから轢かないで欲しい」と心の中で祈ること、そして自転

        • ジャカルタのスラム街、そして30階の汚れたホテルの部屋から

          ジャカルタの貧困が最も見えると言われる、線路横のスラム街・コタ地区にお邪魔した。どこまで進んでも、インドネシア国旗と人々が日常を過ごす風景が続いていた。どこも初めて見る光景だけれど、不思議とどの道も違った印象を覚える。 子どもの数が多い道だったり、音楽に合わせて陽気に踊っている人がいる道だったり、殺されたニワトリが横たわっている道だったり......。 しばらく歩いていると、自分がどこの方向を向いているのか完全にわからなくなる。赤と白の国旗が揺れる賑やかな街角で、自分がど

        "そうであったかもしれない"人生に想いを馳せる|映画『パスト・ライブス/再会』

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          海と、その果てしなく深い蒼について

          海よ。 私はなぜ海に、ここまで心惹かれてしまうのか。 海にはなぜだか果てしない魅力がある。 でも、それだけじゃ足りない。 7月初頭、沖縄に滞在している間、ゲストハウスのお客さん達と連れ立って水納島(みんなじま)に遊びに行った。本島から水納島までは、フェリーに乗ること約20分間。休日だったためか船内は座りきれないほどの乗客がいて、みんな思い思いに夏を満喫している蒼い雰囲気が漂っていた。 水納島は、海の青さと砂浜の美しさで人気を集めている小さな島だ。ビーチでの海水浴を目的に

          海と、その果てしなく深い蒼について

          北海道の牧場で働いた時の話

          以前、大学を休学して山梨県の農園で働いていた時の話を書いた。 今回は、この少し前の時期の話になる。 前談時は遡ること2018年の冬。 私は1年間大学を休学し、大学生活の中では出来ない経験をしようと試みていた。その時一番興味があったのが、「生きること」を支える農業や酪農などの第一次産業だった。 私たちは、食物に生かされている。 大体毎日3食、ご飯を食べたり飲み物を飲んだりする。食物がなければ、生きていけない。 野生の動物達は、大半の時間を食物を探すことに費やしている。人

          北海道の牧場で働いた時の話

          「これは自分の物語だ」と思う作品のすべて|映画『わたしは最悪。』

          冒頭のシーンを見ただけで、恋に落ちる映画がある。 まるで「これは私の物語だ」と思い込んでしまうような。 その映画の空気感なのか冒頭シーンの撮影技法なのか、登場人物への突発的な感情移入なのか。この感情は、大層おこがましいものであることは分かっている。私は世界の端っこに存在していて、映画は私のための物語では決してない。映画の中の登場人物は大体私よりも美人だし、もがきながら結局何かを手に入れたりしているし、登場人物とも存在している場所が違う。 まあ「私の物語だ」と書き表してし

          「これは自分の物語だ」と思う作品のすべて|映画『わたしは最悪。』

          拝啓、元恋人のSNSチェックがやめられないあなたへ

          「見たとしても、絶対良いことは起きない。むしろマイナスしかない」 と知っているはずなのに、なぜか止められない。手が勝手に元恋人の名前を検索してしまって、見慣れたアイコンがヒットする。私のことなんか一ミリも触れているはずないのに、お気に入り欄まで丁寧にチェックする。 大丈夫、私もそうだ。 時間なんて、解決してやくれない。巷で流れている失恋の話も、ネットの情報も、所詮は他人の話。自分の状況とは全く違うし当てにならない。そんな偽物が溢れかえるこの世の中で今、唯一「正しい」のは

          拝啓、元恋人のSNSチェックがやめられないあなたへ

          『ヘイズ・コード時代』のハリウッド映画のすすめ 〜歴史を変えた名シーンの裏側〜

          かつて、アメリカ合衆国の映画界で『ヘイズ・コード(Hays Code)』と呼ばれる、映画の表現規定があったのをご存知だろうか。 『ヘイズ・コード』(プロダクション・コードとも呼ばれる)とは、1934年にアメリカで制定された”映画製作倫理規定”のこと。映画表現におけるセックスや暴力、反社会的行為などの表現を規制することを目的としていた。 コードが効力を失った1964年というと、今から約60年前。それより前の作品はいわゆる”昔の映画”として、あまり馴染みがないと感じる人も多い

          『ヘイズ・コード時代』のハリウッド映画のすすめ 〜歴史を変えた名シーンの裏側〜

          旅は人生、人生は旅...|映画『ロスト・イン・トランスレーション』

          旅と人生 ─。 その共通点は、虚しさと人との繋がりによって得られる輝きだと思う。 以前、日光・鬼怒川の伊藤園ホテルに一人で泊まりに行った時、こんなスリッパを見つけた。 バブルの香りが色濃く残る温泉街。寂れた街を散策して、一人帰ってきた部屋の中、「人生は旅」の一文が強烈な力を放ってそこに佇んでいた。 鬼怒川の伊藤園ホテルは、バブル期に多くの団体客で栄えた有名な大型ホテルだ。 過去伊藤園ホテルを訪れて楽しい時間を過ごした人々の生が集約されているかのような、彼らの人生がこ

          旅は人生、人生は旅...|映画『ロスト・イン・トランスレーション』

          一人を楽しめるのは“独り”じゃないことを知っているから

          大勢の人といる時間も好きだけど、一人になった瞬間にホッとする。 早足で家に帰ってきてシャワーを浴びて布団にダイブ。この瞬間が一番幸福を感じる。頭まで毛布を被り完全に一人きりの世界を作って、消費したエネルギーを充電する感覚。そして、やっぱり一人は最高だなと実感する。 そんな一人の時間が好きなんだけど、「独り」は苦手だ。 一人暮らしを始める時、一人ぼっちの家に帰るのが嫌だったので、マンション貸切型の大型シェアハウスに住み始めた。住民同士が交流を楽しむコンセプトの、海外の人も

          一人を楽しめるのは“独り”じゃないことを知っているから

          視覚的な何かを作る楽しさ〜コラージュ・アート作品紹介〜

          今回はいつもとテイストを変えて、今まで作ったものをいくつか紹介させていただければと思う。 時々突発的に視覚的なものを作りたくなる瞬間があって、そんな時はなりふり構わず道具を引っ張ってきて、絵を描いたりコラージュをしたりする。普段色や形でアウトプットすることはあまりないから、その過程が何処か心地よい感じがするのだ。 作品、と呼ぶと自意識的な部分が恥ずかしくなるのでそうは呼べないけれど、今回は今までのものをいくつかゆるく掲載してみる。 まず一つ目。As time goes

          視覚的な何かを作る楽しさ〜コラージュ・アート作品紹介〜

          大人だって夏休みが欲しいんだ

          会社員のまとまった休みといえば、年末年始か有給休暇の消化くらいしかない。(夏休みがある会社勤めの人はおめでとうございます) それでも、厚生労働省が実施した「令和2年就労条件総合調査」では、年間休日の平均日数は110.5日だったと言う。100日以上あるなんて意外と多いな……と思ったりするが、否。 そもそも「平日5日働いて2日休む」ルーティーンでは仕事の疲れは取れないだろう。土曜日は前日までの疲れを癒すのに精一杯で、日曜日も翌日仕事があるのであまりはしゃぐことはできない。たま

          大人だって夏休みが欲しいんだ

          ナンパ師のミソジニー|”恋愛弱者”男性は女性に何を求めるのか

          「ナンパ師」「即る」「スト値上げ」「メンテ」等。 Twitterのある界隈を見ていると、日常では目にすることないこれらの単語を数多く目にする。そう、ナンパ師界隈だ。 ナンパにまつわる武勇伝や、ナンパの成果、女性を依存させるテクニックなどツイートの種類は数多くある。 今や有名なナンパ師はSNS上で自分のコミュニティを作り、ナンパの方法を他の男性にも伝授する“教祖”となり、ナンパは一つの文化となっている。 街中でも誰それ構わず声をかけている男性達の姿を多く目撃する。 n

          ナンパ師のミソジニー|”恋愛弱者”男性は女性に何を求めるのか

          不安で眠れない夜には、SNSがやさしく寄り添ってくれる

          ひたすら情報で脳内を埋め尽くす。Youtubeをバックグラウンドで流しながら、Twitterやgoogle検索を徘徊する。視覚も聴覚もフルに稼働させて、思考の余地を与えないーー。 これが、私の眠れない夜の過ごし方。 真っ暗な部屋で、布団の中でブルーライトだけが明るく光っていて、私は画面を永遠にスクロールしている。 不安で押しつぶされそうな夜には、何も考えない方が良い。何かを考え出すと、考えた分だけ辛くなるから。目の前に次々と現れる文字や画像の情報を頭の中で処理していると

          不安で眠れない夜には、SNSがやさしく寄り添ってくれる

          飲み会翌日のひとり反省会について考える

          楽しかった飲み会の翌朝。ベッドフレームに置いていたコップの水を口に含んで喉を潤す。ぼんやりとしていた思考が現実世界に戻ってきた途端、昨日の記憶が蘇ってくる。それも悪い場面が走馬灯のように。 ずっと記憶はあるし、別にそこまで酔っていたわけではない。でも自分の言動を思い返して見ると、色々と最悪だったことに気づく。 飲み会の後は、毎回「大反省」を開催してしまう。 後から自分を客観視すると、色々なこと(真実)が見えてくる。今更考えたって時を戻せるわけでもないからどうしようもない

          飲み会翌日のひとり反省会について考える