見出し画像

海と、その果てしなく深い蒼について

海よ。

私はなぜ海に、ここまで心惹かれてしまうのか。
海にはなぜだか果てしない魅力がある。
でも、それだけじゃ足りない。


7月初頭、沖縄に滞在している間、ゲストハウスのお客さん達と連れ立って水納島(みんなじま)に遊びに行った。本島から水納島までは、フェリーに乗ること約20分間。休日だったためか船内は座りきれないほどの乗客がいて、みんな思い思いに夏を満喫している蒼い雰囲気が漂っていた。

水納島の海。ビーチから歩いて5分ほどの場所から。

水納島は、海の青さと砂浜の美しさで人気を集めている小さな島だ。ビーチでの海水浴を目的に、毎年夏になると多くの観光客が訪れる。

それもそうだ。私も島に到着するなり、そのエメラルドグリーンと深い蒼に魅了された。どぶん。はやる気持ちを抑えきれず、私たちは思い思いにエメラルドグリーンの海に飛び込んだ。



私は、いつも海にくると欠かさずしていることがある。

まずは他の人から離れ、できるだけ海原まで一人泳ぎ出していく。
人がなるべくいない方へ。
そして、辺り半径10mほどの海に何も危険がないことを確認したら、背を下にして、水に浮く。そしてサンゴのように、両手両足を広げるのだ。

全身の力を抜いて、緩やかに全身を海に預ける……。
すると視界は全て空色になって、眩しい太陽の光に目を細める。


人間は体の2%が海に浮くと言う。それなので重力に身を任せ、顔と足先だけを水の上に出すイメージだ。そして、ゆらゆらとうめく波に体を委ねる。

そうやって海に浮かびながら目を細めると、瞼の隙間にクリスタルのように美しい光が見える。キラキラとした水色や白や太陽の色、真珠色の光。瞼の細め具合を少し調整するだけで、万華鏡のように光はその姿を変える。蒼い光の粒が、滲み出していく。

これは、この海でこの瞬間にしか味わえない、私だけの万華鏡。必要なのは、蒼い海とこの瞳だけ……。

時折高い波がやってくると、目に海水が入る。すると光はまたガラッと様相を変えてくれる。耳は海に浸かっているので、何も聞こえないのも良い。数分間の間、ただひたすら瞳の上の輝く光と、波の鼓動、体の浮遊感に意識を集中させるのだ。

身体を波に揺られながら、そうやって大の字になって、目を開けたり閉じたりしている私は、側から見れば奇妙なものだろう。


しかし、この浮遊感と自由の感覚がたまらなく愉しい。


海に来るたびに、私がこの遊びにほうけるようになったのは、あるフランス映画を観たことがきっかけだった。その映画は『アデル、ブルーは熱い色(2013)』である。

女性同士の激しい恋を描き、カンヌ国際映画祭のパルム・ドール賞も受賞したこの作品の終盤で、主人公・アデルが青い海に浮かぶシーンがある。

アデルは長年目指していた教師になるという夢を叶えた後も、元恋人・エマのことを忘れられず、どこか空虚な日々を過ごしている状況だった。教え子と共に海に来た際にも、もう戻れない2人の過去に思いを馳せてしまうような。そんなシーンでアデルは一人、海原へ泳いでいって波の動きに身を沈める。

アデルの元恋人・エマは青く染めた髪が美しい人だった。そんな元恋人を象徴するブルーの海で彼女が揺蕩うシーンは、果てしなく官能的で美しかった。

海は、果てしなく深く蒼く、美しい……。

しかし決して忘れちゃいけないのが、海はそのように美しく・優しいだけの存在ではないということだ。

海は時々によって、その姿をガラリと変える。
海は、味方にも敵にもなる。

昼間は沢山の魚たちの姿を見せてくれていたかと思えば、夜は恐ろしいほど暗く、吸い込まれてしまうような力を感じる。また海や波そのものの力も決して侮れない。

今回沖縄に滞在していた時に、もう慣れていたので大丈夫だろうと思い、少し波が高かったけれどライフジャケットをつけずに、一人でシュノーケリングに出たことがあった。しかし、足がつかない海原で急にマスクのゴムベルトが外れてしまったのだ。

ライフジャケットも何もつけず身一つで、かつマスクが壊れた状態で、海の真ん中にいることは初めてだった。その瞬間、海は急に敵に姿を変えた。一つ一つの波が私を溺れさせ、命を奪うほどの脅威となった。海のブルーは、急に他人のような冷たい色に変わった。波に何度も飲まれ、パニックを起こしそうになったけれど、必死で自分を宥めながら四苦八苦しゴムベルトをなんとか元に戻すことができた。

しかし、あの果てしない恐怖は、海に出る時には決して忘れてはいけないなと思う。強く、気高い海の上では私はちっぽけな存在だ。


海は、私自身の状態や見方によってもその姿を変える。

初めて訪れる異国の地の海は、その青色が輝かしい。
友人と泳ぎに行くと、魚達と共に暖かく迎え入れてくれる。
アデルのように一つの恋を失った時には、その波で優しく包んでくれる。
しかし、油断していると果てしない死の恐怖で身も心もさらっていく。

海よ。
私は、そんな海の虜だ。


P.S 水に浮くことが、新感覚リラクゼーションとして紹介されている記事がありました。この記事を読んでくださった方は、是非一度お試しくださいませ。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?