見出し画像

ジャカルタのスラム街、そして30階の汚れたホテルの部屋から

ジャカルタの貧困が最も見えると言われる、線路横のスラム街・コタ地区にお邪魔した。どこまで進んでも、インドネシア国旗と人々が日常を過ごす風景が続いていた。どこも初めて見る光景だけれど、不思議とどの道も違った印象を覚える。

子どもの数が多い道だったり、音楽に合わせて陽気に踊っている人がいる道だったり、殺されたニワトリが横たわっている道だったり......。

しばらく歩いていると、自分がどこの方向を向いているのか完全にわからなくなる。赤と白の国旗が揺れる賑やかな街角で、自分がどこに向かえばいいのか、どこに向かっているのか、そして何者なのかも忘れてしまうような。

異国の裏道で一人、私は残り充電が5%の携帯を抱えて、寂しいような、それでいて自由なような気持ちになった。

ジャカルタの街は非常にユニークだ。それは、ホテルの部屋からみても顕著だった。トタンで出来た家がずらっと並ぶ、いわゆるスラム街があるかと思うと、その横の横の道には立派な高層ビルがそびえ建っていたりする。


私が宿泊したのは、そんな高層ビルのホテルの一室だった。料金は一泊1,500円。写真の綺麗さと安さに惹かれて決めたのだけれど、夜中に到着した時に、チェックインカウンターに座っていたのは12歳ほどのまだ若い少年だった。真っ暗な受付。事前には聞いていたけれど、チェックアウトまで預かるから、とパスポートを取られると少し不安になった。

彼に渡された部屋の鍵が示していたのは、3017号室。建物の奥にあるエレベーターホールに歩いて行く。「Hi」と声をかけられて振り向くと、床にホームレスのようなおじさんが座っていた。ようやく来たエレベーターに乗ると中は真っ暗で、電光掲示板には何も映っていない。今何階にいるかがわからないのだ。永遠に続くような1分間を過ごしたあと、ようやく自分の部屋がある30階に到着する。

薄暗い廊下には、3001、3002、3003…と部屋が続いている。壁に貼ってあった避難経路図を見ると、四方に部屋がずらっと並んでおり、1階につき20部屋もあることを知った。単純計算すると、30階までで約580部屋ほどあることになる。


しかし不思議と、誰の気配もしないホテルだった。廊下は真っ暗で、何の音も聞こえない。受付の少年とさっき会った床に座っていたおじさん、そして私しかこの建物にいないのではないかとも思える雰囲気だった。

部屋の鍵を開け、薄暗い部屋に入ると、ぽつんとベッドがあった。

今日はここで眠れるのだ、と少し安堵する。虫が湧いていたシャワーには入らず、長時間のフライトで疲れた身体のまま、今日はそのまま眠ることにした。孤独を紛らわせようとつけた、バレーボールの試合を映したTV画面がぼんやりと光る部屋の中、浅い眠りに落ちた。


しかし朝起きて、バルコニーから街を見下ろした時の景色は圧巻だった。

足がすくむ恐怖と、知らない町の風景。朝日に照らされる家の屋根、木の緑、鳴り止まないバイクの音、強く吹き付ける風。何も遮るもののないジャカルタの広大な景色に、強く圧倒された。

私は、この瞬間の、この感動のために生まれてきたのだとも思える。それほど、ジャカルタの朝の町は強烈に美しい光景だった。

この新しい風景を、私はたちまち好きになった。

この記事が参加している募集

旅のフォトアルバム

夏の思い出

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?