カコ

東京都在住のニート主婦です。小説を投稿します。よろしくお願いいたします。40代です。

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最近の記事

コジ 第6話(完結)

第三章 再びマンション 11  目を開けると、一瞬自分がどこにいるのかわからなかった。  薄暗くて、常夜灯が点いている。背中にはやわらかいベッド。陽射しをたっぷり吸い込んで、あたたかい匂いがする。  ああ、いつもの寝室だ……と気がついて、そこでがばっと跳ね起きた。  部屋を見回す。誰もいない。  自分を見る。ぼろぼろだった。かろうじて、股間にどうやらかつてスーツだったらしきものをつけている。この服も、一緒に作られた仲間のどれよりも壮絶な最期を自分が遂げるとは、思っていなかった

    • コジ 第5話

      9  呆然とした薫が一人、取り残された。  姿はまるで原始人のようだ。幾度とない攻撃にさらされて、シャツもパンツもかろうじて文明人かな程度になっている。いつもワックスで整えている髪は、焼け焦げてぶすぶすだ。  ある種の風格さえ醸し出していた。  軍勢も八雷神も、あれほど恐怖に駆られて逃げ回ったのが腹立たしいほどきれいに消えてしまった。辺りを見回しても、激しい戦いの跡は見られない。 あるのは闇と静寂のみ。最初にこの世界に立ったときと同じように。どれくら い、そうして呆けていたの

      • コジ 第4話

        7  半分以上焼けたスーツの袖は、脱いで捨てた。ズボンの方も膝から下が焼け焦げ、下着サイズになってしまった。 「動きやすくなってちょうどいいや……」  爪に巻いた草の応急処置はとっくに剥がれてしまったが、痛みはもう感じなかった。  再び歩き始めた。 「奈美里ぃー」  呼ぶ声に力がこもる。それは薫がこの闇に来て初めてのことだった。醜女と火之迦具土に勝ったこと、この闇の中くじけずに奈美里を探して歩き続けていることが、薫に力を与えてくれた。  少し離れて、火之迦具土が後ろをついて

        • コジ 第3話

          5  腰を地面にくっつけるようにして座り込んだ。右手の指からは、しとしとと血が流れている。はぁー、はぁー、とゆっくり息を整えながら、流れる血を黙ってみつめた。  痛い。指の先がじんじん痛い。 「痛いぃーーー。痛いよぉー……」  こらえ切れずに声を上げる。だけど誰も来てくれない。左手でジャケットの内ポケットをまさぐると、かさりという紙の手応えがした。かさかさになった絆創膏が二枚、入っていた。痛む右手と左手でそれをめくり、右手の親指と人差し指に巻いた。血は絆創膏に赤い染みを作って

        コジ 第6話(完結)

          コジ 第2話

          コジ 第二章 黄泉国(よみのくに) 3  そこは、四方八方、天も地も、どこまでも果てしなく闇の支配する暗黒の世界だった。  下を見ると、足下にわずかな地面を見ることができ、かろうじて自分が立っていることがわかった。 だが見えたのはそれだけで、あとはただ黒一色。夜の闇よりなお暗い、光のかけらもない真の暗闇。  薫は呆然とした。もしや自分は目をつむっているのかと思って、ゆっくり瞬きをしてみた。すると、瞼(まぶた)の上下の動きを感じた。ということは、目をつむっているわけではないのだ

          コジ 第2話

          コジ 第1話

          あらすじ  薫は自宅に妻の奈美里の死体を見つけ茫然としていた。そこへ謎の男が現れ、無理やり闇の世界へ連れていかれる。ナキという男は「この世界のどこかに奈美里がいるから、見つけだして連れ戻せば生き返る」と言って消えた。わけがわからないまま闇の世界をさ迷い始めた薫。一方、死んだはずの奈美里も闇の中で謎の女ナミと出会っていた。奈美里は気がついた、ここは黄泉の国でナキとナミは伊邪那岐命と伊邪那美命だと。襲い来る敵をなんとかすべて撃破した薫は天岩戸を隔てて奈美里と再会する。だがそこで薫

          コジ 第1話

          時を越えて 第3話(完結)

          3  一ヶ月の時が流れた。浩介は再び終電に乗っていた。  この一ヶ月の間、リンのことを忘れようと努めた。だけどできなかった。リンは浩介の心から消えず、それどころか一層強くなっていった。 どこにいても彼女の姿がちらついた。絶えず彼女が笑いかけているような気がした。そして言う。軽やかな、鈴の音のような声で。 〝浩介。ねえ、私の名前を呼んで〟  リンが浩介の心に植えた花は、もうしっかりと根づいてしまったらしい。花は心の中に咲き、香りは優しさを振り撒いて。   そして浩介はもう

          時を越えて 第3話(完結)

          時を越えて 第2話

          2   その日は朝から雨が降り続いていて、夜になってもやむ気配はなかった。 「今日は、どうしよう……」  肩に当たる晩秋の雨が、身を切るように冷たい。このところの連日の終電帰りで、疲れも溜まっていた。 「やめておこうか……」  そう呟きながらも結局また、浩介は終電に乗っているのだった。やっぱり今日も、少女が見たい。一日逃したら、逢えるのは明日の終電。けれど同じように、少女が現れるとは限らないのだ。この不思議な現象は、始まったとき同様、突然終わってしまうかもしれないのだから。

          時を越えて 第2話

          時を越えて 第1話

          あらすじ  浩介はバイト帰りの終電の窓の外に不思議な光景を見るようになる。その中には不思議な少女がいた。少女は何者なのか、不思議な世界は何なのか。やがて浩介は理解する。少女の名前はリン、未来からきたタイムスリッパーだった。未来で人間は滅びようとしていて、リンの父親が、過去にいって幸せになるようリンをタイムスリッパーにしたのだ。だがそれは失敗で、過去に飛べたのは心だけだった。リンは消えようとしていた。浩介は、ありがとうと言う彼女に叫ぶ。自分もきみと同じになる、そして二人で幸せに

          時を越えて 第1話

          MASA 第5話 エピローグ

           健たちの連絡を受けて駆けつけたお母さんによって病院に運ばれ、佳亜は即入院となった。後で佳亜が「平将門の首を退治してきたんだ」と言ったら、お母さんは「あらそう。良かったわね」と言ったという。  さらにありがたかったのは、疲れきっている健たちと、死んだように気を失っている康子と早苗の面倒を見てくれたことだった。健たち四人をいったん車で佳亜宅に連れ帰り、健たちには風呂を、康子と早苗は体を拭いてくれ、それからそれぞれの家まで車で送ってくれたのだ。健も早苗の家は知らなかったのだが、「

          MASA 第5話 エピローグ

          MASA 第4話 決戦

          第四章 決戦  天気はこないだと同じようだった。夜の間ずっと窓ガラスをノックしていた雨粒の来訪者は、朝になってもあきらめていず、時折り思い出したように振っては、ぱらぱらとガラスを叩いている。空にはくすんだ色の雲が、遠くの山々をまたいで果てしなく続いていた。 「はい、健。これ」 「何、これ。何が入ってるの?」  前と同じように小山の入り口で集合すると、大和が何かの瓶(びん)を渡してきた。中を覗いて、健は思わず悲鳴を上げた。 「うわああああっっ」  危うく手から落としそうになっ

          MASA 第4話 決戦

          MASA 第3話 宗籐佳亜(そうとうよしあ)

          第三章 宗籐佳亜(そうとうよしあ)  夜遅くまで、雨滴が窓ガラスを叩くばらばらという音がしていた。朝になって雨は止んでいたが、空気の中に充満している湿気が、じっとりと肌にまとわりつく。上空には薄墨色の雲が、遥か遠くの山々の向こうまで続いている。  すっきりしない天気だった。足元の地面は、昨日の雨でところどころぬかるんでいる。なるべく乾いていそうなところを選んで、健は足を運んだ。   小山が見えてきた。大和がすでに先に来ている。だが健の目は、その隣にいる人物に釘つけになった。

          MASA 第3話 宗籐佳亜(そうとうよしあ)

          MASA 第2話 大和田大和(おおわだやまと)

          第二章 大和田大和(おおわだやまと)   給食が食べ終わるのも待ち遠しく、健は隣のクラスに急いだ。目当ての人間は、教室の一番後ろで本を読んでいた。クラスの子に頼んで呼んでもらうと、大和田は、健の姿を認めて怪訝な表情(かお)をした。当然かもしれない。  健と大和田は、一年のときに同じクラスだった。だけどほとんど口を利いたことはなかった。仲が悪いわけではなく、接点がないのだ。サッカー部という、自分で言うのも何だが運動部の花形に属している健に対し、大和田は、文芸部という何をやって

          MASA 第2話 大和田大和(おおわだやまと)

          MASA 第1話 滝川健(たきがわけん)

          あらすじ  中学二年生の健は最近妹の康葉の様子がおかしいことに気がつき、意を決して後をつけてとんでもないものを見つける。それは空中に浮かぶ大きな首、平安時代に新皇と恐れられた武将平将門の首だった。  同級生の大和に相談し、復活のために生命力を吸われているであろう康葉たちのために首退治を決意する。途中でスポーツ万能で外見の良い同級生の佳亜も加わる。  一回は失敗するが、対策を練り体制を立て直して再度挑み、康葉たちの妨害にあいながらもにわか知恵と中学生の勇気と機転とチームワークで

          MASA 第1話 滝川健(たきがわけん)

          silent love 13/13(短編小説)

           こんなところでも、と彼女は思った。  机の下で拳を握った。胸が震える。心が震える。熱いものが体の奥のほうで生まれて、伝って、身体中を駆け上がってくるよう。  こんなところでも我慢できたのは、恋人がいたから。恋人がいれば、いつかここから抜け出せる、と信じていたから。  鼓動が震えた。  顔が瞳が、熱くなって、濡れて。  彼女は声を上げてしまいそうだった。  もしかしたら私は、十年経ってもこのままなのだろうか。  正面を向いた彼女の瞳から、ぽろっと一

          silent love 13/13(短編小説)

          silent love 12/13(短編小説)

           翌月曜日、彼女は朝から上の空だった。仕事にも身が入らない。いつものように、向こうに立っている彼と想像の会話をすることも忘れていた。  隣の先輩の女子は、そんな彼女を横目でちらりと見たが、何も言わなかった。  彼女はただ呆けたようにして、目の前の世界をぼんやりと眺めていた。  先週までの彼女は、「こんなつらい職場にいても、遠くに愛し合う恋人がいる女」だった。だがもう、そうじゃない。  彼女は、こんな、同僚といえば意地悪な先輩の女子一人しかいなくて、仕事といえばたまに訪

          silent love 12/13(短編小説)