なぜ日本アニメは世界で「ひとり勝ち」できたのか

日本アニメの「別次元」


コロナ期後半に「鬼滅の刃」「すずめの戸締まり」「ザ・ファースト・スラムダンク」が、次々と記憶を塗り替える世界的ヒットを記録した。

現在のアメリカのアニメ「ザ・スーパーマリオブラザーズ・ムービー」の大ヒットも、日本アニメ文化の浸透と関連づけて論じられている。

ジブリ以来、日本アニメの世界的成功に、日本人自身が慣れっこになっているせいか、それらのニュースに対する国内の反応は、どちらかというと鈍いと感じる。

だが、コロナ期を通じて、日本アニメは「別次元」に入ったのではないか。

新海誠氏が「別フェーズに入った」という言葉で表現していることは、少し前に書いた。


上の私の文章は、主に出版市場に関連づけたものだが、もっと大きな地殻変動が起きている気がする。私はそれをとりあえず「世界のコミック化」と名付けた。

出版や映画興行の分野にとどまるトレンドでないことは明らかだ。例えば、これから日本を訪れる観光客の多くは、日本アニメに導かれて来る。そのことがどれだけ意識されているだろうか。

私は、ジャーナリズムもマンガ出版社に変えてほしいと書いた。


しかし、本当のところ「何が起きているのか」、私もよくわかないし、国内で十分に分析・論評されているとは思えない。


こうした問題意識は、海外でもある程度共有されていると思う。

例えばクーリエ誌で英国人記者は、フランスで2021年に売れたコミックの半数以上が日本マンガであることを指し、「アニメとマンガは世界規模の文化的勢力」になった、と論評している。

フランスはいかにして「世界最大のマンガ輸入国」になったか(COURRIER 4月15日)


中国での分析


そんな中、中国のポータルサイト「百度(バイドゥ)」に、「日本のアニメ映画はなぜ『飛び抜けている』のか」という論評が載った。

その内容を、昨日(23日)のRecod Chinaが紹介していた。


その内容が面白かったので、ここでも触れておきたい。

私は、前述の文章で、なぜ中国はアニメで成功できないのか、という問題提起をしたが、中国人自身がその理由を考え始めているのがわかる。

なぜ日本のアニメが「世界化」しているのか。

その論評によれば、日本アニメに以下の4つの長所があるからだという。

1 題材の多彩さ 「日本は文化が極めて内包された国で、アニメ映画はその文化の多様性を網羅し、伝統的な歴史の物語から現代的なSFまで、すべての作品が関わりあっている」

2 精密な制作過程 「アニメの制作過程において、日本の人々は常に完璧を求める姿勢と厳密な作業フローで有名。これが制作における堅実な柱として機能している。さらに細部へのこだわり、キャラクター作り、音楽の選定、シーンの構築など、あらゆる面から完璧な仕上がりを追求している」

3 人間に対する深い関心 「その多くは人類の文化と文明の角度から、人間性、社会、価値観など深い問題を追及している」

4 独特の芸術表現方法 「現実世界から離れた芸術形式として、アニメ映画はアニメーション、キャラクターの声、音楽、構成などのさまざまな要素からストーリーを表現する。同時に、個性的なキャラクターデザインといった方法を多く採用し、映画の表現と鑑賞体験を豊かにした」


なかなかの分析ではなかろうか。4の「独特の表現法」が曖昧だが、クーリエ誌のようにディズニーアニメとの違いを考察すれば、よりはっきりしただろう。


経験からの印象


私は漫画やアニメの大ファンというわけではなく、具体的なアニメ作品に照らして論じるほどの知識がない。また、出版業界でも活字畑だったので、専門的なことはわからない。

だが、傍目から見て、漫画業界は「異常」な世界に映った。

なんというか、いささか優雅で呑気な活字の世界に比べて、「死に物狂い」のブラックな世界に見えた。

活字のような「権威」がないだけに、売れ行きや人気投票に極めて敏感で、成績を伸ばすためには生活が破壊されても平気な感じだった。

そして、編集者と作家の密着ぶり、二人三脚ぶりは、すでに活字の世界では見当たらなくなった類のものだった。

かつては「しょせん漫画」「しょせん子供の読み物」という冷ややかな目もあったが、そんな目を一顧だにしない「漫画愛」を感じた。


ごくごく個人的な管見を述べれば、日本アニメは世界性を獲得しようと思ったわけではなく、結局、あのクレイジーで「ブラック」な死に物狂いの世界の中でそれが育まれ、いまの世界的な成功に結びついたとしか私には思えない。

上の2、4の製作的な部分は、中国はじめ外国でも模倣できるかもしれない(実際に、日本のアニメは中国人をはじめ外国人のアニメーターを使っていた)。でも、1のような原作レベルでの独創性や総合性は、すぐには真似できないし、日本でも持続できるか分からないと思う。

以前の文章で書いたように、「日本の優位」がいつまでも続かないのは経済のならいだと思うし、成功にあぐらをかいて権利ビジネスばかりやるようになったら、終わりは早く近づくかもしれない。しかし、そうなれば、今度は外国のアニメを競争相手として、新たな時代を築いてほしい。

日本アニメの「世界化」がどこまで進むのか、楽しみに見守りたい。




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