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四季詩集

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2020年2月の記事一覧

四季詩集(3)

四季詩集(3)

大木実『屋根』
日暮らしのつとめに疲れ
帰っていくわたしを待つものは母ではなかった
ひとつの部屋であり
暗くなれば点るあかりであった

 冒頭から親近感を覚えるような言葉で始まります。会社勤めの独り暮らしで、誰もいない部屋に帰っていく景色は、現代人にとって容易に想像がつきます。日暮らしのつとめに疲れという言葉に共感するひとは沢山いるでしょう。しかし、この詩はもっと深い孤独を詩っています。
 この詩

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四季詩集(2)

四季詩集(2)

乾直恵『梢』
陽の光が地上に描き出している
彎った枝の影(なり)は、
あれは、私の意思の姿(なり)だ。

 葉を散らし尽くした樹木が、寒空に佇んでいる描写に始まります。彎った枝の影を自分の意思に例えていることから、迷いの感情が感じられます。そして「誰にもうち開けようのない愁しみ」という言葉が続いたかと思うと、到頭思い余って何かを決心します。文脈から何かを長い間思い悩んでいたことは推察できますが、何

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