「役者は一日にしてならず」 風間杜夫編
春日太一さんの著書「役者は一日にしてならず」の読書感想文を書いています。
この本は、何が親切かって、インタビューの順番が誕生日の早い順に並んでいること。
平幹二朗から始まって、15人目の風間杜夫の誕生年は、平幹二朗の誕生から約15年が経過している。
この15年間のあいだに、日本の世情も変遷し、映画や舞台の世界も世情に巻き込まれていた様子を、インタビュー冒頭から感じ取ることができた。
そして風間杜夫は児童劇団で演劇を始めたのち、東映の児童演劇研修所に所属して中学に入るまでは子役として大活躍していた。
これも、今までインタビューで出てきた俳優たちとまた一種違った歩み方をしている。
中学から大学に入るまではもっぱら一般人と変わらず、しかし友達と舞台を見に行くなどするうちに、時代劇スターよりも舞台役者になりたい気持ちが大きくなり、進学も演劇サークル目的で決めるなど、役者として生きてゆく意思はずっと続いていた。
バイトしながら、多い時は年に五本も六本も芝居を打っていました。テレビに出たいとか、売れたいとか、もっと金を儲けたいとか、そういう欲はありませんでした。ただ芝居をやっていれば幸せ、みたいな。
…とにかく演劇には、そういう喜びや幸せがあるということが伝わってくる。
大竹まこと、きたろう、斉木しげるの名前が出てきて、あぁ彼らはシティボーイズとしてコントをしていたなぁ!と記憶が蘇ってきた。
「大友柳太朗に可愛がられた」という文章を読んでいたときにはずいぶん昔から活躍していたように思えたけれど、シティボーイズが出てきて一気に時代が進んだように感じられて不思議だ。
風間杜夫と言えば、映画「蒲田行進曲」が印象に強いけれど(でも私は観たことがない)、このインタビューを読んで、この作品は深作欣二監督が映画化する二年も前から、つかこうへいが舞台で上演しつづけてきた作品なのだと知った。
つかこうへいという方も失礼ながら全然存じ上げなかった。
しかしインタビューを読んでいて、新作舞台は台本を作ってくるのではなく、稽古しながらセリフをその場で作ってゆく『口立て』という方法で作ってゆくなど、読んでいて、ただただ驚いた。
そんなことが!
…いやはや、おどろくばかり。
この、風間杜夫が語る、つかこうへいらと共に過ごした時期の話は、きっと俳優さんたちの参考になる事だろうと思えた。
そこから深作欣二監督とのエピソードに移り、東映京都での体験も興味深かった。
若山冨三郎に教えてもらった話。
森繁久弥に教えてもらった話。
それぞれに感動しますし、続いて日本テレビで風間杜夫主演で「銭形平次」を撮影したエピソードでは、大川橋蔵の平次に近づきたかったという言葉に感激しながら読みました。
橋蔵さんは座布団に正座して座る時もただ座らずに裾を払ってから座るんですよ。そういう動きを記憶していました。それから、畳の縁は踏まないとか、襖の開け方とか。
一番難しいのは走り方です。現代劇風に走ると時代劇に見えないんです。時代劇ではグッと腰を落として走る。昔の人が本当にそう走ったかは分かりませんが、時代劇にはそういう継承される芝居があるんです。
大川橋蔵のテレビシリーズ「銭形平次」の大ファンだった私にも、裾を払って正座する平次親分が目の中に残っています。あれは忘れようにも忘れられない。
腕の組み方とか。
キマってた。
…春日太一さんに、大川橋蔵インタビューをしてもらえていたら…と、つい思ってしまった。惜しまれる。
でもこうして、風間杜夫インタビューから、こんなにも貴重なお話を聞いてもらえたことは有り難すぎる。
そして更に、近年、落語をしている事が書かれていた。
小朝師匠も志の輔師匠も皆さん同じようなことをおっしゃるのですが、噺の中に出てくる人物を演じ分けない。
一つの役を際立たせるようなことはしない、と。
あくまでもガイドといいますか、お客さんに想像してもらう世界だ、と。
僕もそうなんですが、俳優さんが落語をやるとら、とかく演じすぎちゃうんです。
これには、ウーーんと唸らされた。
なるほどねぇ〜。
…となると、私の朗読は、落語っぽい話でも、落語より演劇寄りなのかな…と思ったり。
朗読も、読み手さんによって同じ本でもかなり聴いた印象が変わるもので。聞き手の想像を妨げないよう、あまり感情を込めずに読む人が大半を占めているなか、私はどちらかと言えば私の解釈した世界を一緒に体感してほしいような気持ちで読んでいるから、聞き手にストーリーを想像させる前に訴えてゆくし、もし既に知っている作品ならば壊してゆく朗読をしているかもしれないと思った。だから良い•悪いということもなく、そう思った。
そしてインタビューの最後には、「役」に対する捉え方や、俳優にとって一番必要だと思うことが書かれていた。
子役•演劇•ロマンポルノ•時代劇•現代劇•アイドルとトレンディドラマ•サスペンス•落語…‼︎
こんな稀有な存在だったとは。
改めて、俳優というもののすごさ、そしてこの本の凄さを痛感する。
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