特集・子育てと教育を日加比較してみた
カエデの子どもたちは現在カナダの大学生です。今月号では子育てや教育を振り返り、10項目について日本とカナダの特徴を比較してみたいと思います。
1.夫の家事育児参加
夫の家事育児参加を比較すると、日本人男性の家事育児時間が極端に短いことがわかります。
グラフでは少ないながらも日本人男性が家事育児をしているように見えますが、実は8割の男性が家事時間ゼロ,7割が育児時間ゼロの「ゼロコミット男子」だそうです。その割合は妻が専業主婦でも働いていても変わらないそうです。
カナダでは日本のような妻のワンオペ育児は考えられません。私は子どもを日本で産みました。夫は娘が生後5か月の時に1人でカナダに里帰りしましたが、育児は慣れたもので1人でもまったく問題ありませんでした。また、パーティでカナダ人の夫たちが輪になって何か楽しそうに話しているのを聞いてみると、スーパーのお買い得情報やお気に入りレシピの交換だったりします。
2.保育費
日本の保育費のほうが断然安いでしょう。カナダの保育費は先進国の中でもとても高く、特に私の住むトロントはカナダで最も高額で、子ども1人平均月額1,685ドル(15.3万円)かかります(CTV News)。子ども2人が小さかった20年前はそれよりは安かったですが、それでも共働き夫婦の私のほうの給料はほとんどが保育費に消えていました。
日本は世帯収入や市町村で様々ですが、共働き家庭なら子ども1人につきに4~5万円くらいではないでしょうか。市町村によっては待機児童の問題もあるでしょうが、カナダも育休後の保育園や保育費をどう工面するかは大きな問題です。
3.子どもの安全
カナダは子どもの安全には神経を尖らせ、危険だと思われれば他人でも積極的に通報します。日本は治安の良さゆえ小学1~2年生でも子どもだけで登下校させますが、カナダでその年齢の子どもを1人で外を歩かせると罪になります。日本で私立に通学する小学生が1人で電車に乗る姿は外国人には驚異ですし、歩行者の交通事故の死傷者は徒歩通学中の1~2年生が最も多いことは案外知られていないのではないでしょうか。
カナダでは小学5年生くらいまでは必ず保護者やベビーシッターがついていなくてはなりません。子どもだけの留守番もダメで、共働きのわが家は人を雇って学校まで迎えに行ってもらい、アフタースクールまで送り届けてもらっていました。日本のように赤ちゃんや幼児が寝ている間に置いて買い物などに行くと、近所の人に通報されて警察が来るという事態になります。
4.子育て世代への寛容度
日本からカナダに移住した子育て世代は、子どもに向ける目が日本と違って優しいと言います。カナダ社会は子どもに関しては寛容です。会社の上司や同僚は、子どもの病気はもちろん、学校での面談や子どもに関する用事で欠勤や早退することに寛容です。特に子どもが病気の時は「早く帰りなさい」と周りから促されます。
日本でラッシュ時にベビーカーで電車に乗ると舌打ちされたり面と向かって迷惑だと言われたりするようです。これは余裕のない社会は子どもにさえ寛容になれないことを表しています。私は1人で2人の幼児を連れて日本に里帰りしたことがありますが、機中で隣に座った中年のカナダ人男性が子どもにご飯を食べさせてくれたりと、ずっと世話をしてくれた温かい思い出があります。
5.服装の自由
日本の学校の極端な服装や頭髪のルールは本当に必要なのでしょうか。地毛証明書などは度を超しているように思います。
カナダの公立学校には制服はありません。それどころか、ピアス、化粧、タッツーもOKです。短すぎるスカートや胸が大きく開いた服は注意されることもありますが、あまり厳しいと生徒が抗議するのがカナダ流です。基本的に学校に生活指導の責任はありません。服装の自由は教師も同じで、ビジネスカジュアルが主流でスーツを着る教師はまずいません。タッツーを入れたり髪を紫に染める教師もいます。
カナダの女の子は小学生でも化粧をする子がいます。幼い顔に似合っていなくても自己主張の一部なのでしょう。それが高校生くらいでマスカラの量がマックスになり、大学に入ったとたんパタンと化粧を止めてしまいます。勉強が忙しいというのもあるのでしょうが、やるだけやったら気が済むのかもしれません。社会人でも日本のようなバッチリメークの人は少なく自然体が多い印象です。
6.教育レベル
PISA(ピサ)という15歳を対象にした世界的な学習到達度に関する調査では、日本もカナダも常に上位に位置しています
カナダは読解力、日本は数学や科学の学力の高さが際立っていますね。しかし、カナダの教育で私が最も心配したのが数学です。大人でも計算機がなければ簡単な掛け算や割り算もできない人がいます。オンタリオ州の調査では、小学6年生の半分が算数の標準レベルに達していないという結果が出ています。私は日本レベルの数学を身に着けさせるためにも子どもたちを補習校へ通わせました。
また、日本では家庭科や水泳など、生活に必要だと思われることは学校で教えてくれますが、カナダでは教えてくれません。音楽の時間も歌を歌うだけだったりします。ですので、親が水泳教室や音楽教室に連れて行かなければならず、生活に余裕のない移民の子どもは一生泳げなかったり楽譜が読めなかったりします。
7・多文化多言語教育
多様性教育に関してはカナダのほうが進んでいると思います。文化的によく似たお隣のアメリカは移民もアメリカ人になることを促されるメルティングポットですが、カナダは移民の文化や言葉の保持を奨励するモザイク社会です。私がカナダで子どもたちに日英仏の3か国語教育ができたのもこの多文化教育のおかげです。
カナダではフレンチイマージョンという公的な英仏語バイリンガル教育を受けられます。このフレンチイマージョンがなければ、フランス語話者でない私たち夫婦が子どもたちに日本語にプラスしてフランス語を身に着けさせるのは難しかったと思います。
また、カナダには市民講座や学校カリキュラムに様々な語学クラスを設ける自治体があり、外国語や自分たちの民族の言葉を学ぶ姿勢は賞賛されます。多文化を受け入れることはカナダ人の誇りであり他者に寛容になることを子どもたちに教えます。日本も外国人を受け入れなければ社会が成り立たない時代に突入しました。カナダの多様性を尊重する姿勢は参考に値すると思います。
8.ジェンダーによる教育差別
日本が世界男女平等ランキング156か国中120位に位置することはご存知だと思います。カナダは前回から5位下げて24位です。
カナダでは家庭医の半数が女性で、専門医も年々女性が増えています。わが家の家庭医も女性で、彼女の育休中は代わりの医師が入り特に困ることはありませんでした。日本では女性医師は男性医師より使いにくいという理由で、医大が入試で女子をわざと落とすことが慣例になっていたという驚くべき差別があります。しかし、女性医師が働きにくいのはシステムの問題であり女性医師の責任ではありません。
日本での女子への教育差別は子どもの時から始まっています。「女の子はどうせ結婚するのだから勉強はほどほどでいい」、「高学歴高収入の女性は男性から敬遠され結婚できない」などはカナダで聞いたことがありません。私は日本の女性差別を娘に経験させたくないがためにカナダに移住しました。
9.受験戦争
人生に少なくとも2回受験のある日本と違い受験戦争がないのがカナダです。大学は高校3年次の成績で決まるので本格的に勉強モードに入るのが高2くらいからで、それが受験といえば受験です。
カナダには私立の小・中・高校はたくさんあります。ただ、日本のように公立が良くないから私立に入れるという話はあまり聞きません。しかし、公立学校のレベルについてはカナダ人の親も敏感で、学校の学力テストの順位やどこに引っ越せばどの学校に入れるかという情報はカナダも情報戦です。
わが家は共働き家庭でその上3か国語教育と習いごとがありたいへん忙しかったのですが、そのようなプレッシャーがなければ高校卒業までは結構のんびりできるのがカナダではないかと思います。受験がないことは好きなスポーツやクラブ活動、趣味に熱中できるので、子ども時代を子どもらしく生活できる気がします。
10.進学率
日本の高校卒業生の大学・短大への進学率は58%です。4年制大学への進学率は54%なので進学者のほとんどは大学に行くようです(文科省2020年)。カナダの統計の取り方は少し違っていて、25歳~64歳の人口のうち高等教育を受けた人は68%で、4年制大学の学位を持っている人は31%となります(Statistics Canada 2020年)。
カナダに大学は97校ありそのほとんどが州立です。一方日本には781大学ありその8割が私立です(2020年旺文社調べ)。世界大学ランキングにカナダの大学が5校、日本の大学は2校トップ100入りしています(Times Higher Education 2021年)。カナダは4年制大学こそ多くありませんが、その代わり仕事に直結する公立短大のプログラムが豊富で、それがカナダの進学率を上げています。
カナダの教育は高校までののんびりムードを大学で一気に挽回するという感じです。大学では学期中はレポート提出と試験が目白押しで勉強漬けとなります。日本のように、大学は社会人になる前の最後の子ども時代であり、サークルやコンパ(死語?)など学生生活を謳歌するための場所という位置づけではありません。
人生のやり直しができるカナダ
日本とカナダの子育てや教育を比べてみましたがどのように感じたでしょうか?カエデは社会システムの違いや国民性が、子どもの育て方や教育に影響していると感じました。カナダは日本と違い新卒一括採用がなく中途採用が主流であることや、何歳になっても勉強をやり直して転職が可能なことから人生プランの変更も比較的容易です。よって子どもを急き立てる必要がなく、子育てに余裕を持てるのが最大の特徴ではないかと思います。
この記事はカナダ日本語情報誌『TORJA』連載コラム『カエデの多言語はぐくみ通信』2021年6月号に寄稿したものです。 https://torja.ca/kaede-trilingual-16/
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