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vol.13 ヘルマン・ヘッセ「車輪の下」を読んで

初めてのヘッセ。ドイツの作家。第一次世界大戦前の1906年の作品。

詩的な描写がたくさんあって、さすがにノーベル文学賞作家の文章だと思った。けども、あまりにも悲しい結末にどっと気分が落ち込んだ。取り返しのつかない罪がハンス少年の周辺にあると感じた。ハンスのような少年はどのようにしたら生きられるのかと考えた。今の日本でも似たような子どもたちを作り出しているように思う。

岩波版の解説に、「大人の無理解、利己主義という、残酷な重たい「車輪の下」で、あわれにもあえぎ続けながら、とうとうその圧力に潰されてしまう少年の運命」とあった。

主人公のハンス少年は、街で一番の秀才だったために、周囲の期待を一身に背負い、猛勉を強いられた末、超一流の神学校に二番の成績で合格する。夢と希望を持って入学したけども、勉強ばかりの教室と規律ばかりの寄宿舎生活に嫌気がさし、先生から奇人扱いされ、多感な友人関係にも疲れ果て、学業からも落ちこぼれ、精神衰弱になり、休学して故郷に帰る。

ハンスは幼い頃に母親を亡くし、無教養で無理解な父親と暮らす中で、ずっと孤独を感じていたと思う。たまたま頭がよかったために、校長先生や牧師からも期待され、本人は大した意思もないままに、猛勉を強いられる。

ハンスは自然の中でのんびり過ごすことが大好きなのに、楽しみにしている魚釣りやウサギを飼うことを禁止されながらも、期待に応えようと、勉強ばかりの子ども時代を過ごす素直な少年。

ハンスはチョコレートが嫌いなのに、おばさんから差し出されると断れきれなく、一口食べたあとでこっそり投げ捨てる、気の弱い自己主張のできない少年。

ハンスは年上の経験豊富な女性にもてあそばれながらも、恋に落ちてしまう純粋な少年。

神学校を追われて故郷に帰って歯車修理工見習になるが、職場仲間に「州試験工員」とからかわれるが、ただ足を早めるだけの少年。

ハンスはずっと居場所がなかったと思う。
自分を主張できないから、いつだって周りに流され、なんとかこの環境に慣れようと頑張るけども、もともと本当の自分がわからないから、だんだんと疲れがたまり、神経衰弱になっていく。

この小説、思春期の孤独と苦しみの果てに破滅へと至る姿を描いたヘッセの自伝的物語らしい。実際、ヘッセは文学に救われたけど、ハンスはあまりにも悲しい。

これは単なる教育制度の批判ではなく、大人の無理解と利己主義が、清く、優しく、美しい、子どもたちをつぶしてしまう現状を問うている作品だと思った。当時のドイツは帝国主義的な軍国主義教育で、国立の神学校はすべて無料の代わりに、卒業後は国のために働くことになる。今の日本にも「車輪の下」にいる子どもたちがたくさんいると思う。

僕はハンス・ギーベンラート少年を忘れない。
「年に一度は読みたい作品」が増えた。

追伸、最近乙武洋匡さんが「車輪の上」という本を出しているけど、ヘッセのこれと関係ないよね。


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