【腸脳相関】腸と脳の間でさまざまな情報を交換〜腸内環境が精神不安定や不眠、アレルギーなど幅広く影響〜
【腸は排泄するだけの器官ではない】
近年「腸脳相関」という言葉を耳にするようになりました。例えば、
●ストレスを感じると腸内細菌のバランスが大きく変わる
●腸内環境が悪いと精神トラブルが起こりやすい
など、腸と脳とは密接に情報交換が行われており、胃腸は栄養吸収・排泄するだけの器官ではないということが科学的にも分かってきています。実際に、日本ADHD(注意欠如・多動症)学会でも、過去に腸脳相関と発達障害との関係性などを題材とした内容のシンポジウムが開催されており、精神的トラブルも決して脳だけの問題ではないことが少しずつ解明されているようです。
さらに言うと、肝臓や腎臓、副腎、免疫系などの全身の臓器の細胞も含めて巨大なネットワークが形成されています。これは東洋医学の考え方と一致することも多く、各臓器や器官がつながっているため、局所を見るのではなく、体を広く総合的にみていく視点が病気や症状の改善の大きな糸口になります。
【感情の揺らぎを整えるため、体からアプローチ】
腸内環境が荒れていると心が荒れて感情に波が起きやすく、胃腸が弱い人はなかなか決断できないといわれます。
東洋医学では昔から、五臓と性格(五志)の関係性について
①胃腸が弱い人はくよくよ悩みやすい
②肝が弱っている人は怒りやすい
③腎が弱い人は驚きやすい
④心は喜びの感情と結びつきが深く、興奮して眠れない、動悸、血圧が上がりやすい
⑤肺はもの悲しくなりやすい
といった傾向があると考えます。感情の揺らぎを整えるために体から整えるというアプローチをしていきます。
精神トラブルだけではなく、不眠、生理不順などの婦人科トラブル、不妊症、皮膚トラブル、アレルギー、貧血などが、胃腸からケアすることでよくなっていくということは東洋医学ではよくあります。
【消化器官は外界とつながっている⁉】
医師である桐村里紗さんの著書には「腸は自然界の延長にある」と書かれています。人間の体は、よくちくわに例えられますが、胃腸などの消化器官は体の内側にあるように見えて、実は外界と触れ合っています。
現代人の腸内環境が悪くなってきている原因の一つに、地球上の土が化学物質などの影響で痩せてきて、微生物との共生に問題が生じてきている可能性が指摘されています。今の時代は至る所を殺菌除菌しますが、巡り巡ってそれが人間の土壌である腸の力を落とすことも懸念されています。
ちなみに帝王切開によって生まれた新生児を出生時に母親の膣液に含まれる微生物に曝露することで、自然分娩で生まれた新生児とよく似た腸内細菌叢(腸内フローラ)へと発達することが明らかになっています。膣液中に存在する微生物は、皮膚や口腔、消化管に定着し、免疫系の発達に影響を与え、それ以降の代謝や免疫機能を大きく左右するそうです。生後3カ月から1歳2カ月ごろまでに腸内細菌は大きく発達して、3歳までに腸内環境は決まると言われています。赤ちゃん色んなものに触れ、その触れた手をしゃぶったり、舐めたりすることは腸内環境構築のためには大事な行為で、過度な除菌はむしろ弱い身体になってしまう可能性があると言えます。
【腸内環境が脳内ホルモンの合成に重要】
食べたものは胃で消化され、腸や小腸で分解され、腸内細菌がそれを発酵させてビタミンやミネラル、アミノ酸、有機酸などの栄養を吸収します。精神安定のためには脳内物質(セロトニン・ドーパミン・ノルアドレナリン)などのホルモンの分泌が重要ですが、そのホルモンはタンパク質(アミノ酸)から生成され、その生成のためにはビタミンやミネラルが必要不可欠です。セロトニンは別名「幸せホルモン」とも呼ばれ、精神安定と深い関わりがある神経伝達物質ですが、その90%は腸にあり、脳にはたった2%しかないとも言われています。セロトニンは腸にあるEC細胞と呼ばれる細胞によって生成されますが、腸内細菌がこの合成に関係していることも分かっています。
脳内ホルモンに必要なミネラルは元々吸収しづらいので、腸内環境が悪い人はうまく吸収できず、ミネラル不足になります。現代人は偏った食事などからミネラル不足が起こりがちです。その上に腸内環境の悪化に伴う腸の吸収力不足が起きれば、抑うつ感、不安症、やる気が出ない、朝起きられないなどの精神トラブルの疾患が増加の一途を辿るのは必然なのかもしれません。
【腸の健康のための10ヶ条】
健康は腸内細菌叢(腸内フローラ)のために、取り組みたい生活習慣
1 発酵食品や乳酸菌製剤を取り入れる
※ただし、乳酸菌製剤はその乳酸菌自体が各々の腸にとって必要な菌であるかは別問題ですので、腸内フローラ検査などを実施するの良いでしょう。当店では乳酸菌生成エキスを積極的に活用しています。
2 腸の掃除をしてくれる食物繊維(大豆や海藻など)を積極的に摂る。
※肉魚などの動物性タンパク質は悪玉菌の餌になり腸内環境を悪化させると言いますが、一方で植物性タンパク質よりも脳内に栄養源となりやすいので、脳との関係を考慮するなら、肉魚なども適度に摂取しましょう。
3 よく咀嚼して、腹八分目
4 間食などの余分な糖質を控える。できれば主食も精製されていないものならより○
※腸内に生息するカンジタ菌は糖を餌にして過剰繁殖すると、腸粘膜に侵入し、それに免疫が反応して炎症を引き起こし、アレルギーの元を引き起こします。
5 ウォーキングなど適度に運動をする。腸をひねるストレッチや筋トレなどの運動も○
6 抗酸化作用の高い緑黄色野菜やフルーツ、綺麗な油を摂取する
7 夜遅い食事を控える
8 しっかりと睡眠を取る
※リラックスしていると副交感神経が優位にたち、腸の働きが整います。眠っている間は交感神経のスイッチがオフになり、副交感神経が優先されます。
9 毎日湯船に浸かる、冷飲冷食を控える
※お湯に浸かり温めることで腸が活発になります。またお風呂の水の圧力も腸に刺激を与えてくれます。腸や内臓には冷たいものはお勧めしません。常温の水でさえも、いきなり頭から被って心地良い人などいないのと同じです。
10 よく笑う
※睡眠と同様にリラックスしていると腸の働きが整います。そのリラックスに即効性があるのが「笑い」です。笑いには免疫増強効果もあり、2018年に大阪国際がんセンターで、患者や看護師など120人を対象にした研究が行われ、笑いによって免疫細胞が増加し、緊張や抑うつ・疲労などの心身の状態が改善したという報告があります。
とはいえ、忙しい現代人にとって上記の10項目を完璧に実践するのは決して簡単なことではありません。ご自身でできることから少しでも取り組んでいくのが良いでしょう。
また腸活に漢方を活用するのも方法の一つです。その場合は、健脾(消化器系を高める)作用のある処方をお近くの漢方専門の医師・薬剤師に相談するのが良いでしょう。種類がたくさんあるので、自分に合ったものを提案してもらうのが得策です。
他にも、山楂子、麦芽、神曲(小豆や小麦等を発酵させたもの)の3種の植物性発酵物を原料とする生薬で構成された「焦三仙(しょうさんせん)」を活用するのもお勧めです。
・山楂子(さんざし)は胃液中のアミラーゼ、脂肪分解酵素などを増やし、特に肉類や脂っこい物の消化を助けてくれます。
・麦芽(ばくが)は大麦の発芽させたもみを乾燥させたもので、アミラーゼ、転化糖酵素、たんぱく分解酵素、ビタミンB,C、脂肪、レシチン、麦芽糖、ブドウ糖等が含まれ、主に米や麺類などのデンプンを消化してくれます。
・神曲(しんぎく)には、ビタミンB群、酵素、タンパク質、脂肪などが含まれ、主に酒、食積(未消化のまま残ったもの)を消化するといわれています。
コロナの終息も目前となりましたが、一方で、ここ数年ストレスを多く抱え、精神疾患の患者さんや自殺者が増加しているのも事実です。
腸と脳の関係を知ってもらうことで、精神トラブルで悩まれている方々の改善、緩和に繋がって、元気な社会が1日も早く戻ってくることを願うばかりです。