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「石」になりたい

20231031

昔、「石」になりたい、と思ったことがある。
『迷子の王様』より

『私は、「石」になりたい、と思うことがある』と、言った子がいた。

かわいい子とか、きれいな子になりたいではなく、「石」。

それは、もはや、生命体ですらない。

えっ「石」と聞き返した。

私の想像の遥か彼方であったので、その後、何を話したかは、覚えてない。

全く理解ができず、もはや、日本語ではない言葉で、話されているような内容だった。日本語だという程を為していても、意味が全く理解できない言葉が、存在する。

それは、もちろん、今でも、全く理解できない。無機物への憧憬、それは、有機物としての存在の否定なのか、失望なのか。

死にたいといった、生半可な苦悩ではない。無機物として、半永久的に存在するという、圧倒的な絶望、もはや、絶望でもないかもしれない。

生命体が存在する前の世界。

想像すらできない世界。

海はあれども、山はない、生命体である木はない。

空はあり、雲もあるが、鳥はいない。

太陽はある、月もある、星もある。

そして、大地には、砂と石か。

でも、本当に、それくらいか。

数えることができるくらいにしか、対象物が存在しない世界。

そこの住人たりたいと。

もしかしたら、それはそれで、素敵な世界なのかもしれない。

死がなく、動くこともなく、ただ、その場所に半永久的に存在し続けるという、もはや、悟りと言っても過言ではない世界だ。

彼女が、本当は、そのとき、どんな気持ちで、「石」になりたいと、言ったのかはわからないけれど。





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