天婦羅素数

活字中毒気味Photgrapher Imagine教 ミスリム原理主義

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最近の記事

鉄紺の朝 #44

往還 2  谷を抜けると、森にポッカリと口を開けたような山里が開けて、小さな宿場がある手前、梓の目に一挺の駕籠が映った。筵の垂れが下ろされ誰が乗っているのかは分からなかった。  「待たれい」  梓が背後に近づき、呼び止めたが、気づかぬふりで、そのまま、えっほっと担いでいる。  さらに、梓が近付くと、  チリリン、チリリン  駕籠から熊避けの鈴の音  徐に駕籠の横に跳び、筵を切り落とした。  「なにしやがんでい」  流れ者の雲助か、後ろを担いでいる男が威勢のいい声をあげ、駕籠

    • 鉄紺の朝 #43

      往還 1  鶴子と千江のいる瀬戸内から、山陰の御城下まで十数里の往還は、幾つかの峠を越える山道続きである。参勤の要路でもあるため、諸処石畳が敷かれ、行き交う人も少なくはない。五重の尖塔を垣間見て、一の坂を上り、峠を越えるあたり、碧碧とした雑木林の間から、遠く峰続きになった山稜が春に霞み、淡く溶けているのが望める。  道はやがて山峡へ続き、沢の流れに沿って延びている。僅かばかりな岩場の上に小ぢんまりと茶屋があった。裏手には淵があり、覆いかぶさった樹枝から、冠を戴いた山翡翠が獲

      • 鉄紺の朝 #42

        いざ決戦 7  「ドッボン!」  その音に海でずぶ濡れになって争っていた二人も、動きを止めた。  「一角さんじゃないか」  組み合っていた相手が自分の名前を知っていた。  「・・・弥平さん」  一角も相手が自分のよく知る弥平だと察した。  「先生」  走り来た須賀太一が呼んだ。  八橋蒼吾は、軽く手を挙げて応えた。  「もう一人は?」  手を横に出して、「あっちだ」と指さした。  「一角さん」びしょ濡れの一角を見つけ、走り寄った須賀が、もう一人のびしょ濡れの男に向かい、刀に

        • 鉄紺の朝 #41

          いざ決戦 6  八橋蒼吾は、ようやく顔をのぞかせた月明かりの道を駆けていた。  遠く、黒く陰になった二人が駆けていくのが目に映った。  「あれか」  陰は、小さな河口にある船着場に身を降ろした。  「川田さん、あれへ」  弥平が川田十三を舟へ乗せ、自分もそこへ跳び乗った。舫いを切り漕ぎ出した舟は一間も行かず、ガクンと止まった。見ればもう一本舫いが繋いであった。それも弥平は切り離し再び沖へと漕ぎ出した舟は、またしてもガクンと止まった。  「どうしたんです」  川田も心配になり

        鉄紺の朝 #44

          鉄紺の朝 #40

          いざ決戦 5  「助太刀いたす」  八橋蒼吾が須賀の横に並んで、構えた。  「蒼吾先生!」  須賀太一は何故と、驚いた。足首を射られた梓も同じく、蒼吾の名を叫んだ。  「梓も居ったか。大丈夫か」  梓は立ち上がることは出来無かったが、刺さった小柄を抜いて見せ、「大丈夫です」と言いながら、それを榎に目掛け投げ返した。しかし、それは榎を逸れ、その向こう、先程から蛇に睨まれた蛙の如く、固まったまま動かない、もう一人の刺客の胸に刺さった。「うっ」と、ようやく生きているのが分かる声を

          鉄紺の朝 #39

          いざ決戦 4  その頃、原願寺ではお春が、来ない須賀太一に、一人気を揉んでいた。  ― どうして来られないのかしら  ― 早めに行くから待っておいてくれと言ったのに  異変に気づいたのは、そんなお春であった。  じっと待って居られずに、三門まで行っては戻り、石段を下りては登り、風の音もにも、  ― 須賀さんの足音かしら  と、いちいち外へ飛び出していくのである。  石段を登っていると、遠くで、「うう」とか「ぎゃ」と声が聞こえたのである。  ― 今度は空耳じゃない。須賀さんに

          鉄紺の朝 #39

          鉄紺の朝 #38

          いざ決戦 3  福路村の船着から、毘沙門平で見た、恰幅のいい男川田十三や弥平をはじめ、榎など十人が舟を下りたのを、須賀と梓は、釣り糸を垂らした一角の下、舟の筵に潜り込み、顔だけを出して、眺めていた。  「俺一人をあの世に送るのに、十人とは気前がいい」  須賀はこの事態を楽しんでいるふうであった。  紺碧の天空も、いつしか、紅く染められた空に馴染み、海原に長く、太陽の黄金を延ばした。  須賀が、一角に舟を着けてくれと言い、  「行こう」  梓に、そして自分に叱咤するよう声を出

          鉄紺の朝 #38

          鉄紺の朝 #37

          いざ決戦 2  伊佐衛門は、気を揉んでいた。お春がこの家に居れば、必然的に修羅場を目のあたりにすることになる。かと言って、お春に何かの用事でもつくって、家から追い出そうとしたところで、須賀太一が来るのがわかっている以上、梃子でも動かないであろう。出来れば千江にこの家に居て欲しくなかった。  ―― 伊佐衛門が、何故弥平に須賀の情報を流したのか、それは、お春を守るためであった。脇田から、重ノ木村へ行く前日、須賀が夜中部屋を抜け出し、お春の部屋へ忍んで行ったと聞いた、弥平が、そ

          鉄紺の朝 #37

          鉄紺の朝 #36

          いざ決戦 1  海沿いの街道を、沖に島が浮かんでいるのを眺めたりしながら歩いていると、小高い丘になった上に、一人の女性が立っているのが見えた。  お春は海を眺めながら、初めてここで、須賀太一と会った時のことを思い出していた。  「美しいのは海だけかと思ったら、こんな近くにも見つけたぞ」  「スガタイチバンスガタイチ」  自然と笑顔になっていくのである。  あの日と今日ではまったく違う自分がいた。  考えて見れば、須賀さんと会ったのはその日と、昨晩だけである。それでもお春は昨

          鉄紺の朝 #36

          松任谷由実をたどる小旅行(鉄道編)

          前回の荒井由実時代につづいて今回は 松任谷由実となってから、電車や鉄道を感じる曲をピックアップしてみる 時代は80年代まで。 ・かんらん車(流線型80)1978年 ・コンパートメント(時のないホテル)1980年 ・シンデレラエクスプレス( DA DI DA ) 1985年 ・白い服、白い靴 ( ALARM a la mode ) 1986年 ここに取り上げた曲を追っていくと時代と共に彼女の列車、鉄道に対する変化が見て取れるようで面白い。 まず一曲目のかんらん車 「すいた電

          松任谷由実をたどる小旅行(鉄道編)

          荒井由実をたどる小旅行(鉄道編)

          彼女の実家はご存知?八王子。 その八王子にはJRと京王線の二つの路線が乗り入れている。余談だが彼女の荒井時代(独身時代)はJRは国鉄で京王線(京王電鉄)は京王帝都電鉄だった。 ただ荒井由実の曲から京王線は感じない。あくまで個人的主観だけど。 荒井由実時代、電車を感じさせる曲をピックアップしてみる。 ・たぶんあなたはむかえに来ない ・雨のステイション ・天気雨 ・LAUNDRY-GATOの想い出(松任谷名義になっての初アルバム「紅雀」に収録されているものだがおそらく曲を作ったの

          荒井由実をたどる小旅行(鉄道編)

          鉄紺の朝 #35

          嵐の前 2  山陽から山陰を結ぶ往還の、その後涙松と呼ばれる辺りを過ぎるといよいよ城下である。  河口も近く、流れの緩やかな川に、茜の筋雲が斑に映る土手を歩いている八橋蒼吾の背を十四夜の月が照らし始めていた。 その月明かりの下、雲母の散らばる道を歩み、父蒼辰の寓居に着いた。  「ここのところ、須賀の事で、今は梓までそちらに掛かり切りで、お前にも手伝ってもらおうかと、わざわざ呼び出した次第じゃ。ご苦労」  翌日、朝から八橋蒼辰と蒼吾は揃って道場に顔を出し、稽古に汗を流した。

          鉄紺の朝 #35

          鉄紺の朝 #34

          嵐の前  八つ刻、松の木陰に腰を下ろし、浜で子供たちが相撲を取るのを見ていた梓草志郎の足元に、松ぼっくりが落ちた。見上げた先に須賀太一が立っていた。  「俺たち、ああやって相撲を取らなくなったな」  「久しぶりにやるか」  と立ち上がった梓に、須賀も「負けはせぬ」と袴の裾をたくし上げ、四つに組んだ。  いつの間にか、子供たちも須賀と梓を遠目にみている。  「負けろ」  「そちらこそ負けろ」  ならばと、須賀は投げをうってきた。必死にこらえた梓だったが、二人は供になだれ込み、

          鉄紺の朝 #34

          鉄紺の朝 #33

          お守り その3 「十日ほど前の夕刻とおっしゃいましたか」  お滝が、顔をあげた。  「はい」鶴子が頷いた。  「もしや、梓さんでは・・・丁度十日前、梓さんという、剣術修行で江戸に行かれていた方が、戻って来られました。ここに挨拶に来られたとき、船で港へ着いたと言われておりましたから、恐らく彼かしら」  「それに」とお滝が言葉をつないで「このお守り袋、まだ私が若い頃作ったものだと思うんです。出来がまだまだ拙いでしょ、梓さんに、渡したの頃は私もまだ若かったものですから」恐らくそう

          鉄紺の朝 #33

          鉄紺の朝 #32

          お守り その2  鶴と千江は、次の日、とりあえず八橋道場に、出かけることにした。  畦道を抜けて、川をわたり、ようやく、渓燕流八橋道場の大きな表札が吊るされた道場が現れた。かなり手前から、掛け声、床を踏む音が響いていたので、迷うことは無かった。  脇の戸が開け放たれていたのを見た鶴子は、千江に、「ちょっとここで待ってて」と制して、一人、そっとそこに近づいて、中の様子を探り始めた。  「あんな顔ではなかったはねえ、あれはちょっと若すぎるし」値踏みをするように、一人ひとり、順に

          新幹線から見る百名山 その2

          東海道新幹線の車窓から  前半部分で書いた、丹沢山、富士山、天城山、伊吹山が東海道新幹線の車窓から見える四座ということなのだけど、これ肉眼で誰の目にも明らかな山という視点にたったものだったので、今回は視点を広げ遠く横たわる山々の中にも百名山が紛れているのではないかという仮説に基づいて机上の空論に陥りそうな考察を展開してみようという企画で繰り広げる。  あくまで理論上見えるんじゃないのかというたわごとかもしれないことを先に触れておく。実際、取り上げる山々で己が新幹線から視認で

          新幹線から見る百名山 その2