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鉄紺の朝 #37
いざ決戦 2
伊佐衛門は、気を揉んでいた。お春がこの家に居れば、必然的に修羅場を目のあたりにすることになる。かと言って、お春に何かの用事でもつくって、家から追い出そうとしたところで、須賀太一が来るのがわかっている以上、梃子でも動かないであろう。出来れば千江にこの家に居て欲しくなかった。
―― 伊佐衛門が、何故弥平に須賀の情報を流したのか、それは、お春を守るためであった。脇田から、重ノ木村へ行く前日、須賀が夜中部屋を抜け出し、お春の部屋へ忍んで行ったと聞いた、弥平が、その情報をねたに、伊佐衛門に接触してきた。
「お春さんのところへ、須賀が忍んでくるやも知れないので、もし彼が現れたら、知らせて欲しい。嫌だというのなら、お春さんはこちらで預かることになります」
「預かるとは?」
「その通りの意味です」
「脅しですか」
「伊佐衛門殿次第です」
嫌とは言えない雰囲気で、仕方なく
「わかりました、そのかわり、決してお春には手を出さないと誓ってください」
首を縦に振ったのであった。 ――
それが、どういう風の吹き回しか、
「お寺へ行って参ります。帰りは少し遅くなりますが、ご心配されないよう」
と、お春から、出て行くと言ってきた。
お春が出て行ったことに安堵していた伊佐衛門の家にぽつり、ぽつりと刺客が入り始めた。榎巽は、たかだか須賀太一ひとりを切るのに、大袈裟だと突っぱねたが、失敗は許されないと、川田と弥平に押し切られた。しかも、川田は須賀の顔を拝みたいと、わざわざ伊佐衛門の家で酒を飲みながら、須賀を待った。
「須賀様はこちらへはまだ?」
三門を潜ったお春は、定兼に聞いた。
「須賀太一がここへ来るのか」
定兼の横合いから八橋蒼吾が口を挟んだ。
― あ、先ほどの
お春は気づいたが、先に
「須賀さんの先生で、八橋蒼吾さんと申される」
と、定兼が、紹介した。
― え、須賀さんの先生
「まあ、須賀様の先生ですか。お春と申します。よろしくお願いします」
丁寧に挨拶をした。
「須賀が、こちらへ来る事になっておるのですか」
八橋蒼吾は、重ねて聞いてきた。
「ええ」お春が頷いたのを見て、ここで待たせてもらおうと決めた。
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