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鉄紺の朝 #39

いざ決戦 4

 その頃、原願寺ではお春が、来ない須賀太一に、一人気を揉んでいた。
 ― どうして来られないのかしら
 ― 早めに行くから待っておいてくれと言ったのに
 異変に気づいたのは、そんなお春であった。
 じっと待って居られずに、三門まで行っては戻り、石段を下りては登り、風の音もにも、
 ― 須賀さんの足音かしら
 と、いちいち外へ飛び出していくのである。
 石段を登っていると、遠くで、「うう」とか「ぎゃ」と声が聞こえたのである。
 ― 今度は空耳じゃない。須賀さんにの身に何かあったのかしら
 大慌てで、皆のところへ飛び込んでいき、
 「外の様子が変です。人の呻き声のようなのが聞こえたんです。須賀さんだったらどうしよう」
 「それなら、ちょと、私が様子を見てきます」
 八橋蒼吾が腰を上げた。
 「私も」と、お春が後を追った。
 石段を駆け下りると、確かに、怒声などが漏れ聞こえてきた。声を頼りに駆けていくと、辺りの家から、住人が出て遠巻きにある家を見ていた。
 「うちで何かあったのかしら」後ろを追うお春が、心配な声をあげた。人びとの視線の先には、お春の家、すなわち伊佐衛門の家があった。
 八橋が冠木門から中を覗くと、至る所に人が倒れ、その中に須賀太一が刀を手に立っていた。追いついたお春は愕然として、立ち竦んだ。

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