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天風の剣

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右目が金色、左目が黒色という不思議な瞳を持つ青年キアランは、自身の出生の秘密と進むべき道を知るために旅に出た。幼かった自分と一緒に預けられたという「天風の剣」のみを携えて――。 …
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2023年9月の記事一覧

【創作長編小説】天風の剣 第60話

【創作長編小説】天風の剣 第60話

第六章 渦巻きの旋律
― 第60話 え……。誰 ―

 森の中は、静けさが戻っていた。
 小鳥のさえずりや、虫の声が、それぞれの無事を確認し合うように、緑の中で遠慮がちに響き始める。

「さっきの異変は……、いったい……!?」

 魔法の力を持たないソフィアにも、それは感じられた。
 恐ろしい嵐が吹き荒れ、大地も揺れた。
 そしてそれはほんのつかの間のことで、今ではなにごともなかったかのように晴天

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【創作長編小説】天風の剣 第61話

【創作長編小説】天風の剣 第61話

第六章 渦巻きの旋律
― 第61話 時が変われば、動くものもある ―

 海水は、シトリンのひざの下辺りまできていた。
 シトリンはスカートの裾を持ち上げ、明るく切り出した。

「そろそろ、行ってみよっかー」

「……どうして私を見ながら言うのです」

 アンバーが、少し呆れたように呟く。

「えっ。だって、一緒に行くでしょ?」

 さも当然、といった調子のシトリン。

「誰も一緒に行くなんて一言

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【創作長編小説】天風の剣 第62話

【創作長編小説】天風の剣 第62話

第六章 渦巻きの旋律
― 第62話 山のような人影 ―

「ふっ」

 シルガーは、笑う。

「蒼井と翠を追えばいいのか。では、私は行くとするか」

 そう言い終わるか終わらないうちに、シルガーはもう空へと飛び立って行った。

「ヴァロ! 私たちも、キアランのところへ参りましょう……!」

 カナフがそう叫び、ヴァロがうなずく。カナフとヴァロは、純白の翼を広げ、シルガーの後を追うように飛び立とうと

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【創作長編小説】天風の剣 第63話

【創作長編小説】天風の剣 第63話

第六章 渦巻きの旋律
― 第63話 波間に見える、白い顔 ―

「あれは……!」

 キアランは、息をのむ。
 大陸にそびえ立つ、とてつもなく大きな人影。
 人影、というのは正確ではなかった。
 その背には四つの黒い巨大な羽がある。そして、上半身は立っている人間の姿のようだが、その下半身はまるで海獣のように光沢のある灰色で、そして蛇のように長く続き、尾の先端は海に浸かったままで見えない。
 キアラ

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【創作長編小説】天風の剣 第64話

【創作長編小説】天風の剣 第64話

第六章 渦巻きの旋律
― 第64話 永遠へと続く洞窟 ―

 大量の水しぶきを上げ、恐ろしい巨体が跳ぶ。
 それは、天を目指す竜のようでもあった。
 パールの伸ばした右手は、今にもキアランを抱えたシルガーに届きそうになる。
 キアランは、炎の剣を構えようとした。

「キアラン。待て」

 シルガーは、冷静にキアランを制す。
 それからシルガーは、素早くキアランごと身をひるがえすようにし、パールの斜

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【創作長編小説】天風の剣 第65話

【創作長編小説】天風の剣 第65話

第六章 渦巻きの旋律
― 第65話 いつも、誰かに助けられて ―

 初めてだった。初めて、パールがその美しく整った顔を歪めた。
 パールの巨大な体に、しっかりと巻き付く黒い鎖。

「こ、れは……、な、んだ……?」

 パールの顔に、戸惑いの色が広がる。

「アンバーのおじちゃん!」

 シトリンは、アンバー、白銀、黒羽の姿を認め、顔を輝かせ、嬉しそうに叫んだ。
 パールの手が震える。パールは無意

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【創作長編小説】天風の剣 第66話

【創作長編小説】天風の剣 第66話

第六章 渦巻きの旋律
― 第66話 重なる、ふたつの心 ―

 光の届かない暗黒の海、高次の存在であるヴァロは、自らの放つ金の光に包まれていた。
 暁色の長い髪を一面に広げ、ライネを運ぶヴァロ。四天王パールに囚われたカナフとアマリア、そして天風の剣を助けようと急ぐが、その思考はあくまで冷静だった。
  
 ライネやシルガー、そして四天王。彼らの力でも、決め手に欠けるのか――。

 あまたの攻撃。今

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【創作長編小説】天風の剣 第67話

【創作長編小説】天風の剣 第67話

第六章 渦巻きの旋律
― 第67話 最後の力で ―

「アマリアさん……!」

 キアランの目は、アマリアたちを掴んだパールの右手の行方を追う。

 パールの封印がとけた……!

 キアランは、自分を包み込むアンバーの作った大きな泡ごと、勢いよく浮上した。
 そして、ハッと息をのむ。
 巨大な目が、キアランの眼前にあった。青く不気味に光る、パールの目。
 パールは、アマリアたちを掴む右手を自分の顔

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【創作長編小説】天風の剣 第68話

【創作長編小説】天風の剣 第68話

第六章 渦巻きの旋律
― 第68話 変化のとき ―

 海上の高次の存在たちは、まだ気付いていなかった。ただ、ひとり、シリウスを除いては――。

 カナフか、ヴァロか……!

 シリウスは、海の底での不穏な予兆を感じ取った。

 我らの同胞が、また……!

 シリウスは、叫んだ。

「皆! また大きな変動が起きる! 全力で、『場の調整』を……!」

 次の瞬間。
 すべてが、閃光に包まれた。

 

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【創作長編小説】天風の剣 第69話

【創作長編小説】天風の剣 第69話

第六章 渦巻きの旋律
― 第69話 異なる魂、異なる心 ―

 生き物の気配が、漂い始めた。
 深海にも無数の生物が存在する。今までそれらは、四天王たちの破壊的なエネルギーを感じ、どこかへ身を隠していたのだ。
 半透明な体を明滅させるクラゲのような生き物が、キアランたちの目の前を通り過ぎる。

「ヴァロ……」

 シトリンの作った淡い虹色の泡の中、カナフは膝から崩れ落ち、涙を流した。

「カナフさ

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【創作長編小説】天風の剣 第70話

【創作長編小説】天風の剣 第70話

第七章 襲撃
― 第70話 希望の子ら ―

 深海の暗闇の中、新たな金の光が差し込む。

「シリウスさん……!」

 アマリアが目を見張り、その名を叫んだ。

 高次の存在……! 純白の翼が、四枚……!

 キアランは、突然目の前に現れた、四枚の翼の高次の存在に戸惑う。
 カナフは、とキアランがカナフのほうへ視線を向ける。カナフもシリウスと呼ばれる高次の存在を見て、どういう思いかはわからないが、

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【創作長編小説】天風の剣 第71話

【創作長編小説】天風の剣 第71話

第七章 襲撃
― 第71話 満天の星 ―

 海の中、深いところを進む。
 キアランたちは、シリウスと別れ、ルーイたち皆のいるもとへと急ぐ。
 警戒しながら進んでいったが、パールの潜む気配はどこにもなかった。

「大丈夫か。カナフ、アマリア」

 シルガーは、キアランとライネを支えながら、後方からついてくるカナフたちを案じた。

「シルガーさん。私たちは大丈夫です。シルガーさんこそ――」

「もう

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【創作長編小説】天風の剣 第72話

【創作長編小説】天風の剣 第72話

第七章 襲撃
― 第72話 めぐる時間 ―

『星を頼りに、旅をしていた』

 ずっと、キアランは一人だった。
 孤独な旅暮らしの中、アステールが、いつも傍にいた。
 キアランが、天風の剣に名付けた名前、アステール。

『これは、どこかの国で『星』を意味する言葉なんだそうだ』

 今、カナフは悲しい真実を告げようとしている。
 吸い込まれてしまいそうなほど、美しい星空の下で――。

 波の音が心地

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【創作長編小説】天風の剣 第73話

【創作長編小説】天風の剣 第73話

第七章 襲撃
― 第73話 気まぐれな、でも確かなひととき ―

 ぺろん。

 頬に感じる、刺激。あたたかく、なにか湿ったような――。

「うわっ!」

 キアランは慌てて飛び起きる。
 人懐っこい、黒い大きな瞳がキアランの顔を覗いていた。

「フェリックス……!」

 キアランの愛馬、フェリックスだった。

 ぺろん。

 フェリックスは、目を覚ましたキアランの顔を改めて舐める。

「私を探し

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