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吉岡果音
2024年5月20日 22:53
第九章 海の王― 第125話 悲しみの向こうの光 ― 吹き荒れた嵐が嘘のように、晴れ間が広がっていく。 花紺青は――。 パールの尾に弾かれ、意識を失ったまま落下してしまった花紺青。キアランは、彼が無事かどうか、一刻も早く知りたいと切に願った。カナフとシルガーに尋ねようと急いでキアランが口を開いた、まさにそのとき――。「キアラン、無事でよかったー! 心配したよー」 大きく手を振
2024年5月13日 22:25
第九章 海の王― 第124話 携行食 ―「花紺青っ!」 鈍い音がした。 パールの尾が、花紺青の操る板を直撃し、そこから続けざまに花紺青の後頭部にも激突していたようだった。 板もろとも花紺青、キアランは落下する。 花紺青――! 垣間見えた花紺青の表情は、うつろで――、意識を失っているようだった。 うっ! 強い風と共に、なにかが迫る。それは鱗に覆われた、パールの尾。
2024年5月6日 21:57
第九章 海の王― 第123話 雷鳴と、涙と ― ギャアアアア……! 四天王パールの絶叫が、響き渡る。 パールの姿が、一瞬にして巨大な半身蛇の姿に変化した。まるで見上げる壁のように高く長く続く尾が、轟音と共に大地を打ち、土埃を上げる。「あっぶね!」 ライネが愛馬グローリーの手綱を引き、とっさに左方向に跳ね避ける。判断がわずかでも遅ければ、パールの尾の下敷きになるところだった。ダン
2024年4月30日 22:25
第九章 海の王― 第122話 笑う首 ―「キアラン!」 ダン、ライネは、なにもない空中から突然現れたキアランを見て驚く。 キアランは、愛馬フェリックスに乗り天風の剣を構え、四天王パールを見据えていた。「へえ。君、空間から自在に姿を現すなんてことができるんだ」 パールは感嘆の声――のように聞こえる――をあげた。 こいつ……、楽しんでやがる……! ギリ、とキアランは歯を食い
2024年4月17日 18:54
第九章 海の王― 第120話 最高の食事 ― 美しい夢を見ていられればそれでいい、そう思っていた。 海の底でずっと静かに眠り続けていたい、そう思っていた。 しかし、様々な魂と出会ってしまった。様々なエネルギーを、心を知ってしまった。 夢を見続けるための食事が、いつの間にか変わっていた。 今、僕の心は熱く、喜びに震えている――。 もっと刺激を、と思った。 もっと新しい体験を、自
2024年4月22日 22:08
第九章 海の王― 第121話 あと何秒 ― どす黒い液体が四天王パールの足首から流れ落ち、ゆっくりと大地に染み込んでいく。 足元から伸びる黒い影が、一層濃密な闇をまとう。 四天王パールは、ふふっ、と軽く笑い声をたてた。そして、自分の足元に目をやりつつ、かすかに顔をしかめた。「浅い傷でも、やっぱり急所は痛いなあ」 ダンが、愛馬バディの背の上で魔法の杖を構える。集中し、強い魔法を唱え
2024年4月9日 22:11
第九章 海の王― 第119話 ドーナツの向こうの青空 ― キーン――。 愛馬バームスの手綱を握っていたアマリアは、強いめまいを感じていた。 肌が泡立ち、まるで雷に打たれたような感覚が体中を走る。「来る……!」 背後から迫る、巨大な魔のエネルギー。 アマリアは、それが父母や親族の仇であると感じ取っていた。「四天王パールが……!」 魔導師オリヴィアも、ダンも同様に気付いて
2024年4月2日 23:07
第九章 海の王― 第118話 強くなるんだ ―「キアラン! 僕、新しい魔法を使えるようになったよ!」 ルーイがキアランの両手を取り、顔を輝かせた。 とはいえ、ルーイの笑顔には今までと比べ、暗い影のようなものが感じられた。 オニキスの襲撃を受け、たくさんの人々が犠牲となり命を落とし、そしてたくさんの人々が負傷したところを目の当たりにし、深い悲しみと恐怖を心に抱えてしまったのだろうとキア
2024年3月28日 21:38
第九章 海の王― 第117話 様々な立場 ―「皆、無事で本当によかった――!」 四聖の皆やソフィアとテオドルの変わらぬ笑顔に触れ、キアランは深い喜びに声を震わせた。「キアランも花紺青も、無事で本当に嬉しいよ……!」 ルーイも皆も、涙ぐむ。 守護軍の陣営の中でも、皆がいるこの場所は洞窟になっていた。入り口は、人一人通るのがやっとで狭かったが、中は広い。 洞窟内は、魔法の光で明る
2024年3月19日 22:51
第九章 海の王― 第116話 守護軍 ―「ルーイ! ソフィアさん! ニイロ! フレヤさん! ユリアナさん! テオドル……!」 キアランの皆を呼ぶ叫び声は、激しい吹雪にかき消される。 そこにあったはずの守護軍の陣営は、すでになかった。この場所に張られていたはずの結界も、ない。 闘いの痕跡は雪に隠されたのか、かすかに爪痕がうかがい知れるのみ。オニキスの攻撃を受け、四聖と守護軍は、ノース
2024年3月11日 21:14
第九章 海の王― 第115話 ぼろぼろの翼 ― まさか――。 朝もやに包まれた森の中、キアランたちは時を見失う。 シルガーは、呆然とする皆に構わず言葉を続ける。「王都は壊滅状態だ。それより――」 壊滅状態……! と、いうことは――! キアランは思わず、シルガーの言葉を遮るようにして尋ねていた。「白の塔は……! 白の塔は、どうなって……!」 シルガーは、首を左右に振っ
2024年3月4日 22:28
第九章 海の王― 第114話 王都は、もう ― 夜空は、黒い雲に覆われていた。 暗闇の中、いくつもの金の光が飛び続けている。 金の光に照らされ、ほの白く浮かぶ、白い肌。その下部に続く、白銀に輝く鱗。長い尾を城全体に張り巡らすように巻き付け、城壁を抱きしめるようにしてそれは眠っていた。 体の線に沿って流れるような長い髪が妖しい美しさを放つ――、四天王パールだった。 そして、パールの周り
2024年2月28日 22:00
第九章 海の王― 第113話 一緒だね ― 若い魔導師と年老いた魔導師が結界の外である、吹きすさぶ純白の景色を見つめていた。 ノースストルム峡谷は、いまだ吹雪に包まれている。「お師匠様。天風の剣で永遠に空の窓を閉じられるという彼らの話は、本当でしょうか?」 若い魔導師が、自身の師である老魔導師に尋ねる。「おそらく、真実であろう。キアラン殿とすれ違った際、とても力強く神聖な波動を
2024年2月20日 21:45
第九章 海の王― 第112話 最期の時間くらい ――「これは、あのときの術……」 四天王パールは、うつろな瞳で呟いた。 四天王アンバーの術「封印の鎖」が、パールの尾の部分からすぐに全身へと広がっていく。 やがて、パールの動きが止まった。「よかった……。一応、術が効いているようですね」 冷静な声でアンバーは呟く。「この前のときより、私自身の状態はよいですが、やつの力自体が格