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天風の剣

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右目が金色、左目が黒色という不思議な瞳を持つ青年キアランは、自身の出生の秘密と進むべき道を知るために旅に出た。幼かった自分と一緒に預けられたという「天風の剣」のみを携えて――。 …
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2023年7月の記事一覧

【創作長編小説】天風の剣 第29話

【創作長編小説】天風の剣 第29話

第四章 四聖と四天王
― 第29話 灰色の翼 ―

「なんだ……。お前……」

 四天王の従者の一人、翠がシルガーを見つめ、呟く。
 うつぶせに倒れているキアランの髪を掴んでいたシルガーは、手を放した。

「うっ……」

 急に手を放され、キアランは地面にあごを打ち付けていた。
 
「名前を訊くのなら、まずそちらから名乗ったらどうだ?」

 シルガーが、ゆっくりとした口調で問う。
 異様な光景だっ

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【創作長編小説】天風の剣 第30話

【創作長編小説】天風の剣 第30話

第四章 四聖と四天王
― 第30話 怪物の口 ―

 ルーイ……!

 キアランは、心の中でその名を叫ぶ。キアランにとって大切な響きの、その名を。
 乾いた心に、あたたかな灯をともしてくれたルーイ。忌まわしいと人から恐れられ、蔑まれ続けた金色の瞳を、いつもまっすぐ見つめてくれたルーイ。キアランを想って笑い、そして泣き、楽しいときも苦しいときも、ルーイは全力で、全身でぶつかってきてくれた。
 ゆく当

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【創作長編小説】天風の剣 第31話

【創作長編小説】天風の剣 第31話

第四章 四聖と四天王
― 第31話 とらわれの四聖 ―

「ルーイ君……! キアランさん……!」

 蒼井と翠が揃って姿を消した直後、アマリアは、魔法の杖を頼りになんとか立ち上がった。

「行かなくちゃ……!」

 アマリアは瞳を閉じ意識を集中し、消えたキアランとシルガーの行方を探る。
 同じくふらつきながら立ち上がったダンは、すぐ横で倒れているライネの体を起こす。

「ダン……。ありがとう。俺は

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【創作長編小説】天風の剣 第32話

【創作長編小説】天風の剣 第32話

第四章 四聖と四天王
― 第32話 激戦の中 ―

 時折走る閃光、そして空間を埋め尽くす衝撃音。
 粉砕された壁や天井などの粒子で、視界がひどく悪くなっていた。
 激戦は、古城内の左手奥の広間らしき場所で繰り広げられているようだった。
 広間らしき場所、というのも、すでに辺り一帯瓦礫の山で、存在したであろう扉や壁などがあちこち消失していて、ここから先は通路なのか部屋なのか、判然としない状態になっ

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【創作長編小説】天風の剣 第33話

【創作長編小説】天風の剣 第33話

第四章 四聖と四天王
― 第33話 覚醒 ―

 蒼井との距離は、ごくわずかだった。
 数歩駆けるだけで、剣先が到達する距離。
 蒼井は、キアランを見据えただけで、身構えもしない。

 私の力を、見極めようとしているのか……?

『早く目覚めよ……! キアラン……!』

 シルガーの言葉が、頭の中に響き渡る。

 私には、ただ天風の剣を振るうことしか――。

 地を駆け、剣を振るう。自分にはそれし

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【創作長編小説】天風の剣 第34話

【創作長編小説】天風の剣 第34話

第四章 四聖と四天王
― 第34話 銀の竜 ―

 それは、ごく自然な動きだった。
 キアランは、天風の剣を改めて構えた。
 流れるように。美しい所作だった。

「ほう」

 蒼井の瞳が力強く輝く。

「面白いな。まるで生まれ変わったようじゃないか」

「……さっきのお前こそ、まるで墓場から生き返ったようだったぞ」

「ふふ。面白いことを言う」

 蒼井は大きく首を回し、獣のように舌なめずりをした

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【創作長編小説】天風の剣 第35話

【創作長編小説】天風の剣 第35話

第四章 四聖と四天王
― 第35話 水晶の繭 ―

「ルーイ……!」

 キアランは、駆けた。
 四天王は、四聖たちを「私の見つけた宝物」と言っていた。「宝物」、ということは、ルーイたちは殺されたり傷つけられたりはしていないのではないか――、藁にもすがる思いでキアランは推測する。

 ルーイ! どうか、無事でいてくれ……!

 キアランは同時に、ソフィアの妹、テオドル、テオドルの話していた四聖、三

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【創作長編小説】天風の剣 第36話

【創作長編小説】天風の剣 第36話

第四章 四聖と四天王
― 第36話 古城の外へ ―

「ソフィア様……。フレヤ様……。この度は誠に申し訳ありませんでした」

 大修道院の年老いた僧侶が、ソフィアとフレヤに謝罪していた。この中で一番位の高い人物のようだった。

「大修道院にフレヤ様をお連れする途中、あの四天王たちに襲撃されてしまい――」

「だから言ったじゃない……!」

 年老いた僧侶の言葉を遮るように、ソフィアが叫ぶ。

「妹

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【創作長編小説】天風の剣 第37話

【創作長編小説】天風の剣 第37話

第四章 四聖と四天王
― 第37話 似た者同士 ―

 紫の色を帯びていく空に、一縷の希望のような白い羽――。
 福音のごとく現れたそれは――。有翼の高次の存在、カナフだった。

「カナフさん……!」

 空を仰いだキアランがその名を呟いて初めて、皆がその来訪に気付く。

「おおっ……! あれは……!」

「高次の存在……!」

 大修道院の僧侶も、高次の存在を実際に見るのは初めてのようだった。僧

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【創作長編小説】天風の剣 第38話

【創作長編小説】天風の剣 第38話

第四章 四聖と四天王
― 第38話 真実の扉 ―

 深夜だった。
 キアランは、テントの入り口から、金色の光が差し込んでいることに気が付く。

 カナフさん……!

 ルーイが目覚めないよう気遣いつつ、急いでテントの外に出る。
 天高く、三日月が昇っていた。
 聞きたいことが山ほどあった。

 あの四天王は、果たして私の父なのか――。

 キアランは、無意識のうちに握った拳を胸へ当てていた。
 

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【創作長編小説】天風の剣 第39話

【創作長編小説】天風の剣 第39話

第四章 四聖と四天王
― 第39話 顔 ―

 黒い闇が迫る。
 キアランの父と母を殺したその男が、音もなく近付いて来ていた。

「近付けさせない……!」

 刃物の切っ先のような、カナフの横顔があった。
 白い大きな翼を羽ばたかせ、カナフが飛び立った。

「カナフさん……!」

 キアランが叫んだときには、カナフは天高く飛び上がっていた。

 ドン……!

「うっ……!」

 強い閃光。嵐のよう

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【創作長編小説】天風の剣 第40話

【創作長編小説】天風の剣 第40話

第四章 四聖と四天王
― 第40話 助けるか、追うか ―

「シルガー! カナフさんが、まずいことになった、とはどういう意味だ!?」

 カナフと四天王に向かって飛来する高次の存在の一団。それを見て呟いたシルガーの言葉の意味が、キアランにはわからなかった。

「……また、幽閉されるだろうな」

 シルガーの予想外の言葉に、キアランは驚く。

「幽閉!? カナフさんが!?」

「その前に、おそらく、

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【創作長編小説】天風の剣 第41話

【創作長編小説】天風の剣 第41話

第四章 四聖と四天王
― 第41話 魂があるもの ―

 金色の光をまとう、高次の存在たち――。
 白い翼を有する彼らは、皆、中性的で美しい風貌をしていた。
 キアランを見つめる、たくさんの瞳。

 敵か、それとも味方なのか……?

 その濁りのない透明な眼差しからは、なんの感情も読み取れない。

 アステール……。彼らに対し、敵意がないことを示そうとした……?

 天風の剣は、キアランの腰に差さ

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【創作長編小説】天風の剣 第42話

【創作長編小説】天風の剣 第42話

第四章 四聖と四天王
― 第42話 シルガー ―

「シルガー! 高次の存在たちを、追うことは可能か!?」

 高次の存在に持ち去られた天風の剣。天風の剣を取り返そうと焦るキアランは、シルガーに向かって叫んでいた。

「……あいつは、自分から向こうに行ったぞ」

「え……!?」

「あれは、アステールの意思だ」

「シルガー! なにを言って……!?」

 キアランは、シルガーが言っていることの意味

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