ジョナサン

ゆるーく

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最近の記事

『患者から学ぶ』を読む

 学会発表の準備や翻訳の校正などでちょっと忙しかったので、ずいぶん更新できず。ここしばらくはパトリック・ケースメント(Patrick Casement; 1935-)の著作を紐解いていこうと思う。幸い、自伝と宗教との関連本の2冊以外、ケースメントと親交がある松木邦裕氏の訳出・監訳・監修で主要著作は岩崎学術出版社から邦訳されている。  今回は、異例のベストセラーを誇った、彼の処女作『患者から学ぶ:ウィニコットとビオンの臨床応用』を取り上げよう。ケースメント自身の経歴はおいおい

    • "Catch Them Before They Fall"を読む

       「ライ麦畑のつかまえ役、そういったものに僕はなりたいんだよ。馬鹿げてることは知ってるよ。でも、ほんとうになりたいものといったらそれしかないね」——『ライ麦畑でつかまえて』。  でも、今回はボラスの"Catch Them Before They Fall: The Psychoanalysis of Breakdown"を読む。副題からわかるように「破綻breakdown」に関する書籍だ。2013年にラウトレッジ社から刊行されており、創元社から出ている『太陽が破裂するとき:統

      • "The Evocative Object World"を読む

         まだボラスをインストールしている。先に読んだ『終わりのない質問』の姉妹本"The Evocative Object World"を読んでみよう。2008年にラウトレッジ社から出版された小本である。目次から推測されるに、どうも一見するとバラバラなテーマを扱っているようだ。第1章は「自由連想」を取り扱っており、読んでみると、なんと、アイコン社から出て絶版になっていた"Free Association"がそのまま掲載されていた。  なので、残りの「建築と無意識」「喚起的対象世界」

        • "Free Association"を読む

           引き続き、ボラスを読み進める。ボラスはともかく「自由連想」を重視する。そういえば、と思い出したように、本棚から引っ張り出したのが本書"Free Association"である。そのままの書名だが、ボラスの自由連想観が簡潔にまとめられている小ぶりな本である。アイコン社から2002年に刊行されたが、どうも絶版であるらしい。残念である。早速、内容に入ってみよう。  フロイトは自由連想というものを患者に指し示す際、喩え——列車trainに乗って、座席のそばの窓に流れるさまざまな景

        『患者から学ぶ』を読む

          『終わりのない質問』を読む

           引き続き、ボラスのインストール中だ。なるだけ臨床に接地したボラスを読む。2011年に誠信書房から出版された『終わりのない質問』を紐解く。原書は"The Infinite Question"で、2009年にラウトレッジ社から出ている。本書には、3名の被分析者のセッション記録が逐語的に載せられており、そこに対するボラスの後知恵が付されている。分析家の頭のなかを垣間見ることができるという点でも興味深い本である。  「本書は、精神分析における自由連想を通して、人びとがどのように無

          『終わりのない質問』を読む

          『こころの秘密が脅かされるとき』を読む

           2月に入って、今後はクリストファー・ボラスのインストールに取り掛かっている。ボラスはシミントンに並び、多産な分析家である。かつてライクロフトが、自身は体質的にユングを理解することが困難であると述べていた。僕も、ボラスを理解するのが体質的に難しいようだ。ボラスを読んでもなかなかピンとこない。ボラスの詩的な表現というか、自由なエッセイ調な文章が手強いのだ。自分が身を置いている環境が環境なので、どうしても同僚たちから何かとボラスの名前が上がってくることが多い。「ふむ、ボラスね」な

          『こころの秘密が脅かされるとき』を読む

          "The Spirit of Sanity"を読む

           1999年9月にタヴィストックで開催されたシミントンの講義録を読む。全8回(最終回はディスカッション中心)の講義は"The Spirit of Sanity"として2001年に刊行された。この講義で語られているのは、同時進行で執筆されていた"A Pattern of Madness"というシミントン最大の理論書を補完する内容であるため、シミントン理論を理解するうえで避けては通れない代物である。ただ、ほとんどが講義内容なので、いくぶん散漫な印象を与える。ディスカッションも必ず

          "The Spirit of Sanity"を読む

          "The Making of a Psychotherapist"を読む

           まだまだシミントンを読む。彼のセラピー感覚を掴んでおきたい。"The Making of a Psychotherapist"である。同書は1996年にカルナック社から上梓された。僕の本棚にあったのはハードカバーだったが、ソフトカバーも1997年に出ている模様。現在はラウトレッジ社から購入することが可能だ。邦訳はされていない。地味になかなか日本語に移しにくいタイトル——『心理療法家の成り立ち』とかか——である。  序文はアントン・オブホルツァー。「免許付きの愚かさlice

          "The Making of a Psychotherapist"を読む

          『精神分析とスピリチュアリティ』を読む

           シミントンを引き続き読んでいる。創元社から翻訳が出ている『精神分析とスピリチュアリティ』を再読している。原題は"Emotion and Spirit: Questioning the Claims of Psychoanalysis and Religion"で、1994年にキャッセル社から、第2版が1998年にカルナック社より刊行されている。日本で2008年に出ている訳書は第2版を定本としているようだが、現在は絶版の様子。どこにも売っていないようだ。Amazonでも高値で

          『精神分析とスピリチュアリティ』を読む

          "How to Choose a Psychotherapist"を読む

           シミントンを読んでいるが、ヴィネットがあるにはあるので臨床は見えやすいか。とはいえ、直接的にシミントンの臨床観を知りたくて手に取ったのが本書"How to Choose a Psychotherapist"である。2002年にカルナック社から刊行された、シミントン家総出で書いた本だ。着想と編集を息子2名が、挿絵を妻ジョーンが、本文をネヴィルが書いている。  日本語に訳出されてはいない。日本語訳すると『心理療法家の選び方』となるだろうか。僕は訳しているので、どこかの出版社さん

          "How to Choose a Psychotherapist"を読む

          『臨床におけるナルシシズム』を読む

           僕は基本的に一度読んだ本を再読することがない。フロイトのようにいくつかの訳本が出ている場合、それぞれのバージョンを読む、なんてことはあるけれども、同じ本を読み直すことがめったにない。しかし、ものを書いたり、講義をしたりする必要に迫られると、読み返す。今回、必要に駆られてシミントンを再度、読むことになった。シミントンの主著は彼自身が認めるように、本書『臨床におけるナルシシズム:新たな理論』である。原書は"Narcissism: A New Theory"で、1993年に出版さ

          『臨床におけるナルシシズム』を読む

          『関係精神分析の技法論』を読む

           近年、日本の訳書のラインナップを見ていると、クライン=ビオン派か関係論か、というくらい、関係精神分析relational psychoanalysisの勢いが凄まじい。たとえば、ハリー・スタック・サリヴァンの『個性という幻想』、ルイス・アロンの『こころの出会い』、アラン・ショアの『右脳精神療法』『無意識の発達』など。  今回、取り上げるのは、スティーブン・ミッチェル(Stephen Mitchell; 1946-2000)の『関係精神分析の技法論:分析過程と相互作用』であ

          『関係精神分析の技法論』を読む

          『物語と治療としての精神分析』を読む

           訳者の先生方から頂いた本であるし、なにより自身の関心分野fieldでもある「精神分析フィールド理論」の一次文献である。備忘録的に雑感をまとめておく。本書"La psicoanalisi come letteratura e terapia"は1999年にイタリア語で刊行され、2006年に"Psychoanalysis as Therapy and Storytelling"として英訳された。The New Library of Psychoanalysisシリーズの一冊であ

          『物語と治療としての精神分析』を読む

          Christopher Bollasを読む②

           かなり立て込んでいて更新が遅れてしまった。ボラスの自己愛論の続きである。かなり以前に小此木先生が『自己愛人間』という本を出版されていて、こちら未読だったのだけれど、ふと本を開きたくなった。自己愛・ナルシシズムの文献に触れると、妙に色々な人の意見を聞きたくなるのはなぜだろうか。  さて、ボラスによれば、あらゆる性格障害はある種の「こころの免許証psychic licence」を駆使して発現されている。たとえば、境界例は「障碍者:制御不能」という免許証を持っている。ヒステリー

          Christopher Bollasを読む②

          『メンタライジングによる子どもと親への支援』を読む

           監訳者の上地先生より以前に本書をいただいた。とても丁寧かつ迅速な訳出で頭が下がる。隙間時間を見つけては校正作業をされていた姿が強く印象に残っている。本書でも翻訳へのこだわりは遺憾なく発揮されており、その方面でも勉強になった。  フォナギーらが案出したメンタライゼーションに基づく治療/療法(Mentalization-Based Treatment/ Therapy; MBT)は(1)効果研究に裏打ちされた実証性、(2)種々の研究を横断する発達精神病理学、(3)マニュアル化

          『メンタライジングによる子どもと親への支援』を読む

          『アタッチメントと心理療法』に寄せて

           この8月中旬にジェレミー・ホームズの"Exploring in Security: Towards an Attachment-Informed Psychoanalytic Psychotherapy"(Holmes 2010)の訳書『アタッチメントと心理療法:こころに安心基地を作るための理論と実践』を上梓した。  本書は、アタッチメント理論と精神分析的心理療法の統合を目指した意欲作である。アタッチメント理論の創始者であるジョン・ボウルビィは精神分析家でありながら、精神

          『アタッチメントと心理療法』に寄せて