『ロード・オブ・カオス』
伝説的なブラックメタルのバンド「メイヘム」の自伝映画というだけでなく、『スパン』のジョナス・アカーランド監督にとっても『ホースメン』以来約10年ぶりの監督作品になった『ロード・オブ・カオス』。出来は予想以上で、かつてスウェーデンのブラックメタルのバンド「バソリー」のドラマーだったジョナス・アカーランドによる極上のブラックメタル映画である。
かと言ってバンド史になぞった映画ではなく、メイヘムにとっての転換期や事件を中心に構成されている。中でも、ボーカルのデッド・トランシルバニアの奇行と途中加入のベーシストのヴァルグ・ヴィーケネスの凶行の数々にスポットをあて、血塗られた真のブラックメタルを作り上げる。
そもそも、奇行や凶行を起こせば起こすほどハクがついて伝説視される世界観ってまるでヤクザの組織のそれにも近いものがあるが、現存としてCDや音楽配信で彼らの作品が聴けるので、より重く、禍々しく聴こえ、映画の追体験も出来る。
個人的に何よりも驚いたのがメイヘムだけでなく、刑務所で音楽製作を行っていた「バーズム」のヴァルグ・ヴィーケネスの映画でもあり、人物描写やユーロニモスとの出合いも細かく描かれている。
これだけ恐ろしい行動をとってるにもかかわらず、ファーストフード店での様子やファミレスでのシーンなどギャップから生じるゆるいギャグもある。さらには『スパン』のジョナス・アカーランドの監督作品とあってHM/HRを使った笑いもあり、スコーピオンズを使ったギャグは秀逸。
元バソリーの監督によるメイヘムとバーズムのブラックメタル映画は虚実が混ざっている上、バンド史はかなり端折られているが、真のブラックメタルバンドになってしまった皮肉と悲哀はしっかり描かれた至高のブラックユーモアにして最凶のバンド映画である。ブラックメタルが分からない人はとりあえずググってからでもいいし、ブラックメタルファンだけでなく、全てのHM/HRファンに捧げる傑作である!
評価:★★★★★
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?