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凸と凹―療育のはじまり

「知能検査の結果を説明しますね」

心理士さんの丁寧な説明によれば、5歳の長男に行った知能発達テストの結果、彼の知能は4歳に満たないということだった。

さらにテストの内容と長男のまちがい傾向について細かに解説してくれたけれど、まるで目の前に“うすもや”が掛かったような感覚でなかなか頭に入ってこない。なんだか現実味がなかった。

よくあることだと思っていた

長男が周りの子たちと比べて「ちょっと手先が不器用」だと感じたのは、3歳ごろからだった。鉛筆を持ちたがらず、ほとんど絵を描かなかった。食べ物の好き嫌いも多く、あまり食事に関心がなかった。また気が散りやすく、ご飯や着替えの最中に何度も別のことを始めてしまう。でも、これらは「子どもならよくある」程度のことだと思っていた。同じ保育園に通わせているほかの母親たちも、同じような悩みを口にしていた。

3歳児健診でたまたま任意の心理士相談を利用して以降、年に1度くらいのペースで長男の発達について気軽なきもちで相談を続けていた。それでも、手先が不器用なことと食べ物の好き嫌い以外、特に問題だと感じるようなことはなかった。明るくよく喋り、人懐こい性格。祖父母はもちろん、私や夫の友人からもよく可愛がってもらえていた。

雲行きが変わったのは長男が4歳6ヶ月を過ぎてまもなく、次男が生まれてからだった。この頃、長男は思う通りにいかないとき、私や夫、祖父母に対して反抗的な態度をしたり奇声をあげたりが目立つようになった。以前まで比較的素直で穏やかな子どもだったのが、自分も含めてまわりの大人が手を焼くようになっていた。

療育に通うまで

出産後しばらくして、区の福祉センターから連絡があった。

「その後、Tくん(長男)の様子はどうですか? そろそろ心理相談で最近の様子を聞かせてもらえませんか?」

渡りに船のタイミングだったので、迷わず心理士さんとの面談をとりつけた。また、ほどなくして次男の3ヶ月健診で福祉センターを訪れた際に、先だって電話をくれたケースワーカーが直接私に声をかけてくれ、急きょ個別面談となった。

実際、長男の不器用さと食事の問題は、この2年間でほとんど進展していなかった。面談の中で、ケースワーカーから個別療育を受けることを検討してみてはどうかとアドバイスをもらった。もし発達に問題がある場合、小学校に上がる前に療育によるケアをスタートした方が良いという。

たしかに、1年後の長男が小学校生活をスムーズに過ごせるイメージは湧きづらかった。ひらがな・カタカナの読み書きや箸づかい、給食など、ハードルになりそうなことがいくつもあった。

心理士相談では、長男の状態についてこのように説明された。
「自分の好きなことを選んで行動することはとても得意。でも、他人の言うことに耳を傾けたり、真似をしながら学ぶことに興味がない。ほかの子達にくらべて学習機会が失われやすいから、損をすると思う」

夫と話し合い、通っている保育園と並行して、区の療育センター利用を進めることに決めた。

ここから、親の気持ちが追いつく間も無くトントン拍子に長男の個別療育が決定していく。療育センターとの面談や区の福祉課との面談を経て、長男の様子を見た人たちが「個別療育の必要あり」と判断したのだ。

どこかでずっと長男はちょっと気が散りやすくて不器用なだけで、大した問題はないはずと思っていた。個別療育が決定し受給者資格証を手にしたときですら、本当は通わなくても良いのではないかと半信半疑だった。

夫の理解と覚悟

知能発達テストを受けたのは2度目の個別療育の日だった。結果が実際の年齢より少なくとも2歳も遅れていると知ったときは、いよいよショックだった。

これまでの育て方が間違っていたんだろうか。親としてのんびり構えすぎていたのか。それとも、時折怒りかたが厳しいことが良くなかったのか。考えてもどうしようもないことが頭の中をぐるぐるとめぐった。

その日は一日中落ち着かなくて、ずっとモヤモヤしていた。夜、仕事から帰った夫と遅くまで話し合った。私が不安を打ち明けると、夫は知能テストのことはよくわからないが「それは、物差しのひとつでしかない」と言いきった。

「みんなの言う平均を目指して何かいいことある? 最後に面白い子になればいいじゃない」

そもそも療育センターに通うことを決めたのも、長男が小学校に上がったときにできるだけ彼らしく過ごせるよう先回りで対策が立てられるようにという目的があった。夫としては、個別療育を受けるからにはなにかしら問題があるわけで、それが客観的な指標によって示されることについてはある程度覚悟はできていたのだ。

夫は日頃から、体力と時間が許す限り長男の遊びや習いごとに付き添っていた。義務感というよりは、子どもを観察したり自分から働きかけることでどんな反応を示すのかを実験し、楽しんでいるようなところがあった。なので、長男はなにが苦手でどんな良いところがあるのかは心得ている。

「大丈夫だよ、なんとかなる」

夫と話したことで、心のなかのモヤモヤがほんの少しだけ軽くなった気がした。

これから小学校に上がるまでの1年と3ヶ月が、彼が個別療育を受ける期間だ。どんなことがあるのか、どこまで課題を克服できるのか。行先は見えないけれど、とにかく今は一緒に進むしかない。

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