JR

大阪生まれ、2011年から鳥取で暮らす。2012年「うかぶLLC」共同代表になる。20…

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大阪生まれ、2011年から鳥取で暮らす。2012年「うかぶLLC」共同代表になる。2019年に一年間だけ日本海新聞のコラムを寄稿しておもしろかったので、書くことを続けます。何について書くのかは考えずに始めてます。http://ukabullc.com/

最近の記事

ライブの対話

昨年の暮れ、Y Pub&Hostelで小さな音楽ライブを開催しました。このご時世、イベントを開催することは演奏者も主催者も負担が大きいのですが、やっぱり生演奏は格別でした。薄暗い店内で犬の着ぐるみを全身まとい、足踏みオルガンを弾きまがら、音楽家が一人歌っているときに、窓越しからその姿を見て驚いた通行人がいました。店内にいた観客はその状況をみて、笑い声がこぼれていました。可笑しいような、不気味なような、言葉で例えようがない時間を観客の一人一人がそれぞれに味わっているようでした。

    • 色鮮やかな妄想

      「どういう町をつくりたいと考えていますか?」という質問が苦手です。久しぶりに出演した講演会で、この質問があり、体がムズムズしました。聞かれたので答えたいけど、答えたくないような。何気ない質問なのですが、どうして苦手なのかをイチから考えてみると、今は亡き人たちの言葉が関係していることがわかりました。 ちょうど10年前に大阪から鳥取へ来て、湯梨浜で出会ったおかあさんたちの中に、毎朝植木に水やりをする姿が印象的な方がいました。たみがオープンして、たみの住人やスタッフが増え始めた頃、

      • 二月の感覚

        ようやく春が来たと思ったら雪が降ったり、晴れているのに空気が冷えていたり、なかなか敏感になる二月でした。今年の冬は、お店を思い切って休業させてもらい、「冬眠」をしました。スタッフみんな、休みの間は、研修をしたり、実家に帰ったり、違う職種のアルバイトをしてみたり、家でのんびりしたり、それぞれでリフレッシュできたようでした。私は、冬に開催した鳥取大学にんげん研究会が主催の「地域と文化のためのメディアを考える連続講座」の報告書を作成しました。コロナ禍により生活が変化した世界をどのよ

        • 師走の現時点

          師走に突入しました。毎年振り返るたびに思いますが、この一年もいろいろありました。とくに大きな出来事は、営業再開してから、営業時間を新しくしたと同時に、お店の運営体制も働き方も変えました。そして社員一人一人と面談をして、今の心境や働きにくいことはないか、話を聞いたことで、後回しにしていた組織のいろいろな問題を発見できました。まるで古民家の大きな蔵を片付けするような、コツコツ進めていかないとできないことですが、そんな目の前の問題は、組織だけじゃなく、一人一人にも問題があることがわ

        ライブの対話

          思い出の秋

          思い出の秋10月で「たみ」を開業して8年目となりました。2011年にこの町の人たちと出会って、毎年10月に行われる松崎神社のお祭りや手作り朝市「三八市」が気に入って、2012年10月に、「たみ」も合わせるようにオープンしました。開業する直前まで、近所の方とミシンでカーテンを夜な夜なつくっていたことを今でも覚えています。開業前に手をかけたのは、ベッドとカーテンぐらいで、あとはもともと「たみ」にあった立派な絨毯やソファ、布団、お皿など、使えるものはそのまま生かして、冷蔵庫や洗濯機

          思い出の秋

          おせっかいの境界

          たまに私は「おせっかい」を焼くときがあります。うかぶLLCは小さい組織のため、ひとりひとりが担当する部門は異なりますが、みんなで進めることが多いのでスタッフそれぞれにマネジメント業務を求められます。うかぶLLC流のマネジメントとは、「調整」です。「調整」という言葉がよく使われ、ものごとを進める上で、他のスタッフとのスケジュールや段取りなどを調整します。 調整をしているときに、相手のためを思って「おせっかい」になるときがあります。その名のとおり、くのです。「世話を焼く」ってお

          おせっかいの境界

          はじめての夏休み

          営業再開をして旅行者や常連でお店が賑わったのも束の間、期待はすぐに裏切られました。感染者が増えてきて、宿泊予約はキャンセル、常連のお客さんもぐんと少なくなりました。私自身、県外への旅行も飲食店を利用するのも、特別な用がないと出かけなくなったので、気持ちもよくわかります。これが新たな世界なのだと、落胆しました。 世界に裏切られて、ぐだぐだに落ち込んで気が済んだ次の日、スタッフから「かき氷スタンドをやってみたいんですよね」と相談を受けました。聞けば、朝と夜だけ営業してきた「Y」で

          はじめての夏休み

          美味しさの自由

          みなさん、新しい生活様式はいかがお過ごしでしょうか? 湯梨浜町では「たみ」が、鳥取市では「Y Pub&Hostel」が営業再開しました。店中を掃除して、布団を夏布団にかえて、これまで大事にしていたことや新しく加わった決めごとを共有していくうちに、頭や身体のすみずみまで情報が入っていく感覚がありました。ガソリン満タン、準備はOK。あとはやるだけ。といった感じです。いざ、4ヶ月ぶりに店に立つと、体が鈍っていないか不安でしたが、意外とテキパキ動きました。身体の回路よりも頭の記憶の方

          美味しさの自由

          正解のない課題

          最近、美味しかった食べものは、せり、ホタルイカ、スルメイカ、白魚、わかめ、たけのこ、トマト、いちご、夏みかん、メロン、空豆、たまねぎ、わらびなど。いまは、らっきょう、梅を仕込み中です。知り合いの農家さんやご近所さんから「みんなで分けて」と電話があったり、道でばったり会ったときに「今度持ってくね」といただいたり、スーパーで並んでいたので買ったものです。 旬な食材は、新鮮なうちに仕込みをしないといけないので慌ただしくなるのですが、その時間が好きです。みんなでおしゃべりしながら作

          正解のない課題

          はじまりの宝物

          鳥取県中部、湯梨浜町にある私たちの会社「うかぶLLC(以下、うかぶ)」は、今年で8年目を迎えました。うかぶは、素泊まり宿と飲食店を併設させた店舗、湯梨浜町に「たみ」と鳥取市に「Y Pub&Hostel」を運営しながら、印刷物のデザイン制作や、鳥取大学の合同ゼミやアートプロジェクトを運営を行っている組織です。 今年の2月頃からお店に異変が起きました。観光シーズンが始まるはずが、宿泊キャンセルの嵐。「コロナ禍」のはじまりです。3月は仕事がなくなって時間があるからと、当日ふらりとや

          はじまりの宝物

          触る

          ある日、押入れに眠っていたたくさんの着物を整理しようと、呉服屋に持っていった。ずいぶん前に家族から預かったまま開けたことがなかった衣装ケース二箱分。どんな着物が入っているのか、紙の袋を開けて確認する。 亡き祖母が集めていた着物は、どこか祖母らしいセンスを垣間見れるほど、独特で少し不思議な柄や色彩をしていて、大阪の当時の文化を感じる。何度も往復して触っていると、祖母や家族の着物姿の記憶が蘇ってくる。子どもの着物、男性着物、喪服、普段着、第二礼装など、着物の種類を分けて、自分が

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          頭を休める

          休みってなんだろう? 職場で余裕のない人を見かけたら、「休むこと」を提案するけれど、人によって休みの意味は異なるようだ。友達と会うこと、一人で過ごすこと、何か刺激に触れること、欲求を満たすこと、片付けをすることなど。休みの時って案外いろいろなことをしている。 私の思う「休み」は、体の力を抜くこと。つい忘れがちになるので、お風呂に入ったり、サーフィンしたり、古武術を習ったりして強制的に頭で考えないようにしている。仕事や生活のことから離れることで、頭を休めることができる。頭が休

          頭を休める

          お店

          昔も今も、お店を開け続けることは簡単なことではない。お店をしている人にとって、お店を開けることは日常の行為だから、毎日お店を開けられることに感謝することは大げさになる。それでもお店があることが当たり前になりすぎて、しばらく行かなくなると、お店が閉まっていることもある。 お店を営むようになって、その難しさは年々わかってきたから、長年、お店を開けてきた人には心底尊敬するし、お気に入りの店は様子を見に行くようになった。だから、お店に毎日くる常連も、たまにくるお客さんも動機はなんであ

          お店

          わたしには癖がある。足を組んで座ったり、右を向いて寝たりする。その方が落ち着くから。あと口癖もある。「なんで?」「でも」。「なんで?」は、その言葉になる思考回路が知りたいときに使い、「でも」は、その答えとは別の答えの可能性を広げるときに使っている。自分でそういう風に考えるのが心地いいから発している。ある整体師は、「人によって骨格が違うから、正しい座り方はありません。」と言う。身体や言葉は、思想や体質、生活に関係しているようだ。 こういう癖は、自分ではなかなか気づかない。何かト

          整理

          家の荷物を整理する。服、本、食器、集めてきた生地、あと写真や手紙。日々の蓄積があらわになる。ひとつひとつ触って広げて、必要かどうか確かめる。この服高かったから、とか、人から貰ったから、とか。頭で考えるより、気持ちが揺れるかどうかに注目する。 写真や手紙は、自分で記録したものよりも、誰かが撮した写真やわたしへの手紙の方が、ぐっとくることがわかった。当日の写真した人や手紙をくれた人に思いを馳せる。昔から引っ越しが多くて、物持ちのいい家に憧れていた。その反動なのか、自分のものを大事

          昔からある壁紙を削り落としてペンキを塗る。いつもなら、誰かにお願いするところを自分の手でやってみようと思い、休みの時間に取り掛かる。普段、壁を意識することがないので、一部屋分とはいえ、面積が広い。見渡していると、全部ひとりでできるのか、不安になって誰かに頼りたくなる。怪我するかな、体力足りるかな、時間あるかな。など、不安が襲ってくる。 もう一人のわたしがつべこべ言わず、やってみなさい!「えいやっ」と背中を押す。壁をコテで削る動き、ザッザッという音が面白くて、不安を忘れていく。