ライブの対話

昨年の暮れ、Y Pub&Hostelで小さな音楽ライブを開催しました。このご時世、イベントを開催することは演奏者も主催者も負担が大きいのですが、やっぱり生演奏は格別でした。薄暗い店内で犬の着ぐるみを全身まとい、足踏みオルガンを弾きまがら、音楽家が一人歌っているときに、窓越しからその姿を見て驚いた通行人がいました。店内にいた観客はその状況をみて、笑い声がこぼれていました。可笑しいような、不気味なような、言葉で例えようがない時間を観客の一人一人がそれぞれに味わっているようでした。 昨年から辺りを見渡すと、スーパーのレジがセルフになったり、通信販売や飲食のテイクアウトが増えたり、講演会がオンラインになったり、これまで人間が担ってきた作業にITシステムが介入してきました。人見知りの方にとっては、余計なやりとりがなくなって快適でしょうし、仕事面でもコストを削減するチャンスでもありますので、決して否定的ではありません。でも、なにか物足りません。 先日の音楽ライブで、それが満たされました。音楽やダンスなどで表現をする人たちが、本番までの準備をする一方で、観客の私たちがいて、それぞれが開催場所に集まる。そして、音楽やダンスをとおして、今、ここに在る人たちの呼吸や声、存在を認識してコミュニケーションを図る。観客全員を受け止められているような、観客が演者を受け入れているような、高揚感がありました。仕事や日常ではありえない出来事が起きて、眠っていた感覚が蘇りました。 もしも、「ライブ」が音楽やダンスに限らず、町で食事をすることも、お出かけすることも「ライブ」だとしたら、どうでしょう? 友達と約束をして飲食店で過ごす時間も特別になります。通販でお買い物するのと、お店で服を選ぶのと目的が異なります。この時間、この場所でなければ、出会えないものや人がいて、交わされる対話があるかと思うと、予期しないこと全てが必然なことのようにも思えます。 職場と自宅の行き帰りの間に、少しでも寄り道をしてみてください。思いがけないことはそこ此処にあって、町にある小さなお店は、リアルな交感ができる場所としてあなたのことを待っています。私たちもお店として、町で暮らす方々に向けて今年一年、何ができるのか、模索していきたいと思います。2021年、明けましておめでとうございます。本年もよろしくお願いいたします。

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