はじめての夏休み

営業再開をして旅行者や常連でお店が賑わったのも束の間、期待はすぐに裏切られました。感染者が増えてきて、宿泊予約はキャンセル、常連のお客さんもぐんと少なくなりました。私自身、県外への旅行も飲食店を利用するのも、特別な用がないと出かけなくなったので、気持ちもよくわかります。これが新たな世界なのだと、落胆しました。
世界に裏切られて、ぐだぐだに落ち込んで気が済んだ次の日、スタッフから「かき氷スタンドをやってみたいんですよね」と相談を受けました。聞けば、朝と夜だけ営業してきた「Y」で、コロナ禍になる前から、夏の間だけ営業時間を変えてかき氷を販売してみたかったそうです。切なる望みに「やってみたいことはやってみるといいよ。」とGOサインを出すと、待ってましたと言わんばかりに、シフトを調整して、必要な備品をコツコツ集めていきました。数日後の朝、SNSで「かき氷スタンドやるよ!」と自分の店のアカウントを見て、行動力のスピードに驚きました。そして、SNSを見た人や通りすがりの人たちが、「かき氷スタンド」に集う写真が送られ、「まだ、もうちょっとレベルアップできますねえ。」と物足りなさそうに報告をしたのでした。
彼女の行動に続くように、社内でも新たなプランが立ち上がっていく中、「夏休みをしてない」と元気のないスタッフがいました。今までは仕事をとおして、お客さんと夏のイベントを楽しんで、暑さを乗り越えてきたけど。感染者が増えて、準備していたイベントも町の祭りも花火大会も中止になったので、夏を乗り越える気力がないということでした。
他のスタッフも同じ気持ちを抱いたので、慰労会を口実に、みんなで1日だけの夏休みを過ごすことになりました。全員集合は厳しいので、集まれる人だけで集まり、海水浴もできないので、ずっと気になっていた「たみ」から車で20分ほどにある「小鹿渓」へ沢登りにいきました。車を止めて遊歩道を歩くと、小さな沢が見つかり、岩から岩へと登っていきました。スポットに到着して、岩から飛び降りたり、大きな岩で日向ぼっこしたり、滑ったりしました。
いつもだったら海に行ってたけど、大人になってはじめての沢登り体験で、新しい遊び方を見つけたようでした。カンカン照りの山道を下りながら、鳥取県には他にどんな沢があるのか興味を抱きつつも、自然を甘くみないようにと、川の怖い話をして帰りました。


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