ニートでなぜ悪い 6話
はじめに
この物語はフィクションであり、実在の人物・組織・団体とは一切関係ありません。
本編
革ジャンのボタンが、外に漏れるコンビニの明かりを反射して、鈍く光っている。
なぜだかその光が、どこか遠くの知らない場所まで連れて行ってくれるような気がして、俺は黙ったまま、それをぼうっと眺めていた。
「柏谷くんは吸う人?」
アメスピの黄色を口に咥えながらそいつは話しかけてきた。
「うん。」
俺は付き合おうと思い、ポケットから赤マルを出して吸い始めた。
「まだ暑いね。」
夏はそろそろ終わりを迎えようとしていた。
予報では9月に入ってしまえば、すぐに上着が必要になるらしい。
「同じクラスだった時に担任だった"木刀"先生いるでしょ?今入院してるんだってさ。」
"木刀"という言葉を聴いて懐かしさに少し笑みが浮かんだが、"入院"という言葉が引っかかった。
結果、中途半端なにやけ顔になってしまって、久しぶりに恥ずかしいという気持ちを味わうことになった。
恥という感情は、常に他者の存在を意識することで湧き上がる。一種の社会的な反応なのだ。自分の行いに対して、他者の価値観を意識する、つまり自分を客観視することによって気づく自らの愚かさの表出なのだ。
ニートになってから1ヶ月、ほとんど人と会話をすることもなかったからか、すっかり忘れていた。
恥を含ませた、取り留めもない煙を吐く。
コンビニの中から漏れ出る灯りが拡散する煙を照らしている。
「なんの病気で?」
「知らない。」
「そっか。でも、良くなるといいな。」
何が"でも"なのかは自分にもわからなかったが、無理くりにでもポジティブな意味合いを込めたかったことは伝わるだろう。
「お前はいまどうなの?」
「今はバンドやりながらコンビニと飲み屋でバイトしてるよ。」
「ギターなんて弾いてたっけ?」
「高校からね〜、そんで大学入ってから組んだバンドで活動中って感じ。」
写真をやっていたから、芸術とは無縁ではなかった。
ただ、音楽はとりあえず気に入った曲を聴くだけで、特にこだわりがあったわけじゃなかった。
「どんなバンドなの?」
「うーん、聴いたらわかるよ。今度の土曜ライブするからさ。おいでよ。また連絡するわ~。」
そろそろ行くわ、と一言添えて、あいつは駅の方面へ向かっていった。
結局、あいつが誰だったのか名前は思い出せなかったが、昔よく遊んでいたことをなんとなく思い出した。
吸い殻を灰皿に捨てる。
1ヶ月前まで住んでいた都会では、徐々に灰皿が無くなりつつあったのを思い出した。
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