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まわるもの②

少し必要があって、ポール・オースター『幽霊たち』を読みはじめた。今月末くらいにまとまった感想が書けたら、と思う。なんとなく、この時代のアメリカ文学の影響が自分の…

蛇ノ手
6か月前
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『速水御舟随筆集』

捕らえられた、と思った。続いて、逃げられない、と思った。飛べなくなるまで焦がされて、ここで煙となるのだろう。 速水御舟(1894年~1935年)は、大正・昭和初期に日本…

蛇ノ手
6か月前
3

『かみまち』

漫画を探しに行って、今日マチ子の『かみまち』を買う。一気に読んでしまう。 共感、というものでは埋められない、と感じる。15、6歳だった頃を思ってみても、自分なら、…

蛇ノ手
6か月前
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『頼むから静かにしてくれ』

古書店に行く。以前そこで手に取った歌集の、また同じ人の本があったので嬉しい。句集も、ぱらぱらと見て「これは!」と思ったものが、帰りの酒くさい電車で開いたらやはり…

蛇ノ手
6か月前
6

まわるもの

続けて、幸田文を読む。今は『回転どあ/東京と大阪と』だ。やはり非常に細やかで、それは目の配り方にも言葉の選び方にも窺える。おおらかさとはどこか違っているが、全く…

蛇ノ手
7か月前
4

『PERFECT DAYS』

『PERFECT DAYS』2回目を観た。ヴィム・ヴェンダースは幸田文を前から知っていたのかな。映画の影響か、現実世界では通販ベストセラー1位になっているというのだから、そう…

蛇ノ手
7か月前
6

うまうまの柿

正月の思い出といえば、子供の頃、道を行く車のトランクが全部開いて、中から門松が二本飛び出していたことだ。門松を見るのも初めてだったし、ましてや車のトランクからに…

蛇ノ手
1年前
6

憧れの日本酒

冬になりたての頃は特に、たっぷりと水を含んでいそうな垂れ込める雲の厚ぼったさが、ともすれば陰鬱になりそうな気持ちに添うようで心地よい。濃い白色の雲を見て、ふとよ…

蛇ノ手
1年前
4

早いもの、遅れるもの

 季節をはみ出たものを通り過ぎる人がいる。わたしもまたそのひとり、一時期見ると見慣れたもので、冬の紅葉や冬銀杏など。盛りを過ぎても色は美しいのだが、ありがたく写…

蛇ノ手
1年前
3

ジョセフの箱

初恋の箱だった。 美術館に立ち寄りはじめて最初に好きになった作家のお話。初めはたぶん18歳の頃だったかな。 千葉・佐倉にあるDIC川村記念美術館でちょうど今日まで開催…

蛇ノ手
5年前
5

水底には、砂のお城も建設中で

昔訪れた鳥取砂丘ではラクダに唾をかけられたこともあったけど、やはり熱い砂漠のぼんやり時間をたのしみに行くんだろうな。先から中から蒸発してるんだろうって、見えない…

蛇ノ手
5年前
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まわるもの②

少し必要があって、ポール・オースター『幽霊たち』を読みはじめた。今月末くらいにまとまった感想が書けたら、と思う。なんとなく、この時代のアメリカ文学の影響が自分の世代には強いのではないかと思う。

晴れわたって、どこにでも行けそうな気分、だけれどまたなんとなく家にいる。二日酔いの頭を癒して、夜には気になっているバンドのライブ配信を観る。
「良いと思ったものを他人様にそっと差し出したい」という最近の決

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『速水御舟随筆集』

捕らえられた、と思った。続いて、逃げられない、と思った。飛べなくなるまで焦がされて、ここで煙となるのだろう。

速水御舟(1894年~1935年)は、大正・昭和初期に日本画のあらたな境地を拓いた画家である。『炎舞』は御舟の中で最も知られているだろう作品のひとつで、巨大な炎に巻き上げられた蛾たちの羽ばたく姿を描いたものだ。『炎舞』の実物を初めて目の当たりにした際、竦んだ。音の一切が消え、ただ眼の玉だ

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『かみまち』

漫画を探しに行って、今日マチ子の『かみまち』を買う。一気に読んでしまう。

共感、というものでは埋められない、と感じる。15、6歳だった頃を思ってみても、自分なら、と置き換えずに読むのを導かれるような感覚だ。しかし、いくらか年月を経た眼で見ても、登場人物の行動を子供だとかじれったいとも思えない。
身を削りながら取材を重ねたことが痛いほど伝わる。フィクションとは何だろう、と思う。確実に、確固としたか

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『頼むから静かにしてくれ』

古書店に行く。以前そこで手に取った歌集の、また同じ人の本があったので嬉しい。句集も、ぱらぱらと見て「これは!」と思ったものが、帰りの酒くさい電車で開いたらやはりすごく良くて、嬉しい。

帰る前に、水タバコも吸ったんだった。普段煙草はやらないが、レイモンド・カーヴァーの短編に水タバコが出てきたのを思い出して無性に吸いたくなるミーハー心。『頼むから静かにしてくれ Ⅰ』(村上春樹訳)に入っている「アラス

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まわるもの

続けて、幸田文を読む。今は『回転どあ/東京と大阪と』だ。やはり非常に細やかで、それは目の配り方にも言葉の選び方にも窺える。おおらかさとはどこか違っているが、全くだらしなくない。慣れた手が、着物の帯をきゅっと結んだ時を想像させる。

そもそも幸田文は10年前くらいに知人の強い勧めで手に取ったのだったが、先日あらためて話題をふってみると忘れていた。何冊かを読んで、それ以上読むと仕事を忘れて読書してしま

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『PERFECT DAYS』

『PERFECT DAYS』2回目を観た。ヴィム・ヴェンダースは幸田文を前から知っていたのかな。映画の影響か、現実世界では通販ベストセラー1位になっているというのだから、そうして読み継がれたらいいな。
作中の音楽がいくつか話題になっていて、ザ・キンクスの《サニー・アフタヌーン》は初めて聴いたけれどとても印象に残った。
さまざまな考察があるだろう、その考察を引き出すような目の配り方をした監督のその目

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うまうまの柿

正月の思い出といえば、子供の頃、道を行く車のトランクが全部開いて、中から門松が二本飛び出していたことだ。門松を見るのも初めてだったし、ましてや車のトランクからにょっきり飛び出たまま走り去る門松は初めてだった。

昨年から変わったことといえば、家に糠床を迎えたことだろうか。きゅうり、かぶ、大根、切って混ぜていると、不思議と気持ちが緩まる。
人は、糠床の前ではやさしい気持ちになるらしい。必要以上にこね

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憧れの日本酒

冬になりたての頃は特に、たっぷりと水を含んでいそうな垂れ込める雲の厚ぼったさが、ともすれば陰鬱になりそうな気持ちに添うようで心地よい。濃い白色の雲を見て、ふとよぎるのは濁り酒のことだ。寒さのこたえる日に注がれるあの種の酒は、きんと音の鳴りそうな清酒とは違う、包み込む感じがある。

幸田文の「蜜柑の花まで」は酒について書かれた随筆だ。『幸田文 季節の手帖』(平凡社)に収録されているもので、この本のな

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早いもの、遅れるもの

早いもの、遅れるもの

 季節をはみ出たものを通り過ぎる人がいる。わたしもまたそのひとり、一時期見ると見慣れたもので、冬の紅葉や冬銀杏など。盛りを過ぎても色は美しいのだが、ありがたく写真など撮っていた秋口を脱ぎ捨てるかのようにすらすら歩いていくのがおかしい。
 師走も半ばの上野公園の紅葉群は背景を青くしながらよく映えていた。青々とした常緑樹のなかで鳥たちの鳴き交わす声が、ふとすると歩行中もやってくるぼんやりの眠気を醒まし

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ジョセフの箱

ジョセフの箱

初恋の箱だった。
美術館に立ち寄りはじめて最初に好きになった作家のお話。初めはたぶん18歳の頃だったかな。

千葉・佐倉にあるDIC川村記念美術館でちょうど今日まで開催されたジョセフ・コーネル展。
http://kawamura-museum.dic.co.jp/art/exhibition/

ご存知の方も多いかもしれないのだけれど、ジョゼフ・コーネル(1903-1972)はアメリカの美術作家で

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水底には、砂のお城も建設中で

昔訪れた鳥取砂丘ではラクダに唾をかけられたこともあったけど、やはり熱い砂漠のぼんやり時間をたのしみに行くんだろうな。先から中から蒸発してるんだろうって、見えない蒸気の昇華のことを考えてはきゅんとなるのだ。

いやだ。ぼやぼやしているからラクダの脛を蹴っちゃうんじゃない?

サン=テグジュペリを読んでいて、読み返すのはいつも決まって無人砂漠に降り着いた話だ。
例えば、こんなような。

「飛び立って三

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