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歌集『緑を揺らす』 吉澤ゆう子/著を読む
『緑を揺らす』を読んでいると、傍に作者がいるような、
そんな不思議な気持ちになる。
髪や指や息が近くにあるようになまめいて、
しかし透明な作者がそこにいる。
歌集では自身、父、子、夫、(チェロも人のように歌われる)を歌い、赤きフェラーリ、風鈴、満月、様々なものを歌う。
そして、その観察する眼をとおして作者の心があらわれる。
以下に読んでいて印象に残った歌と感想を書く
自身をうたうとき、作者は歌わ
歌集『ヘクタール』大森静佳/著 を読む
以前読んだときにたくさん付箋を貼った。しばらくそのままで、今回、ふたたび読んだ。すると、前とは違った箇所に付箋が貼られた。前回、読んだときに貼った箇所からはずしたものもある。歌集名になったような代表歌はいくつもの読みや評がすでに出ているであろう。
なので、今回は、付箋を貼った歌の中でも鑑賞に選ばれにくいであろう歌もいくつか読んで10首読むことにした。といいつつ、この歌集、様々な表現がちりばめら
角川短歌賞佳作 『対岸』魚谷真梨子 作を読む
『短歌』2021年11月号掲載の『対岸』魚谷真梨子 作の
中で印象に残った歌とその感想を書きます。
なお、本感想は、選考者の評の言葉や読みにステレオタイプ的に
感じるところがあり、作品の魅力を削ぐような特定の方向に固定してしまうのではないかと思い、その点を自分の中で解消したいと思ったことがきっかけとなります。
全五十首と選考委員の評は『短歌』2021年11月号を読んでください。
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『みじかい髪も長い髪も炎』 平岡直子/著 を読む
印象的な言葉の組み合わせからのイメージがリズムをつくる。
繰り返し歌を読むうちにイメージのリズムがリフレンして妄想のように 読みが膨張していく。
以下に歌集の中から好きな歌10首を選んだ。
※かぎかっこは章の題名
「東京に素直」
メリー・ゴー・ロマンに死ねる人たちが命乞いするところを見たい p9
”メリー・ゴー・ロマン”は造語か。”メリーゴーランド”ならわかるのだが。
ロマ
『虹を見つける達人』逢坂みずき/著 を読む
編年体で作られた歌集であろう。
解説にもあるがみずみずしさを感じるまぶしい歌集である。
そのまぶしさはうたわれている景や心が人の生きる中で、
たぶん、一番、変化の激しい時間だからであろう。
その瞬間を切り取った歌が魅力的である。
好きな歌がたくさんあった。
その中でさらに一首ずつで印象に残った歌の感想を書く。
「だれにでもやさしくできるおとなになる」ときどき封筒より出して読む P12
この
『SOUR MASH』 谷川由里子/著を読む
装丁がかっこいい。CDジャケットのよう。あるいは英米文学の詩集。本フェチ的な心にはぐっとくる。
一人称だけど(いわゆる)私性の重たさがないのがよい。だから、どのページを開いても歌のことばに入ることができる。そうして読み進めるうちに素敵になってくる。
ずっと月みてるとまるで月になる ドゥッカ・ドゥ・ドゥ・ドゥッカ・ドゥ・ドゥ p4
この歌が歌集の一首目。
上句は月のことしか言っていない。ずっ
『僕は行くよ』土岐友浩/著 を読む
たくさんの付箋を貼った歌の中からさらに好きな(というか今の気持ちに合う)歌を選んだ。個人的な好みで読んだ感想として受け取ってほしい。
いないのにあなたはそこに立っているあじさい園に日傘を差して p12
いない人を想う。想えばその人は見える。
記憶からにじみ出るような景としあじさい園と日傘の人がいる
死んだ人は歩けなくても見ることはできるだろうか水無月の水 p18
実体(としての足)がな
『記憶の椅子』中津昌子/著 を読む
緑の表紙に薄く白い半透明なカバーが掛けられている。
この歌集のつくりそのものが歌集の題を表すよう。歌の言葉が違う時間や空間に連れて行ってくれる。以下に感想を書く。
もうそこまで青い闇が来ているのに風景を太く橋が横切る p12
夕暮れどき。
「青い闇」が不可侵な時間と空間なら「横切る橋」は
現実に存在する人工物。けれど、この時間は橋はまるで人の手から
離れて「青い闇」と響きあうように存在する。
『バックヤード』魚村晋太郎 第三歌集を読む
魚村晋太郎氏の第三歌集『バックヤード』について
以下にわたしの好きな歌の感想を書く。
十首にしたかったのだがおさまりきらなかった。
手元の歌集にはもっと多くの付箋を貼ってある。
魚村氏の歌は言葉のイメージが強力で読み手の心が引き寄せられていく。
まるで引力のように。
あたまのなかにながいしづかな廊下があるコンコースゆくはるの深更 p6
目を閉じて歌の景を思い浮かべるうちに自分の中へ降りてゆく
塔3月号 新樹集 大森静佳さんの歌を読む
昨日(2021/3/27)の塔の「百葉集・新樹集を読む会」で大森静佳さんの 歌が話題になった。
昨日の議論を経て、なんとなくの感覚で味わうだけではなく言葉に定着させたいと考えた。そうすることで、さらに理解や読みを深めたい。
以下に大森さんの歌を読んでの感想を書く。
寝室の埃を見つめているうちに寄り目になった、みたいな秋だ
昨日の会での議論となった歌。
歌にあらわれる身体の時間性と作中主体その
『広い世界と2や8や7』永井祐 を読んで。
歌集を読み終えて、ふと見ると、白い表紙に縦に引かれた銀のラインが 光る。手にとって動かすと光は虹のように七色に変化する。
正直に言おう。この歌集の読み方がよくわからなかった。立って読むのか座って読むのか電車で読むのか山で読むのかしばらく僕は座って読んでいたが、わからなくなって部屋の中をぐるぐる歩きまわり読んだ。そうして2回目に読んだときに気になった歌へ付箋を貼っていった。
けれど、よくわかっ