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イトシマメグル #9

人びとを見守る丘

先日、僕が地方に転勤して寂しがっているのではと心配して、友人が連絡してきた。
安心させようと、毎週末ドライブに出かけていること、史跡巡りをしていること、食べ物がとても美味しいことなど、充実した糸島での生活を話しているうちに、つい延々と長電話に付き合わせてしまった。

お詫びとお礼を兼ねて何か送ってあげようと思い、今日は、長糸にある古民家カフェに行ってみることにした。

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外出のついでに、天気も良いので加布里にある釜塚(かまつか)古墳に寄ることにした。
我ながら史跡巡りもだんだんと慣れてきた。
輪が重なっているように見える特徴的な古墳。
この形はめずらしいな、なんてことも分かるようになってきた。糸島では最大の円墳らしい。
駅近くの住宅が並ぶなかにあって、古墳が日常の生活風景に違和感なく馴染んでいるのも凄い。

目的地のカフェは、古い醤油屋の建物を再利用したもので、とても賑わっていた。
おしゃれで贈り物にも合いそうなものがたくさん並んでいる。地元の素材にこだわったり、無添加だったり、糸島を感じてもらえそうなものがたくさんあった。

買い物を済ませ、もう一つの目的地に向かう。
この近くにある長嶽山(ながたけやま)古墳群。この古墳群の存在も、今日の買い物にこのカフェを選んだ理由の一つ。

古墳をめざして、宇美八幡宮まで集落のなかを歩いていく。
路地沿いの水路を流れる水がキラキラと輝いている。
周りの古民家の様子も、伝統を感じさせる風情のある風景だ。

鳥居をくぐり、急な石段を登る。
境内にあった説明板によると古墳時代後期のもので、大小14基もの古墳があるとのこと。

一際大きくて、唯一の前方後円墳の一号墳を目指す。
静かな尾根沿いの道はなんだか神秘的な空気に包まれている。

その先のスッと開けた場所に、木々に包まれたこんもりとした墳丘がある。

「開けた場所に、木々に包まれた…」なんて、矛盾しているようだけど、本当にそんな感じだった。

墳丘には石祠があり、八幡宮の奥の院として祀られている。深い緑に包まれた世界を感じながら、墳丘をぐるりと周る。
途方もない年月を越えて墳丘の形は崩れてしまっているけど、ここが尾根の端で、集落を見下ろせる場所だったことがわかる。
山から流れ出た水で、人々が田畑を潤し豊かな実りに変えていく姿を、太古の昔から見守ってきたのだろう。

山道を戻りながら、ふと気が付いた。
神秘的な空気を感じたのは、この道のせいなんだろうなと。
決して立派な道ではないけれど、どこか綺麗に整えられている。
ここを守ってきた人がこの場所を思う気持ちのせいだと。

いにしえの墳墓が、奈良、平安時代のころには七日間の大祭が行われる大社となり、今は八幡宮として地域の人々の大切な拠り所にされている。形は変われども、この丘は地域の人にとって、ずっと特別な場所だったし、これからもそうなんだろう。

境内を後に、急な石段を降りると参道が川辺まで続いていた。
川辺にある鳥居のそばには、支石墓が並んでいた。前回見た志登(しと)支石墓と同じ形。
長野宮ノ前支石墓(ながのみやのまえしせきぼ)と言い、さっき見た古墳よりもずっと前、弥生時代の共同墓地に使われたものだそうだ。

丘の上で想像した、いにしえの風景をさらに数百年巻き戻す。

目の前を流れる長野川は水田の中をゆっくりと流れている。
きっとそのころから同じように。
長い歴史の中には、災害やときには争いもあったかもしれない。人々がそれを乗り越え、また、豊かな自然の恵みがそれを支え、今も変わらず時が流れている。
糸島に来たばかりで、何も貢献できてない僕が言うのもなんだけど。そんな歴史のなかで暮らしていることを、何となく誇らしく感じた一日だった。


#10 にメグル

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DJ 栗田善太郎


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