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希死念慮の希死田 第3話
美波
恋をした。命懸けの恋だった。骨の髄まで愛していたのだ。
男の名前は田嶋悠介。
田嶋は邪険に扱われれることが多い派遣社員の美波にも紳士的で優しかった。
田嶋は結婚指輪をしていたし、スマホの壁紙は二歳になるのだという息子の写真だったので妻子がいる
ことは分かっていた。
最初に触れてきたのは、美波の手を握ったのは田嶋の方だった。
大きくて骨ばっていて乾燥した熱い手だった。
その夜、美波のアパート
希死念慮の希死田 第2話
奈緒子
母性というのは子供を産めば自然と湧いてくるものだとばかり思っていた。
しかし、現実は違った。
奈緒子は自分が産んだ子を愛おしいと思うことが出来なかった。
涼介は酷い偏食で癇癪持ちで兎に角寝ない子供だった。
一日中火がついたように身体を仰け反らせて泣き喚き、抱かれるのを嫌がり、この世の全てが気に食わないのだと全身で主張するように地団駄を踏んで物を投げつけた。
一歳六ヶ月健診で言葉の遅れと多
希死念慮の希死田 第1話
あらすじ
疲れた。消えてなくなりたい。
就職活動の失敗。過酷な労働。先の見えない毎日。
いつしか漠然とした死を願うようになった内気なケーキ屋店員、果歩の前に現れた謎の男。
黒い細身のスーツに身を包んだ死神のように陰気で不気味な男は自らを希死念慮の希死田と名乗った。
夫のモラハラに悩む育児ノイローゼの主婦、奈緒子。
相手が既婚者とは知らず妻子ある男性と交際していた事に気付いてしまった派遣社員、