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新しいレリジョン?

先日、とある有名優良企業に勤める優秀なビジネスパーソンである友人が我が家を訪ねてくれて、仕事場にある大きなホワイトボードを使いここ数年彼が熱心に取り組んでいるものについて講義をしてくれた。

お題:投資信託

過去30年間の実績から今後も平均7%の運用利益が期待でき、老後に必要と言われる2000万円を現在の所得から少ない額の投資で捻出するという資産形成のノウハウだ。彼の推奨する方法は主にメインの収入が給料であるクワドラントの人に向くものらしい。


筆者も投資には手を出さないものの、定期的にお金に関して考えたり本を読むことが好きで、これまでもまとまったお金が手元にあることで挑戦できることの幅が広がってきたことを十分に実感しながら生きてきたわけだから、(若干の知識しかなかった投資信託というテーマではあったが、)彼の講義には非常に興味深く聞き入った。特に複利の効果なるものは機能するのであれば非常に理にかなった希望であり、加速してゆく資産形成は取り組んでいる当事者にとって非常に楽しいだろうなと思った。

彼がホワイトボードを埋め尽くした頃、こちらから出る質問に対する答えと熱い講義そのもののおかげで、20畳ほどの仕事部屋の窓は全て曇れるだけ曇っていたほどだったが、そのホワイトボードを見直して、投資信託は今やあらゆる宗教にとって代わることのできる現代版宗教になり得る可能性があるなと感心した次第である。

筆者は前述した通りいわゆる投資は全く手を出していないし、おそらく今後もしないのだが、トレーダー上がりの作家であるナシーム・ニコラス・タレブの原書の愛読家なので「volatility(=(価格)変動性)」という言葉を理解しているが、この「変動性」が株式市場に存在するにも関わらず、2000万円もに相当する資産を自分のコントロールの外で浮き沈みする市場に委ねて夜も眠れるというのはまさに「信じるチカラ」に他ならないのではないか?

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( Nassim Nicolas Taleb / by Getitty Images )

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(PowerPoint by seekingalpha.com)

かつてより様々な文化圏に生きてきた人類は目指すべき到達点を想像しながら祈り、己を律しながら日々自己の修練に取り組み、定期的に自身の信ずるものを取り扱う窓口に有り難くお金を払いに行っていた。この構造は基本的に投資信託でも変わらない。宗教を信仰する人間が天に富を蓄えるが如く、老後という未来に富を蓄える。そして古今東西、心許せる相手に対しては自身の信仰する宗教の偉大さを語った。もう少し不特定多数に対して働きかければそれは「布教」と呼ばれるものになる。今現在、投資信託の魅力や必要性に関する話をネット上で解説する人たちも少なくない。これも思うに構造としては宗教と共通するものがある。少なくない人たちが日々布教しているのだから。(ちなみに筆者の立場は宗教にも投資にも中立的である。)

アメリカにおいては、キリスト教を信仰する人間はいくら隣人と普段仲が良くとも、隣人が教会に通わない人間なら心の中では「彼らは天国へ行くことはできない」、と本気で考えている、というジョークがあるが、あながち完全なジョークではないだろう。投資信託を始められず、貯金額以上は増えもしない貯金を続ける人々に対して、複利の効果で資産形成を加速させられることを知っている人間はきっと同じように彼らに対していくばくかの哀れみを抱くだろう。そうなるともはや、ここに新たな宗教が出来上がりつつあると言っても言い過ぎではない。

「まだ投資に関して正しい認識を持って実践している日本人が非常に少ないというのが残念な現状なのだが」

という語り口は本、テレビ、広告、ネット上でも様々なマネー系知識人から共通して聞く言葉だ。

正しい見極めに要する時間は人によってそれぞれだろう。

早く始めた方が良いと言われる一方で、下降傾向にある波の中で投資信託を「信じきれずに」損切りを行ってしまう人間も多いと聞く。

どれだけ下落していっても損切りは行うべきでないという友人に理由を訪ねたらすぐにその答えが返ってきた;


「必ず上向くことを信じているからだ」


いかなる時代も、我々人間は心の中に対象は変われど信じるものを持つものなのだろうなと思った。ちなみに収入の1割を投資に回す方法をその筆者の友人は取っていて、14%ほどの運用利益が今現在あるらしい。

最後に筆者自身の考えを述べると、おそらく日本は今後80くらいまで国民が働ける社会になっていくと考えていて、今のところ自分自身も死ぬ日まで仕事をしている予定だ。"生産教"信者である。

  ( 文・西澤 伊織 / 写真・aki_zimbabweさん )

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