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モノが売れない時代の活路。「ファンダム」「サブスクリプション」「D2C」 ~コンテンツ産業が苦境を乗り越えるための策を考える~

井ノです。

先日、YouTuberの収益が下がってるという記事が話題になっていました。この背景には自粛によってモノが売れなくなり、広告を出す企業が減ってきているという要因がありそうです。

特に、コンテンツ産業は大打撃を受けているように思います。アニメ業界においても、作品制作が延期になったり、有名な声優さんが続々とYouTubeに進出したりと、深刻な状況でしょう。

このような事態の解決策を考える上で重要な要素として、「ファンダム」「サブスクリプション」「D2C」が挙げられます。

今回は、この3つが解説されている書籍を紹介しながら、コンテンツ産業の苦境を乗り越えるための活路を考察していきます。

ファンの行動力学──『ファンダム・レボリューション:SNS時代の新たな熱狂 』

本書は、先日メンタリストDaiGoさんが、YouTube登録者200万人を達成時に役立ったと紹介していた1冊です。(紹介時より値段が高騰しているので、Kindle版をオススメします。)

◆『ファンダム』とは特定の商品やコンテンツ、人物などに熱狂する集団、いわゆるオタクのこと。また彼らが自発的に行う非営利かつ一連の活動のこと。

インターネットやSNSの普及によって、ファン同士が結びつき、熱狂する対象へ容易にアクセスすることが可能になりました。そんな中で台頭して来ているのが、ファンダムの存在です。

その理由として、「モノ」よりも「コト」に価値がシフトしている昨今においては、ファンダムが消費経済において重要な役割を果たすからです。

例えば、代表的なファンダムとして「アイドルおたく」が挙げられます。彼らは、大量にCDを購入(モノ消費)することで、握手券によってアイドルとの握手体験(コト消費)に全力投球するからです。

ここ最近の自粛により、ますますモノが売れない状況になっているため、ビジネスの成功は今や、ファンダムといかに良好な関係を築けるかがカギになると言っても過言ではありません。

本書は、そんなファンの行動力学を、新しい時代のマーケティング手法の一つとして紹介しています。

◆ファンダムの種類
①ユートピアとしてのファンダム(80年代以前)
社会的マイノリティが俗世を離れて理想的な仲間達と築き上げる理想郷。

②下克上としてのファンダム(80年代~90年代初頭)
主流文化を別の基準で構築、捉え直すことで、新天地のトップを目指そうとする集団。

③自己実現としてのファンダム(現代)
普段の日常を離れたファンという立場で、自己実現を目指す集団。

現代におけるファンダムは、普段の役割とは分離した立場において、自己実現を目指します。それは、彼らにとってファンダムが、単なる趣味やアイディンティティの補完活動ではなく、熱狂の対象を自己のアイデンティティと同一視した貢献活動であるということを意味しています

--人はみな自分が独特で特別だと思いたがる。その一方で所属感を感じたがる。ファンダムはこの矛盾をうまく解決してくれる。

--ファンダムの目的は、魂のない商業的なコモディティに、個人の生きがいを吹き込むことである。

熱心なファンダムによる貢献活動は、企業やクリエイターにとって大きな力を持ちます。

その反面、安易なブランディングや目先の金儲けのような行為が、ファンが抱いている幻想を裏切り、彼らのアイディンティティを全否定してしまうため、炎上を引き起こす要因にもなるのです。

企業やクリエイターがファンダムと良好な関係を保つためには、慎重かつ誠実な言動を心がけ、特殊かつ個人的なニーズに応える価値を提供し、ファンの自己実現を支援するという姿勢が必要です。

週刊誌にデマを書かれようものなら、毅然とした態度で真向立ち向かい、弁護士を立てて迎え撃つぐらいの力強さで、ファンの持つ幻想を守り抜く姿勢が、ファンダム・マネジメントには求められます。

とは言え、ファンの言いなりになっているだけでは、より良い成果を実現することはできません。

時には、多少のバッシングを覚悟して意思決定を貫く勇気や絶妙なバランス感が必要になるでしょう。

◆『ファンダム・マネジメント』の秘訣
・お金儲けよりファンを繋ぎ留めることが優先。
・ファンダム・グループの一体感を保つ。
・ファンが持つ幻想を裏切らないように、慎重かつ誠実な行動を心がける。
・ファンの動機や情熱を理解し、特殊かつ個人的なニーズに応える。
・ファンが必要としている価値を提供し続ける。

サブスクリプション――「顧客の成功」が収益を生む新時代のビジネスモデル

昨今のサブスクリプション・ブームの背景としては、人が「所有」するよりも、必要なものを必要な時に「利用」することを望むようになってきたからです。

例えば、車を所有したい訳ではなく移動できれば良い、レコードを所有したい訳ではなく音楽が聴ければ良い、というような価値観の人が増えているということです。

サブスクリプション導入は、単なる課金形態の変更と捉われがちですが、実際はビジネスモデルの変革です。

なぜなら、従来の売るまでを重視する商品売り切り型の考え方から、継続課金してくれる顧客との、長期にわたる関係を重視した考え方にシフトするからです。

サブスクリプションにおいて重要なのは、特定顧客のウォンツ欲求とニーズ必要に着目し、そこに向けて直接的かつ継続的な価値を提供し続けるサービスを創造することです。

サブスクリプションで成功している企業としては、AmazonやUberが代表的です。両社とも、顧客一人一人が異なる顔を持っているということを認識して、その上にビジネスモデルを築き上げています。

製品中心の発想からなる都合の良い顧客イメージではなく、あるがままの顧客イメージを踏襲した戦略の必要性を理解し、いち早く取り入れた結果成功できたのです。

◆サブスクリプション・エコノミーの考え方
・モノ所有ではなく、サービスによって顧客が結果を出せること
・標準化ではなく、顧客ごとにカスタマイズ可能であること
・売り手主導の陳腐化ではなく、顧客のために絶え間なく改善していくこと。
・製品ではなく、顧客にサービスや体験を提供すること

サブスクリプション文化というのは、サービスを利用している顧客に確実に成功をもたらすことであり、それを価値に変換するということです。

これを実現するためには、組織の壁を取り払い横断的に協力体制を築くこと、顧客に提供するサービスの中に市場調査が含まれていること、1対1のマーケティングであることを理解して顧客とwin-winの関係を築くこと、顧客の生活の一部となって彼らの生活の質を向上させることなどが挙げられます。

日本の企業では、なかなかハードルが高そうな条件が並んでいますが、うかうかしていられない状況であるのは確かです。

既存事業においてモノが売れなくなれば、製品中心ではなく、顧客中心であるサブスクリプション型のサービスのようなビジネスモデルへの変革が求められているのです。

D2C 「世界観」と「テクノロジー」で勝つブランド戦略 (NewsPicksパブリッシング)

D2C(Direct To Consumer)とは、簡単に言うと、「顧客への直接販売」のことです。

伝統的なブランドでは消費者との間に「広告」と「小売店」が介在していますが、D2Cブランドは仲介者不在で消費者と直接取引を行います。

ブランディングにおける相違点
【D2Cブランド】 【伝統的なブランド】
デジタルネイティブ メーカとして誕生
ライフスタイル   プロダクト
ミレニアル世代   X世代以上
世界観を重視    機能を重視

重要なのは、D2Cブランドはプロダクトではなく、世界観やライフスタイルを提供するということです。

つまり、「コト付きのモノ」という形の価値提供です。

例えば、ニューヨーク発のマットレスブランド「Casper」は睡眠や健康と言ったライフスタイルの向上を提供しています。スーツケースブランドの「AWAY」は旅行という形で世界観を提供しているのです。

D2Cブランドにおいて最も重要な役割を果たすのは、インフルエンサーの存在です。

なぜなら、ファンはインフルエンサーが持っているモノと一緒のモノを欲しがるからです。

伝統的なブランドでは、製品を作って広告で魅力を伝えるという一連の手順が必要になりますが、D2Cブランドでは割愛できます。

インフルエンサーの宣伝一つで、ファンダム内の口コミやコミュニケーションが活性化し、販売が促進されるからです。

男性は製品を買う場合、機能面を重視する傾向が強いですが、女性は共感を重視する傾向があります。

そのため、女性向け製品においては、見た目、手触り、世界観と言った情報が、身近なインフルエンサーからダイレクトに伝えるような戦略が効果的な訳です。

D2Cブランドにおいては、単なるフォロワーの多さよりも、ニッチなファンダムの存在が重要になります。

例えば、フォロワー100人程度の主婦でも古着リメイクというD2Cビジネスモデルによって、月5万程度の収入を得ていたりします。

コンテンツ産業においても、作品制作がままならない状態では、D2Cの考え方が求められているように感じます。

例えば、モノが売れない時勢に逆らうように、VTuberに対する投げ銭の金額が高騰し続けています。

コンテンツを購入するというモノ消費のスタイルから、熱狂する対象への直接的な貢献体験、すなわちD2Cが勢いを増していると言えるでしょう。

オタクというファンダムは、興味のあるコンテンツを守るためならば、クリエイターへの支援は惜しみません。彼らとの関係性を見直しながら、柔軟に再構築する姿勢が必要になるのです。

まとめ

これからのVUCA(変動・不確実・複雑・曖昧)時代においては、「モノ消費」よりも「コト消費」に価値がシフトしていくため、YouTube広告やブログのアフィリエイトのような製品中心の売り方では、今以上に稼げなくなります。

その代わりに、サブスクリプション型のサービスやオンラインサロン、D2Cと言ったビジネスモデルにシフトしていきます。

顧客やファンの特殊なニーズ対して、世界観やストーリーという形で価値を提供し、1対1の取引を続けることで、収益安定が実現するからです。

これらのビジネスモデルを上手に運用していくためには、ニッチなファンの自己実現や顧客の成功を第一に考える姿勢が必須になります

顧客との長期的な関係を見据えた直接的かつ継続的な価値提供、ファンダム・マネジメント、パーソナライズ、カスタマイズ性が重要です。

上記の基本原則に加えて、サブスクリプション移行期のコストアップと収益ダウンという苦境を乗り越える忍耐力、単なる視聴者やフォロワーではなく熱心なファンを獲得するための創意工夫がカギになるでしょう。

「ファンダム」「サブスクリプション」「D2C」と言ったビジネスモデルは、ファンや顧客中心という考え方において相互補完する関係にあります。

昨今のコンテンツ産業の苦境を乗り越えるためには、そもそものビジネスモデルの変革が必要になるでしょう。

顧客やファンとの関係性を再構築しながら、テクノロジーを活用した業界横断的な共創作業を推し進めなければいけません。

これからの時代は「モノ」から「コト」へのパラダイムシフトが、どんどん加速していくように思います。

そんな中で、ファンの自己実現を支援しながら成功に導いてくれるような、次世代のリーダーが登場することを願ってやみません。

井ノβe太 

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