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映画鑑賞

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映画感想など
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#ノンフィクションが好き

"ムショ"のコミュニケーションから"シャバ"を考える~映画『プリズン・サークル』~

以前の拙稿で2021年にスクリーンで観た映画をリストアップした。
その映画のほとんどについて、習作という意識で頑張って何かを書いたが、書かなかった映画もある(別に誰かに頼まれた訳でも、それによって収入を得ている訳でもないので、書かないことについて何とも思わない)。

その中の一つが『プリズン・サークル』(坂上香監督、2017年)だ。
この映画については「書かなかった」のではなく「書けなかった」。

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勝手に虚像を仕立て上げ使い捨てる大衆の姿は今も変わらない~代島治彦著『きみが死んだあとで』~

2020年に拙稿『「あのころ、早稲田で」中野翠の闘争』で、中野翠著『あのころ、早稲田で』(文春文庫、2020年)を引用しながら、著者が早稲田大学在学時の1960年代後半の学生運動を考えた。
その後、『あのころ、早稲田で』で中野翠も言及している、1967年10月8日の「第一次羽田闘争」で亡くなった山崎博昭さんについてのドキュメンタリー映画『きみが死んだあとで』(代島治彦監督、2021年)が公開され、

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「映画配給」という仕事

映画の冒頭、本編が始まる前に、配給会社のロゴ映像が流れる(「前づけ」と言うそうだ)。
たとえば、「ライオンの雄たけび」「自由の女神のようなシンボル」、こう書いただけで映像が浮かび上がってくる。
映画ファンならずとも「配給会社」という言葉は知っていると思うが、しかし、それがどういう仕事を担っているかは、映画ファンでもあまり知らないのではないだろうか。

1987年に洋画配給会社を興した高野てるみ氏は

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「日本酒女子」の本で日本酒を知る

Suits-woman.jp 2021年4月20日配信「日本酒好きが選んだ、最も好きな日本酒ランキング」という記事を読んだ。
これは、ボイスノートが全国の男女945名を対象にアンケートを行い作成した「日本酒銘柄人気ランキング」で、トップテンの1位は「獺祭」とのこと。
興味深いのは以降の銘柄で、「菊正宗」「月桂冠」「松竹梅」「日本盛」がランクインし、10位が「まる」だという。

日本酒好きの酒呑みで

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カレーライスをイチから作る

死語になった言葉に「かまとと」というものがある。
goo辞書によると「知っているくせに知らないふりをして、上品ぶったりうぶを装ったりすること。また、その人」とあり、「蒲鉾 は魚 か、と尋ねたことに由来するという」と補足されている。

死語になった理由はきっと「触れてはいけないタブー」になったからだ。

現代に生きる我々は、スーパーでパックに詰められた「刺身」や「切り身」の魚や肉を買い、コロナの影響

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ちひろ美術館で癒され、考えさせられる

本棚を漁っていたら『金曜夜6時半のちひろ美術館』(藤島淳・文/いわさきちひろ・絵、岩崎書店、1994年)という本が出てきた。
四半世紀以上前、何故この本を購入したのか、まるで覚えていない。

この本は「大人向けの絵本」という感じで、社会の中で戸惑ったり立ちすくんだり悩んだりしている若者たちが、週末の夜、ふと思い立ってちひろ美術館を訪れ、ちひろの絵を見て少しだけど元気や勇気を得る、といった内容の詩が

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「ヨコハマメリー」がいられた時代

私は横浜に縁がないので知らなかったのだが、かつて、横浜・伊勢佐木町に顔面を歌舞伎役者のように真っ白く塗って白い姫様ドレスを着た小柄な老婆が、いつも街角に立っていたのだという。
「都市伝説」ではない。実在の人物だ。
「白塗りおばけ」「ホワイト仮面」「皇后陛下」「キンキラさん」など、世代や地域によって様々な呼び名があるようだが、伊勢佐木町ではだいたい「メリーさん」で通じるようだ。

彼女がいつからここ

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映画「音響」は芝居をする

以前、映画『ようこそ映画音響の世界へ』(日本公開 2020年)を観た。
音をテーマにしているということで、音に拘った映画館「立川シネマシティ」の「極音上映」で観た。
注目する点は、映画「音楽」ではなく「音響」であることだ。

映画冒頭、自身が発明した「蓄音機」を操作するエジソンを撮ったフィルムが流れる。
映画によると、エジソンは最初から「音声付のフィルム」、つまり「トーキー映画」を記録することを目

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