マガジンのカバー画像

Fictional Diary

29
in企画、藍屋奈々子の空想旅行記。ほんものの写真と、ほんとうじゃないかもしれない思い出。日刊!
運営しているクリエイター

#旅行

fictional diary#6 どこに向かうの

fictional diary#6 どこに向かうの



移動中にふしぎな標識をみつけた。方向と行き先を指し示すプレートには、それぞれ実在する公園や建物の名前が書かれているのだけど、実際にそのとおりの方向に進んでみると、目指す目的の場所がいつまでたっても現れない。おかしいなと思って、もう一度標識のあるところまで戻ってみた。プレートをよくよくみてみると、どうやら標識の矢印が右に90度ずれているみたいだった。検証してみようと、今度はべつの方角に進んでみた

もっとみる
fictional diary#7 旅芸人の終着地点

fictional diary#7 旅芸人の終着地点



あたらしい町にたどり着いた。あたらしい町ではいつも、まず最初に町の中心に行ってみる。どこでもたいていお城や教会、お寺が町の中心になっている。たまには四角い公園のこともある。この町はすこし珍しく、まん丸の形をした公園が真ん中にあって、そこから広がるように道路が外に伸びていた。その町の宿で出会った人が話をしてくれたのだが、その丸い公園は、円形劇場の跡地なのだそうだ。昔、国中を巡る旅芸人の一座が、旅

もっとみる
fictional diary#8 空に似た窓

fictional diary#8 空に似た窓



田舎のほうに住んでいる友達の家に泊めてもらうことになった。山の麓にあるその家は、古くて立派なお屋敷で、わたしは友達がまさかこんな家に住んでいるとは思わなかったので驚いた。部屋の家具も、映画のセットみたいな、それか骨董品屋に並んでいるようなものばかりだった。友達はそこにひとりで住んでいて、動物をたくさん飼っていた。犬、猫はもちろん、カゴに入ったたくさんの鳥、猫よけの金網がついた水槽には熱帯魚、庭

もっとみる
fictional diary#9 光の色の足し算

fictional diary#9 光の色の足し算



その国の、海沿いの小さな町でガラス職人をしている友人の
ところを訪ねた。彼の住んでいる家は、海を見晴らす丘の上
にあって、家の外壁は、曇りの日の海のような霞んだ水色に
塗られていた。玄関を入るとすぐに、部屋からあふれ出そう
なほどたくさんの、どれも青っぽい色のガラスでできた品物
が並んでいた。ガラスでできた花瓶、コップ、お皿、時計板、
ランプシェード、手のひらサイズの動物のガラス細工。どの

もっとみる
fictional diary#10 赤い車のふしぎ

fictional diary#10 赤い車のふしぎ



その町で、車道のそばをずっと長いこと歩いていたときに、おかしなことに気がついた。赤い車がとても多いのだ。道を眺めていると、3台に1台くらいの割合で赤い車が通る。よその町にも赤い車がないわけじゃないけど、こんなにたくさん見たことは今までなかった。小さな駐車場の前を通ると、そこも不思議なほど赤い車ばかりが並んでいた。緑の草原と、煉瓦造りの家がほとんどを占めるこの町に、赤い車がそれほどよく似合うとい

もっとみる
fictional diary#14  想像上の象

fictional diary#14  想像上の象



バスを待っていた。季節にしては暑すぎるくらいのよく晴れた日で、わたしは着てきた上着を脱いだ。バス停には何人かほかの観光客も並んでいて、ガイドブックやカメラを手に楽しそうにおしゃべりをしていた。バスの行き先は有名な遺跡だった。草原の真ん中にそびえたつ、高さ25メートル、重さ5トン以上の、中途半端に巨大な象の像。象なんてまったくいないこの国に、なぜそんな遺跡があるのかは、世界七不思議に入るほどでは

もっとみる
fictional diary#15 かわいい魔女

fictional diary#15 かわいい魔女



その家にはアロマセラピーの偉い先生が住んでいて、近所の子供たちからは「お菓子の家」と呼ばれていた。お菓子でできているからじゃなく、ハーブの調合に日々精を出しているおばあちゃんが魔女のように見えるからなのだそうだ。童話に出てくる、鷲鼻で鉤爪の人食い魔女とはまったく似ても似つかない小柄な白髪のおばあちゃん。指には小さな緑の石のついた指輪をはめていて、服は真っ黒の長いワンピースを着ていた。彼女は、ア

もっとみる