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映画レビュー『クルエラ』(2021)存在自体がパンク!

悪役こそがもっとも魅力的

『眠れる森の美女』の悪役を主人公にした
『マレフィセント』(’14)、
『バットマン』の悪役を主人公にした
『ジョーカー』(’19)など、
近年のアメリカでは、過去の作品の
悪役を主人公にした映画が流行っています。

これまで勧善懲悪な物語を描きがちだった
アメリカの映画が変わってきているんです。

これらの作品は、
「悪役には悪役の言い分がある」
ということを示しているのではないでしょうか。

一方で、かつてシェイクスピアは、
自身の作品に関して、
悪役に肩入れをする見方を嫌った
と言われています。

『ヴェニスの商人』で、
極悪非道な金貸しとして描かれた
シャイロックは、
非常にインパクトのある悪役です。

ユダヤ人という出自も相まって、
いろいろ深読みしたくなる
魅力的なキャラクターではありますが、
シェイクスピアは純粋な「悪役」として、
シャイロックを捉えてほしかったのですね。

しかし、魅力的な悪役というのは、
それ相応の理由があります。

つまり、そのキャラクターには、
物語の中で語られていない
「影」を感じさせるのです。

その「影」こそが、
キャラクターをリアルな人物像にし、
多くの人を惹き付けてやまない
理由ではないでしょうか。

興味をそそる主人公の影

本作の主人公は、
『101匹わんちゃん』に登場した悪役、
クルエラ・ド・ヴィルです。

私自身は『101匹わんちゃん』を
観たことがないのですが、
原作では、犬を殺して毛皮を剥ぎ、
それでコートを作る毛皮マニア
という役どころだそうです。
(なんともエグい設定(^^;)

本作では彼女の出生から、
服飾デザイナーになるまでの
若かりし頃が描かれています。

悪役の設定では、
ありがちなことではありますが、
彼女の生い立ちも
なかなか過酷なものです。

クルエラはシングルマザーだった母を
子どものうちに亡くします。

母を亡くし、途方に暮れていたところ、
同じ年頃の孤児たちと知り合い、
コソ泥をしながら彼らと
生計を立てるようになっていくんです。

ある年の誕生日プレゼントとして、
百貨店への就職のチャンスをもらい、
やがて、彼女は服飾デザイナーへの
道を見出すことになります。

ここまでの流れはあっさりと、
テンポよく描かれ、
彼女がどうなっていくのか、
誰もが興味をそそられることでしょう。

なんせ、彼女が「悪になる」
というゴールは見えているので、
そこに至るまでのプロセスが
俄然、興味を引くのです。

クルエラの存在はパンクだ!

ディズニー作品といえば、
ファンタジーが多く、
現実とは乖離した世界が
描かれることが多いですよね。

私が観はじめてすぐに驚かされたのは、
本作の舞台設定が、
現実の世界に合わせた描かれ方を
していたことです。

例えば、本作の時代設定は、
’60年代の終わりから
’70年代初頭の辺りの時代になっています。

この時代と言えば、
世界的には「ウーマンリブ」が
台頭してきた時代です。

男性中心の社会から、
女性にも自由を認めるべきだと、
世界中で多くの女性たちが奮闘しました。

クルエラは、そんな時代の空気に合わせて、
子ども時代からウーマンリブの
象徴的な一面も覗かせます。
(具体的には男の子とケンカをしたりする)

また、劇中には、当時流行っていた、
ロックやソウルなどの楽曲が多く使われていて、
さらにその時代の空気が感じられます。

具体的には、ローリング・ストーンズ、
ビートルズ(カバー)、デヴィッド・ボウイ、
ドアーズ、アイク&ティナ・ターナー、
クイーン、クラッシュ、ブロンディなどなど、
洋楽ファンにはたまらないラインナップです。

ちなみに、イギリスが中心なのは、
本作の舞台がロンドンだからです。
(原作もイギリスで書かれた本だった)

これらの渋い音楽とテンポのいい映像が、
高密度でマッチしていて、
本当にかっこいいんですよ!

正直言って、ここまでかっこいい
ディズニー作品は、
はじめて観た気がしますね。

何よりもクルエラの精神には、
「パンク」のスピリットが
溢れているのです。

奇抜なファッションセンス、
予測不能な行動、
そのすべてが「パンク」なのです。

まさか、私もディズニーの映画で、
こんなにかっこいいものがあるとは、
思ってもみなかったので、
非常に驚かされました。

特に、ファッションや音楽が好きな方には、
ぜひとも観てほしい作品です。

それにしても、
クルエラのかっこよさには痺れました。


【作品情報】
2021年5月27日公開
監督:クレイグ・ガレスピー
脚本:アライン・ブロッシュ・マッケンナほか
原作:ドディー・スミス
   『ダルメシアン 100と1ぴきの犬の物語』
   ビル・ピート
   『101匹わんちゃん』
出演:エマ・ストーン
   エマ・トンプソン
   ジョエル・フライ
配給:ウォルト・ディズニー・スタジオ・
   モーション・ピクチャーズ
上映時間:134分

【原作】

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