記事一覧
【ふくろう通信10】牧羊子と「ダンス・ダンス・ダンス」
村上春樹の長編「ダンス・ダンス・ダンス」(1988年)に、牧村拓(まきむら・ひらく)というキャラクターが登場する。主人公「僕」が北海道で出会った美少女ユキの父親でお金持ちの流行作家という役柄なのだが、その人物描写が(少なくとも村上の目に映った)開高健そのものなのだ。
<それほど背は高くないが、がっしりした体格のせいで実際よりは大男に見えた。><首はいささか太すぎた。もう少し首が細かったらスポ
【ふくろう通信08】原りんりと「文学横浜」第55号
同人誌「文学横浜」第55号の合評会が4月、横浜市中区で開かれた。掲載された11編の中で最も評価が高かったのは、自我の問題を骨太に描いた原りんりの短編小説「セルブズ」だった。
(あらすじ)
裕福な家庭で育った日向子は高校教師だが生徒指導が苦手。反抗的な生徒の言動をきっかけに自分の中にもう一人の粗野な人格が現れ、暴言を吐いて退職してしまう。日向子は二重人格になった原因は過保護で世間体を気にしてば
【ふくろう通信07】米原万里と「亡き人へのレクイエム」
プラハゆかりの日本人でもっとも有名なのは作家の米原万里(1950~2006年)だろう。小学3年生だった1959年、父親の仕事の都合で東京からプラハに移り、ロシア語で授業をするインターナショナルスクール「ソビエト学校」に入学。4年間を過ごした。
ロシア語のバイリンガルに
両親は当初、各国の共産党エリートの子弟が集うソビエト学校ではなく、チェコ人が通う地元校に入れるつもりだった。しかし、チェコ
【ふくろう通信06】船田崇と「詩誌侃侃」
九州の出版社「書肆侃侃房(しょしかんかんぼう)」が刊行する同人誌「詩誌侃侃」のバックナンバーを入手した。長財布のような縦長の判型で100ページ前後。3月に出た最新号の38号には12人の同人が22編の現代詩と8本の散文を寄せている。同人の大半は九州在住だが、一人だけ千葉に住む詩人がいる。船田崇(ふなだ・たかし)という。
船田は1966年、北九州市生まれ。日本現代詩人会に所属し、これまでに5冊の
【ふくろう通信05】「変身」読書会
2024年はチェコのドイツ語作家フランツ・カフカ(1883~1924年)が亡くなって100年となる節目の年。カフカの最も有名な短編「変身」をテーマに、西日暮里ブックアパートメントで読書会を開催しました。「カフカを読むと語りたくなる」と実感する2時間でした。
それぞれの立場を反映
(あらすじ)
ある朝、セールスマンのグレゴール・ザムザは目を覚ますと自分が巨大な虫に変身していることに気づく。乗る
【ふくろう通信04】大石静と「青い月曜日」
紫式部の人生を描くNHK大河ドラマ「光る君へ」から目が離せない。低い身分の女性が陰謀渦巻く上流社会に飛び込み、恋に悩みながらも持ち前の才能で道を切り開いていく物語。脚本を担当する大石静の力量を改めて印象づけた。
大石は1951年、東京生まれ。当初は女優を志し、やがて「ラブストーリーの名手」と称される脚本家になったという経歴自体はことさら珍しくないが、特筆すべきは、開高健ら多くの文士が出入りす
【ふくろう通信03】醍醐麻沙夫と「オーパ!」
いま「アマゾン」と聞いて真っ先に思い浮かぶのはアメリカの巨大IT企業でしょう。しかし昭和の一時期は、作家・開高健(1930~1989年)の釣り紀行「オーパ!」シリーズでした。地球の反対側を流れる大河アマゾン。鋭い牙をむき出しにするピラニアのアップをあしらった「オーパ!」の表紙は、その獰猛なまでの生命力で読者に強烈な印象を与えました。半世紀近く前の作品にもかかわらず、今なお多くの釣り人に愛されてい
もっとみる【ふくろう通信02】池内紀のこと
11月25日はエッセイスト池内紀(いけうち・おさむ、1940~2019年)の誕生日です。池内書房が西日暮里ブックアパートメントで第1回「こんばんは読書会」を開いたのは2023年のこの日。池内が好んだ旅や読書、独語圏文化などについて語り合いました。
池内紀の本業はドイツ文学者。若い頃はウィーンに留学し、ユダヤ人作家など従来は主流と見られなかった文学を研究しました。カフカも主要テーマで、白水社からカ
【ふくろう通信01】こんばんは読書会
池内書房です。2024年3月23日(土)に第3回「こんばんは読書会」を西日暮里ブックアパートメントで開催しました。テーマはカフカの長編「審判」。参加者からは以下のような意見が出ました。
・主人公ヨーゼフKの逮捕容疑は何か。刑事訴訟なので政治犯ではないだろう。銀行員だから横領か。最高刑が死刑になる経済犯はない。ユダヤ人であること自体が罪であるという暗示なら、その後のヒトラー政権の政策を予言している