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『約束はできない』Revisited

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雨の粥が二十歳の頃に初めて作った薄い冊子を十数年ぶりに再現しようという企画です。
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#自由詩

幼い魚たち『約束はできない』その3

幼い魚たち『約束はできない』その3

ろうそくの信頼が、おやすみのキスと夜明けのさよならの間で揺れる
生命の割れたガラスは椅子の上で動けないでいる
どこへも行けない幼い魚たちがそこではわずかな言葉をもち、窓枠で悶えている

石鹸のないバスルームの陰で、幼い魚たちの声が聞こえるだろうか
それぞれの鼓動は泡の中で涙を流している
真夜中の悲しさがこだまするのは、ヘアドライヤーの音が沁みこんだ冷蔵庫
コードの繋がっていないそれは、新しいドレス

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捉えどころのない森『約束はできない』その2

捉えどころのない森『約束はできない』その2

捉えどころのない森

捉えどころのない森がある
それは雨傘のゆううつを感じさせる午睡の夢

窓の外の天気に気分を左右されてはいないだろうか
曇り空から天使が降りてくる瞬間に賭けていると言ってもいい
天空は歩行者たちの願掛け井戸だ
だが投げられたコインが落ちてくることはない
それらは世界を見守る星たちの卵なのだから
そして夢で見るその森の光景だけが、そのことを証明する鍵であるように思われる
木々の間

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無人遊戯『約束はできない』その1

無人遊戯『約束はできない』その1

無人遊戯

それは
夜毎、静かな空間を求め、そこに身を置きたがる
白い壁に囲まれた閉じた場所で
そこでは無機質な草木が植えられ、月の光がアスファルトを包む
人工的な照明がわずかに残る無人地帯で
微かな光は闇に溶ける

婦人服のマネキンを集めた部屋がある
リノリウムの床は静かだ、コンクリートの壁は白い
ブラインドの降りていない窓から月の光が差し込む
時刻とともに月は上空で弧を描き、プラスチックの体表

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