イドウタ

ショート小説を上げていくつもりです。 読んでいただけたらとても嬉しいです。

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    最近の記事

    湖上の小船

    いつの間にか僕は小船の中で眠っていたらしい。はっと目を覚ますとお月様と目が合って、僕は会釈をした。 「どうして、船を浮かべているんだい?」 とお月様は言った。 「今日はあなたがとてもよく見える日だったから」 と僕は言った。 「それはそれは」 と言ってにんまりとお月様は微笑んだ。 眠っている間に、船は湖の真ん中まで流れ着いていたようだ。周り一面がとても暗く、星とお月様だけが明るい。 「一人は寂しくないかい?」 とお月様は言った。 「一人だから、楽しめることも

      • 夜更けに本を読む

         こんな夜更けに本を読んでいる。小説を読んで、疲れてきたら短歌を読んで、飽きてきたところで詩集を読んだ。満たされたような気もするし、満たされていないような気もする。そして今度は机に向かって、文章なんかを書いてみたりしている。眠るべきなのに眠るのが嫌なのはどうしてだろう。寂しいのに誰とも会話がしたくないのはどうしてだろう。誰にも答えなんか求めてないくせに、こんな問いばかり浮かんでくるのはどうしてだろう。  あの詩人なら、こんな時に煙草を吸うだろう。あの小説の主人公なら、ウィス

        • 【ショートショート】9月、海の夢を見る

           大切な詩集に無邪気に笑っている君の写真を挟んだ。なんとなくそれだけで、君との思い出を供養できる気がしたのだ。僕はその詩集を枕元に置いて灯りを消した。  波の音が聞こえた。人通りの少ない道で、僕は街路樹と並んで、黙って立っていた。 「何をぼーっとしているんですか?」 と君は言った。あぁ、と僕は思った。君がいるってことはこの世界は夢なんだな。 「この道を行けば、もう海ですよ。早く行きましょう」 と言って彼女は僕の手を握り、前を歩いた。僕は引っ張られるままに歩いていく。  海

          • 【ショートショート】動け。

             俺は焦っていた。俺にはいろんなものが欠落していたからだ。しかも、その欠落しているものが何なのか、俺は把握しきれていなかった。だから何をしたらいいのかもよくわからなかった。  次の日が休日ということもあり、俺は昨晩、目覚ましをセットせずに寝た。起きて時計を見たら17時を示していた。空を見て、今から夜が明けるんだろうと勘違いしていたが、どうやらこれから夜が来るらしい。  一日を無駄にした。せっかくの休日を。もういい歳した大人がこんなんでいいんだろうか。そんな風に自分を責めてい

            【ショートショート】青空ステーション(595文字)

            読了目安2分 文字数595文字   クジラが泳いでそうな爽やかな空が広がっていた。  雲の上に浮かぶ駅のホーム。ずっと遠くの空まで続く線路。それ以外はすべて青と白で視界が埋め尽くされていた。ホームを歩いていた猫が、私の前で止まって、ちょこんと座った。 「どこに行かれますか?」 尻尾を揺らしながら聞いてくる。 「どこへでも行けますよ。実在する場所でも、実在しない場所でも」 それを聞いて私は 「実在しない場所?」 と聞き返した。猫は涼しげな顔で私を見る。 「はい。ずっと、行きた

            【ショートショート】人嫌いのロボット(547文字)

             読了目安2分 547文字  あるところに人と同じように生活するロボットがいた。そのロボットは人嫌いで有名で、話しかけても 「人間は嫌いだ」 と言われ、そっぽ向かれるのだそうだ。そのため街の人は皆、ロボットが暮らす家に近づかなかった。  ある日、家の鍵を失くした私は、泣きべそをかきながら鍵を探していた。どこを探しても見つからず、そのロボットの家の周りも捜索していると、日暮れにロボットは私の前に現れて、 「この鍵はお前のか」 と言った。その手に持っていたものは確かに私の鍵だ

            【ショートショート】狐の嫁入り(705文字)

             読了目安2分 705文字   俺は散歩で神社の中を歩いていた。柔らかな天気雨が降っていた。急に後ろから誰かに呼び止められて、俺は後ろを見た。そこにはとても美しい女性が立っていた。僕は首を傾げる。 「あ、あの、今俺のこと呼び止められましたか?」 その女性は僕の声を聞いて、びくっとしながら背筋を伸ばした。そして 「は、はい」 と言った。 「俺、何かしちゃいましたでしょうか」 と聞くと、彼女は慌てて 「いえいえいえ、違うんです。あなたにずっと伝えたかったことがありまして・・・」

            【ショートショート】砂時計の中は弱肉強食の世界(1351文字)

             読了目安4分 1351文字  僕は砂山の最下層から空を見上げる。天上にはわずかに砂が浮いていて、さらさらと少しずつ砂山のてっぺんへ降り注いでいた。 「今日中に、全ての砂が落ち切りそうだね」 隣にいた、最下層仲間のトムが言った。 「砂が落ちきったら、世界が終わるって噂だぜ。よかったな、相棒」 そう続けて、トムは僕の肩に手を置いた。  ここは弱肉強食の世界だ。虐げられたくなかったら、この砂山の中で誰よりも高い場所を陣取らなくてはいけない。それはとても熾烈な争いだ。今も、誰か

            【ショートショート】雨が止まない街 (715文字)

            読了目安2分 715文字 「どうして手に入らないものほど、欲しいって思っちゃうんだろう」 小さいころ、僕はお母さんにそう聞いたことがあった。記憶の中のお母さんは僕を見て穏やかに笑うのだ。 「それはね、れお・・・・」 そして僕の夢はいつもここで途切れてしまう。  今日もまた雨が屋根を叩く音で目を覚ました。僕はあくびをしながら伸びをする。そしていつも通り、顔を洗い、朝ごはんを食べ、普段着に着替えた。玄関の前に飾ってある写真の中のお母さんに、いってきますと言って外に出る。  

            【3分で読めるショートショート】異世界へ転生できるチャンスを棒に振った話

            読了目安3分 979文字  黒猫は言った。 「あと3分でこの異世界への扉は消える。だから、早くどっちにするか決めた方がいいよ」 本来、ベランダにつながっているはずの窓の部分がきらきらと光っていた。この光の中をくぐっていけば異世界へ転生できるらしい。 「お前より有能な人を雇ったから」と言われ、部長にリストラされたのが一日前のこと。 「ほかに好きな人ができたから」と言われ、妻と離婚をすることになったのが一時間前のこと。 俺は今、失うものが何もなかった。異世界へ行かない理由はな

            【超短編小説】一人ぼっちの夏休み

             このままでは、あと三日で小学校最後の夏休みが終わってしまう。    灰色の夏休みだった。毎日好きな時間に寝て、いつまでもテレビゲームができて、最初はそれが新鮮で楽しかった。けれど、一週間で新鮮味は失われ、そんな毎日に飽きてしまった。やることがなくて仕方なくやっていた夏休みの宿題は、みるみる量が減っていきちょうどさっき終わってしまった。この残りの三日間のうちに、何かしなければいけないというひどい焦燥感に俺は駆られていた。  悶々としているうちに一日が過ぎようとしていた。何か

            千年のまどろみ(句集)

            2019年からゆるゆると句作を始め、現在に至るまでに作った句の中でお気に入りのものをまとめました。 千年のまどろみ春の電車かな 落っこちた森の赤実や春の月 赤魚の水面の波紋春日差す シリウスやピアノの青き音一つ 鳥が過ぎ振り向く先や寒椿 粉雪や静かに傘を揺する人 晴天やジェット機飛んで入道雲 快晴や一番蝉はここにあり 戦前の映写機回る梅雨の空 枯木網あまたの星を捕らえけり 雑踏や人差し指の先の月 宵闇や曖昧モカ珈琲混ぜる 読んでくださった方、本当にあ

            【ショート小説】路地裏の階段を上ったら、宇宙に着いた。

             月と地球の間、無重力の暗闇の中で、これからどうしようか、と僕は考える。抵抗もせず、ゆっくりと体が流されるままに。  僕を拾ってくれたご主人が冷たくなってしまった。僕にはご主人しかいなかった。ご主人だけがすべてだった。  一週間前、ご主人は急に台所で倒れて動かなくなった。僕はしばらくご主人のもとを離れなかった。きっとまた起き上がるだろうと思って、僕はずっとご主人に体をくっつけて寝ころんでいた。そうやって一週間待っているうちに、僕は、もう二度とご主人が起き上がることはないこと

            【ショート小説】大好きなご主人に捨てられてしまうかもしれない。

             ご主人は数年前、僕を家族の一員として家に迎え入れてくれた。その日から僕はずっとご主人が大好きだし、ご主人にも僕のことを大好きでいてほしいと思っている。それなのに、僕の行動はいつも空回りしてしまう。  僕は自分のことを、つくづく貪欲な生き物だと思う。  ご主人が仕事で家を出たあと、僕はご主人の作業机の上においしそうなパンが置いてあることに気が付いた。一度そのことがわかってしまうと、僕の頭の中は机の上のパンのことでいっぱいになった。けれど、あれはご主人のパン。あのパンを食べ

            【ショート小説】家出をした。暮れてく空に希望がないから。

             俺はときたまに、カラス君と話をすることがある。カラス君はいつもいろんなことを俺に伝える。いつだか俺はカラス君にこう言ったことがあった。 「これから先に、良いことなんて何もない気がするよ」 カラス君はそれを聞いて言った。 「いいや、これから先にも良いことはいっぱい起こるよ」 カラス君はよくきれいごとを言う。俺はカラス君のきれいごとを鼻で笑った。けれど、カラス君が言うきれいごとで少し気持ちが軽くなってもいた。  地球が公転をやめて、自転の方もほとんどしなくなったのは俺