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【超短編小説】一人ぼっちの夏休み

イドウタ

 このままでは、あと三日で小学校最後の夏休みが終わってしまう。
 
 灰色の夏休みだった。毎日好きな時間に寝て、いつまでもテレビゲームができて、最初はそれが新鮮で楽しかった。けれど、一週間で新鮮味は失われ、そんな毎日に飽きてしまった。やることがなくて仕方なくやっていた夏休みの宿題は、みるみる量が減っていきちょうどさっき終わってしまった。この残りの三日間のうちに、何かしなければいけないというひどい焦燥感に俺は駆られていた。

 悶々としているうちに一日が過ぎようとしていた。何かしなければいけないとは思ったものの、俺は何がしたいのか、何をしたら満足できるのか、まったくわからなかった。とりあえず明日は外に出ようと決心して眠りについた。

 翌朝、意味もなく外出をし、別に食べたいわけでもないアイスを買った。ミンミンゼミが鳴くなか、入道雲を眺めて食べるアイスはおいしかった。けれど、これで満足しているとは到底言えなかった。もっと、満足できる何かが欲しい。そうこうしているうちにまた一日が過ぎてしまった。

 8月31日。夏休み最終日。今日は近くの土手で夏祭りが開催される。俺はそれに行くかどうかで迷っていた。一人で行っても惨めなだけかもしれないし、恥をかくだけかもしれない。けれど、動き出さないと、何も起こらないまま夏休みは終わってしまう。

 結局、昼になると突然雷雨が降り出して、祭りは延期となったようだった。俺は少しほっとしつつも、何もやることがなくなってしまったことに絶望していた。俺は寂しくなった。そして、どうしてこんな夏休みになってしまったのだろうと窓を眺めながら思索に耽った。
 そう。もとはと言えば、俺に友達がいないことがすべての始まりだった。だから一人でこんな寂しい夏休みを過ごすことになったのだ。俺は、教室のクラスメイト達と根本的に何かがずれていた。みんなが俺を変な目で見てくるから、俺は逆にみんなを見下すような態度をとることで精神の均衡を保ってきたのだ。その強がりのせいで、俺はクラスの人と打ち解けることができていなかった。

 怖いけれど、今一度誰かに声をかけてみようと俺は思った。クラスメイトの連絡先が載っている紙を棚から出してきて、じっと眺める。こんな俺でも一人だけ、話しかけられそうなやつがいた。俺と同じように一人ぼっちで、天然パーマで眼鏡をかけていて、いつも教室の端っこにいる目立たない男子、平田敬(ひらたけい)だ。俺は彼の家の番号を見て、電話のボタンを押していく。受話器を取る前に大きく深呼吸をした。多分、他のクラスメイト達で俺と話をしたい奴なんていない。この平田敬にも拒絶されたらと考えると、頭が痛くなった。胸がどきどきして、嫌な汗が額から流れる。

 俺は恐る恐る受話器を取った。三度、着信音が鳴った後、
「はい、もしもし」
と母親らしき人の声が聞こえた。
「あ、えと、石垣悠(いしがきゆう)って言います。敬くんは今、いらっしゃいますか?」
俺がそう言うとその母親らしき女性はしばらく間を置いてから、ふふふと笑い、少し待っててねと言った。数秒後に平田敬がの声が聞こえてきた。
「も、もしもし。どうしたの?」
「あ、いや、特にどうってこともないんだけど、雨ですることがないから誰かと話がしたくて」
「・・・・・」
平田敬は何も答えなかった。数秒の沈黙があり、俺の心臓がまた、どくどくと脈を打ち始める。
「別に嫌なら他のやつにかけるわ」
と言って電話を切ろうとしたときだった。
「ううん。嬉しい。ありがとう」
と平田敬は言った。その優しい声に俺は少し泣きそうになりながら、
「お前、宿題とかは大丈夫なの?明日学校だけど」
と言った。
「結構前に終わっちゃったんだよね」
と言って少し困った風にはははと彼は笑った。俺はそれを聞いてふっと力の抜けた息をこぼしてしまう。
「そっか。実は俺も」

 それから俺たちは一、二時間他愛のない会話を交わして、電話を切った。最後に平田敬は少し緊張した声で
「ま、またね」
と言った。俺も
「また明日」
と言って受話器を置いた。その日、俺は夕方になっても、夜になっても、焦燥感が湧くことはなかった。もう夏休みが終わるというのに、俺は安らかにベットの中で目を閉じることができた。開けていた窓からはコオロギの声が聞こえてきた。もう夏は終わろうとしている。迫りくる秋に備えて俺はぐっすりと眠った。

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