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【ショートショート】動け。

 俺は焦っていた。俺にはいろんなものが欠落していたからだ。しかも、その欠落しているものが何なのか、俺は把握しきれていなかった。だから何をしたらいいのかもよくわからなかった。

 次の日が休日ということもあり、俺は昨晩、目覚ましをセットせずに寝た。起きて時計を見たら17時を示していた。空を見て、今から夜が明けるんだろうと勘違いしていたが、どうやらこれから夜が来るらしい。
 一日を無駄にした。せっかくの休日を。もういい歳した大人がこんなんでいいんだろうか。そんな風に自分を責めていると、俺はさらに動きたくなくなってしまった。布団の中から自分の部屋の有様を見る。部屋干ししたままの洗濯物、今にも溢れだしそうな45Lのゴミ袋、空き瓶、ペットボトル。シンクの中はきっと今も汚れた食器がたまっているんだろう。まるで、生きてるだけでどんどん借金がたまっているような気分だ。こんな感じで俺の人生はずっと進んでいくんだろうか。その先に何があるんだ?

 俺は思考を止めた。布団にもぐって、両手で自分の頬を叩く。暗いことを言っていたって助けてくれる人はいない。辛くても、苦しくても動くんだよ。これ以上、辛くならないように。

 俺は立ち上がる。まずは食器を洗おう。一皿だけでもいいから、シンクの前に立とう。欠落した何かが埋まる日なんて来ないさ。何はともあれ動け。考えるな。動け。

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