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【ショートショート】雨が止まない街 (715文字)

読了目安2分 715文字

「どうして手に入らないものほど、欲しいって思っちゃうんだろう」
小さいころ、僕はお母さんにそう聞いたことがあった。記憶の中のお母さんは僕を見て穏やかに笑うのだ。
「それはね、れお・・・・」
そして僕の夢はいつもここで途切れてしまう。

 今日もまた雨が屋根を叩く音で目を覚ました。僕はあくびをしながら伸びをする。そしていつも通り、顔を洗い、朝ごはんを食べ、普段着に着替えた。玄関の前に飾ってある写真の中のお母さんに、いってきますと言って外に出る。

 僕が生まれてから一度も止んだところを見たことがない雨が、今日もしとしとと誰もいない街を濡らしていた。僕は日課をこなすために合羽を羽織って丘の上へと歩いていく。

 丘のてっぺんに着くと、僕はそこにある大きな電波塔のスイッチを押した。電波塔がぽおっと光りだす。お母さんはこの電波塔を最後の外部との通信手段なんだと言っていた。衰退していった人類が最後に作った希望なんだと。
「今日も特に応答なし、と」
僕は電波塔の光が消えていくのを確認して、丘を下り、家に戻った。家に帰ると、薄暗い部屋の中で合羽を脱いだ。脱いでいる最中に、僕は急に泣きそうになった。

 さみしい。さみしい。誰かに会いたい。そんな思いで心が溢れていく。僕は目を閉じて深呼吸をした。ふとその時、僕は夢の中でのお母さんとの会話の続きを思い出した。

「どうして手に入らないものほど、欲しいって思っちゃうんだろう」
お母さんは微笑む。
「それはね、れお、それが私たちにとって幸せなことだからだよ」
僕は首を傾げる。
「欲しいものが手に入らないのはとても辛いことじゃないの?」
「ううん。それでも欲しいって思い続けるの」
「ずっと?」
「そう。ずっとよ」

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