記事一覧
【プロット】第18話 点滴、落ちないでよ
映画『リバー、流れないでよ』が面白かったので、病院が舞台でもできないかなと思い、お酒飲みながら勝手にプロット書きました。しょーもなくてすみません。
【登場人物】
夢野枕子 看護師5年目、自身のキャリアや人生について悩んでおり、職場を辞めようかと思っている。周りからの仕事への評価はそこそこ高いのだが、自己肯定感が低い。
初台慎太郎 初期研修医2年目。内科ローテート中。点滴留置が苦手。
山岡恵
【超短編】第17話 双生児
「僕は、町の灯りが煌めいているのが好きだし、町の道はまっすぐなのが好きだ。四つ辻に立ち、ある方向を見た時、その道がまっすぐ続いているのが良い」
「俺は、暗く、ひっそりとした町の雰囲気が好きだし、町の道は複雑に入り組んでいるのが好きだ。時に坂道や階段なども加わって、空間がいっそう歪んでいくのが良い」
「僕は、天体や地球が回っているのは、終わりを嫌うからだと思っている。前に進めば、きっとどこかに終わ
【短編】第16話 生きがいのない女、死にがいのない男(後編)
5
この日、女は大阪にいた。高槻駅を降りると女はバスに乗って郊外へ向かう。俺がいた頃に比べてすっかり垢抜けた駅前だが、少しバスで走るとまだまだ田舎の景色だ。女はいつもよりいっそう地味な服装で座り、花を膝にのせて車窓を眺めていた。
【短編】第16話 生きがいのない女、死にがいのない男(前編)
1
警告音とともに駅の自動改札口の扉が閉まった。俺は一瞬ヒヤリとしたが、そんなはずはないとその扉を「すり抜け」た。後ろを振り返ると、首をかしげながらICカードを改札機に当て直している中年の男の姿があった。
そう、そんなはずはない。俺は自嘲するように苦笑を浮かべ、再び前を向いて、ホームに向かう「女」の背中を追った。
高円寺駅を降りて、乾物屋のあった商店街を通り抜け、歩くこと十分。女の一人暮
【超短編】第15話 犯人の言い分
「つまり、AIの決定を絶対に疑わない沙樹さんの性格を知っていて、あなたはあの時、AIになりすまして彼女を誘導した。その結果、沙樹さんは岬へ向かい、待ち構えていた犯人に絞殺された。桐島さん、あの時間に沙樹さんの持っていたパソコンにさわれたのは、僕以外にあなたしかいなかった。つまり、あなたが沙樹さんを殺したんだ」
僕が指さした目の前の初老の男は、顔色ひとつ変えずにソファに腰を埋めていた。灰色の瞳は僕
【超短編】第14話 ドウタン
「なあ、同担って知ってる?」
「ドウタン?」
この店の名物、焼小籠包の熱さ加減を伺っていた野原が聞き返した。
「うん、同担」
「なにそれ?」
野原は思い切って小籠包を口に放り込んだが、やはり熱かったのか、すぐさまビールを流し込んだ。
高槻駅の近くにある脂ぎった中華料理屋で、いつものごとく俺と野原は飲んでいた。
「同じ担当と書いて、同担。今日、中学生の女の子の患者さんと世間話してたんやけど、
【超短編】第13話 ネコのスタンプ
とある古ぼけたカフェの中。向田という男が、ノートパソコンを前に頬杖をついていた。表情は冴えない。コーヒーはとっくに冷め切っていた。
彼の本職は看護師だ。今日は非番で、行きつけのカフェを訪れ、内職をしていた。内職というのは、有名なメッセージアプリのスタンプ作りだった。彼は小さい頃から動物のイラストを描くのが好きで、その絵は決して上手いものではなかったが、何とも趣があるということで、たまたまそれを見
【超短編】第12話 石渡さん
美和が教室の扉を開けると、石渡さんが本を読んでいた。
まだ誰もいないだろうと思っていたので少し驚いて、挨拶が不自然に遅れてしまった。
「おはよう」
石渡さんは静かにこちらに視線を移すと、小さな声で「おはよう」と言い、また本の世界へ戻っていった。
美和は落ち着きを取り戻して、自分の席へと向かった。
教室の後ろには文化祭で使用した物品がまだ無造作に置かれている。先生に毎度注意されるが、誰も片付けよ
【超短編】第11話 寝ても覚めても
悪夢を見た。
目が覚めた。
ベッドの側に『そいつ』はいた。真っ黒で、こどものフォルムをして立っている。
俺はベッドから出ると、彼女にメールを打った。まだ朝早かったが、彼女からはすぐに返事が来た。
返事を確認すると、俺はジーンズとTシャツに着替え、スマートフォンをポケットに押し込んだ。
『そいつ』はそんな俺を黙って見つめている・・・気がした。真っ黒で目がどこにあるかもわからないが、俺が部屋で
【超短編】第10話 ハサミの手
日曜日の午後、キッチンでレトルトカレーをご飯の上にかける。空になったパウチをゴミ箱に捨てようと思ったら、手を滑らせてパウチがシンクに落ちた。
なんとなく、シンクに落ちたパウチを素手で触りたくなかった僕は、何か代わりにつかめるものがないかと探した。右手にパウチを切るときのキッチンバサミを持っていたので、僕はそのハサミでパウチをつかもうとした。
ハサミの切れ味が良いのか、パウチの素材が弱いのか、つ
【超短編】第9話 いやらしいもの
いつもの居酒屋で、同僚の野原と酒を飲んでいる。
女将さんが、常連の俺たちに適当な肴を出してくれる。
「ピーマンって言葉、なんとなくいやらしくない?」
「え?」
野原が青椒肉絲をほおばりながらつぶやいたので、俺はついビールの手がとまった。
「いや、なんとなく語感がな」
「まあ、言われてみればなあ」
野原はこの類いの話が好きだ。俺もだが。
「穴子の棒寿司もけっこういいセンいってると思うけど」
【超短編】第8話 それでも世界は踊っている
午前6時28分。
あともう少しすれば、美和が走って来るはず。
暦では初夏のはずだが、朝の陽光は熱く、舞はもう自分の体が汗ばんでいるのを感じた。
朝練もそろそろきつくなってくるな・・・。
歩行者信号の下で、いつものように友人を待つ。
舞のそばでは、赤い車が停車し、信号を待っている。
横断歩道には、駅へと向かうたくさんの人。笑顔の人はいない。かといって、悲しそうな顔の人もいない。この時間のこの場所
【超短編】第7話 春のマンドリン
千鳥ヶ淵の桜並木を歩いた後、私は北の丸公園へ向かった。
公園の芝生に腰を下ろし、目の前の池をぼんやりと眺める。公園には桜の木はそれほど見当たらないのだが、暖かな陽光と肌寒い風に揺られる木々と水面を眺めていると、春の訪れをゆるゆると感じる。散歩にやってきた幼稚園児たちが、まるで止まっていられないかのように芝生を駆け回っている。
ふと、聴き覚えのある旋律が流れてきたので、私は音の源を目で追った。
【超短編】第6話 眠い
眠い。とにかく眠い。
瞼は重く、そして固く、熱い。
何度まばたきを繰り返しても潤わない角膜。
天を見上げ、目薬をさす。さすというより、かける。
ミジンコなら泳げそうなくらいにダバダバとかける。
顔を下げると大量の目薬とミジンコが頬を伝って地面に落ちる。
眠い。とにかく眠い。
頻繁に摂取したカフェインのせいで動悸が激しい。
ドキドキして眠い。なんと逆説的なことか。
眠い。とにかく眠い。
いま、
【超短編】第5話 夜明け前
空が白む頃、僕は目を覚ます。
時計は確認するまでもない。まだ眠っていてもいい。
けど、いつまでもというわけにもいかない。
頭の中にはまだ昨夜の酒が少し残っていて、口の中もカラカラだ。
隣には君が眠っている。
昨夜はなにもなかった。仕事のせいとか、年齢のせいとか、お酒のせいだと思っている。
僕は君のお腹のあたりにそっと手を触れる。
夜明けの彼女の肌はいつもよりも柔らかくて、あたたかい。気がする。
【超短編】第4話 鳥のお医者さん
高槻駅の陸橋を降りて、いつもの居酒屋を目指していると、見慣れない看板が目にとまった。同僚の野原もそれに気づいたようで、
「お、こんなところに新しい診療所ができてる」
「ほんまやな・・・ん?待てよ、鳥専門の診療所やな」
「鳥のお医者さんか」
「うーん、需要あるんかな。ペットの鳥ってそんなに多いか?」
「見てみ、完全予約制って書いてあるで」
「まあ、そやろな、九官鳥ばっかり診ててもしんどい