【超短編】第9話 いやらしいもの
いつもの居酒屋で、同僚の野原と酒を飲んでいる。
女将さんが、常連の俺たちに適当な肴を出してくれる。
「ピーマンって言葉、なんとなくいやらしくない?」
「え?」
野原が青椒肉絲をほおばりながらつぶやいたので、俺はついビールの手がとまった。
「いや、なんとなく語感がな」
「まあ、言われてみればなあ」
野原はこの類いの話が好きだ。俺もだが。
「穴子の棒寿司もけっこういいセンいってると思うけど」
「それはちょっと俺にはわからん」
「マンホールは?」
「それはアリ。おおいにアリやな。てか、そのまんまやな。そして穴やし。ちょっと感動」
「あとな、俺、最近気づいたんやけど・・・」
「何を?」
野原はビールのジョッキを空にして、女将さんに柚子サワーを注文し、続けた。
「コンビニの和菓子のネーミングって、けっこういやらしいのよ」
「え?そう?俺、甘いもの食べへんからよく知らんな」
「例えばな・・・」
野原がスマートフォンを取り出して何やら検索しだした。普段めんどくさがりの野原が嬉々としている時は、たいていそこそこ酔っている。
「抹茶のとろける生チーズケーキ」
「まあ、普通っちゃ普通」
「とろーりとろける白玉のみたらし」
「あ、ちょっといやらしい感じあるわ」
「ねっとりイタリアンプリン」
「ねっとりのとこだけな。てか、商品名にねっとり使うんやな」
「クリームたっぷり!濃厚カスタードシュー」
「うーん、まあ、もはやそっちの頭になってしまってるし」
と、合点がいくようないかないようなやりとりをしている間にも、お互いにジョッキが空になった。
野原が追加の注文をしているとき、俺は天啓を得た。
「野原、俺、ひらめいたわ。いやらしいもの」
「え?何よ?」
「松茸のお吸い物」
野原と俺はひとしきり下品に笑って、その後、日本酒を二人で三合飲んで、店を出た。
今夜はいい夢が見れそうだ。
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