【超短編】第15話 犯人の言い分
「つまり、AIの決定を絶対に疑わない沙樹さんの性格を知っていて、あなたはあの時、AIになりすまして彼女を誘導した。その結果、沙樹さんは岬へ向かい、待ち構えていた犯人に絞殺された。桐島さん、あの時間に沙樹さんの持っていたパソコンにさわれたのは、僕以外にあなたしかいなかった。つまり、あなたが沙樹さんを殺したんだ」
僕が指さした目の前の初老の男は、顔色ひとつ変えずにソファに腰を埋めていた。灰色の瞳は僕をじっと見つめている。2日前から電源が断たれているせいで、部屋の中はひどく蒸し暑い。僕の頬に一筋の汗が流れた。
「正しい。君の言っていることは正しいよ」
初老の男、桐島は立ち上がると、明け放たれたリビングの窓の側へと歩き、目の前に広がる海へと視界を移しながら答えた。
「だが、君がその真相にたどり着くまでにすでに九人が死んでいる。沙樹くんの死についてはそれが正解だが、それは犯人の候補が私と君しかいないからだ。沙樹くん以外の八人の死について、君はなんら答えを出せていない」
「それは・・・」
僕の動揺を待たずに桐島は続けた。
「まったく、とんだ誤算だった。君が恋人の高砂さんにひっついてこの島に上陸するとは思いもよらなかった。しかし、君は私の一連の計画になんら影響を及ぼさなかった。次々と島の中で人が死ぬ中、君はオロオロするばかりで、私は四番目の殺人で計画を変更し、君を利用するほどの余裕があったよ」
「私の計画はほぼ全て完了している。あとは・・・私自身の問題だ」
桐島は玄関へ通じる扉へ向かった。
「どうする気ですか」
僕はかろうじてそう尋ねた。
「定期船がこの島に来るまであと30時間ほどある。ゆっくり考えてみたらいい。定期船が来たとき、この島には10人の死体があるだろうが、君に疑いがかかることはない。もうすぐ、しかるべき人物からしかるべき場所へ私の手紙が届けられることになっているからだ」
「なぜ、僕を殺さなかった?」
桐島は振り返ると、哀れんだような表情で僕を見て、言った。
「そうだな、晩節を汚してしまうような気がして・・・おっと、それは君に失礼だな。それでは」
リビングの扉が閉められた。
そして、僕だけしかいなくなった。
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