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sato ichinokawa
2023年6月11日 08:19
その母親は、役所の子ども育児支援課までエレベーターを上がっていた。子ども育児支援課は5階にある。5階に着くと、母親らしき女性たちが列をなしていた。「政府のこんどの育児支援はそうとうなものね」「びっくりよね」そう話す女性たちの列に、その母親は加わる。申請書類は必要ない。個人カード1枚あれば事足りるのだ。申請が済み、母親は無事にその証となるバッジを受けとった。<こどもバッジ>政
2023年6月2日 06:04
その青年は、パソコンのまえに姿勢正しくすわり、モニター画面を見つめていた。画面には色白で髪の長い女性が映し出されている。女性はほほえむと自己紹介をはじめ、青年の返答を待つ。青年はしどろもどろながらなんとか自己紹介を終えた。それから、青年と女性は互いに質問を繰り返した。会話の途中、モニター全体がとつぜん灰色になった。青年が一般的ではない質問をし、女性の表情がくもったからだ。青年はあわてて質
2023年5月21日 06:13
その芸術家は悩んでいた。思ったような作品が作れなくて1年がたとうとしている。芸術家の作品は絵画だった。繊細な色彩を放つ独特の世界観で、ファンも多い。展覧会を開こうものならファンが長蛇の列をなし、握手とサインを求めたのだった。作品が売れていたころは、心に浮かんだものを感じるままに具現化することができた。自分が感じたものをキャンバスにそのまま投影し、人々を魅了することができた。しかし今