マガジンのカバー画像

心象空間 エッセイ・小説

19
エッセイは日常の出来事に触れ感じたことを心のままに、書き連ねています。 小説は頭の中のモヤモヤを言葉にする作業です。
運営しているクリエイター

#オールカテゴリ部門

ショートショート 「こどもバッジ」

ショートショート 「こどもバッジ」

その母親は、役所の子ども育児支援課までエレベーターを上がっていた。子ども育児支援課は5階にある。5階に着くと、母親らしき女性たちが列をなしていた。

「政府のこんどの育児支援はそうとうなものね」

「びっくりよね」

そう話す女性たちの列に、その母親は加わる。申請書類は必要ない。個人カード1枚あれば事足りるのだ。

申請が済み、母親は無事にその証となるバッジを受けとった。

<こどもバッジ>

もっとみる
ショートショート「完璧な恋愛」

ショートショート「完璧な恋愛」

その青年は、パソコンのまえに姿勢正しくすわり、モニター画面を見つめていた。画面には色白で髪の長い女性が映し出されている。

女性はほほえむと自己紹介をはじめ、青年の返答を待つ。青年はしどろもどろながらなんとか自己紹介を終えた。それから、青年と女性は互いに質問を繰り返した。

会話の途中、モニター全体がとつぜん灰色になった。
青年が一般的ではない質問をし、女性の表情がくもったからだ。青年はあわてて質

もっとみる
ショートショート「ある芸術家の苦悩」

ショートショート「ある芸術家の苦悩」

その芸術家は悩んでいた。
思ったような作品が作れなくて1年がたとうとしている。

芸術家の作品は絵画だった。
繊細な色彩を放つ独特の世界観で、ファンも多い。展覧会を開こうものならファンが長蛇の列をなし、握手とサインを求めたのだった。

作品が売れていたころは、心に浮かんだものを感じるままに具現化することができた。自分が感じたものをキャンバスにそのまま投影し、人々を魅了することができた。

しかし今

もっとみる