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童話「ぼくはピート、そしてレイじいさん」

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短編の連作童話です。全27話。最後に「あとがき」も。 魔法を使わない魔法使いのレイじいさんと少年ピートくんの物語。 グリーングラス島の人たちと動物たちと共に、成長していくピートく… もっと読む
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記事一覧

ぼくはピート、そしてレイじいさん 第1話

第1話 「ぼくはピート、そしてレイじいさん」 これは旅の話。 ぼくは、 レイじいさんと暮らしている。 グリーングラス島は、 新しくて懐かしい島だ。 歴史はあって 歴史は作られる。 そして、 ぼくとレイじいさんは、 一緒に新しい何かを作っている。 ぼくは、 晴れた日に 屋根によじ登って昼寝をしていた。 レイじいさんは、 屋根裏部屋で、 昔の本を整理している。 天窓から声が聞こえた。 更なる旅へ と響く。 ぼくは、 夢の中で旅をした。 レイじいさんの声は 小

ぼくはピート、そしてレイじいさん 第2話

第2話 「明るい空模様」 明るい空は、 ガラス風でできていて、 僕は、毎日、空を飛ぶ夢を見ている。 グリーングラス島のお祭りは、 春の月の第一風曜日。 この日は、 朝も昼も夜もなくなり、 みんなは好きなことをする。 踊ったり笑ったり歌ったり。 僕は、 ガラス風の空の中を 液体になって流れることにする。 それが 僕の 空を飛ぶ夢だ。 レイじいさんは魔法使いで、 そういうことをよく知っている。 「いい頃合い」で全てが決まる、 そういうことだ。 物事を成功させるコ

ぼくはピート、そしてレイじいさん 第3話

第3話 「パシノン草のこと」 パシノン草は、 夜に咲く。 日暮れ頃から、 小さなつぼみが 顔を出し、 月が光る頃に、 ひとひら、 ひとひら、 花びらを開く。 夜に咲く 雲の花だ。 僕たちは、 さっそく、 パシノン草を 探しに行く。 昼間に、 大きな雲が出たら、 パシノン草が咲く 合図なのだ。 「いいかい。 ピートくん。 パシノン草に、 気付かれたら、おしまいだ。 パシノン草は、 人知れず咲く花だからね。 気を消さなければ 見ることができないぞ」 レイじいさんの言

ぼくはピート、そしてレイじいさん 第4話

第4話 「イルカレター」 海の向こうには虹がある。 虹の向こうには 見えない島がある。 その向こうには 知らない島があって、 そのことを知るには、 イルカに聞くといい。 イルカは、 海と空の境目を しゅーしゅるるるっと やってくる。 そうして、 イルカの口からはき出された、 レター船長と その奥さんから、 いろんな不思議な話を聞く。 「私は、風の生まれ変わりなんです。」 レター船長は、 そう言って、 みんなに手紙を配る。 遠い島に住む人たちから、 このグリーン

ぼくはピート、そしてレイじいさん 第5話

第5話 「星屑の人」 夢の中で、 銀色の声がした。 「ソトニ デテ オイデヨ」 僕は、 目を覚まして、 外に出る。 外は、 昼の青空と 夜の星空が混ざっていた。 その空から、 銀色の声が降ってくる。 「ピートクン」 星屑の人だった。 星屑の人は、 夜を守る人で、 大きな木と 風と星の体を 鈴を揺らすように チリチリ、 リリリリカチャカチャ 小さな音をたてながら歩く。 「ユメヒロイヲ シヨウ」 「ユメヒロイ?」 「空から、 いくつもの夢が流れてくる。 それ

ぼくはピート、そしてレイじいさん 第6話

第6話 「古代の夜」 「あかねふしぎの空の下、 輝く馬の群れ、 幾と千。 皮膚に美しき紋様ある馬には、 小人たち。 立ち上がり、 ひっくり返り、 奇妙に体をくねらせる。 中でも、 ひときわ金に輝く輪の月の馬には、 王女のように振る舞い、 妖精のように歌う 冠姫。 天と地と愛の歌は、 暗闇に 空が溶けるまで鳴り響く。 その時に見よ。 馬は、 一斉に片足を上げ、 挨拶をする。 小人たちは、 髪を逆立て宙返り。 冠姫は、 微笑み、 マイマイの踊り。 激しく 優雅に 繰り返され、

ぼくはピート、そしてレイじいさん 第7話

第7話 「実りのパレードと青空マーケット」 実りのパレードには、 みんな、 とびきり背の高い竹馬に乗って参加する。 なぜなら、 雲の上の青空マーケットに 顔が出せないからね。 青空マーケットには、 大きな雲に乗った人たちが たくさん やってくる。 あちこちから 珍しい食べ物や 手作りの家具とか 鞄とか帽子を持ってくるんだ。 そして、 僕たちの 持っているものと交換する。 僕とレイじいさんは、 竹で、でっかいピーターを作った。 ピーターは、 竹でできた大きな人形。

ぼくはピート、そしてレイじいさん 第8話

第8話 「サヨナラの月」 待っている。 僕は、待っている。 橋の上で。 おもちゃの 赤いトラックには、 いくつもの積み木が乗っていて、 僕は小さな頃、 その積み木を並べたり、 積み上げたりして遊んだ。 でも、 その赤いトラックと 僕は、サヨナラをした。 おもちゃとのサヨナラは、 ある日、 突然やってくる。 「もう、いいかな」 と突然思ってしまうのだ。 何の前触れもなしに。 それで、 僕は、 その赤いトラックを 工場に持っていった。 レイじいさんは、 古い黄

ぼくはピート、そしてレイじいさん 第9話

第9話 「夢の中の夢」 雪が降る。 ゆきつばめが 降りてくる。 ゆきみみウサギが 跳ね回る。 くもが くもの巣を編むように、 ゆきつばめは、 あわ雪ぼた雪 絡み合わせて 雪景色を織っていく。 ゆきみみウサギは お手伝い。 跳ね回りながら 雪をまく。 雪を積む。 雪を転がす。 僕は、 雪の音を聞く。 静かで深い調べは、 遠くまで澄んでいく。 「森の木、おやすみ。 小鳥もおやすみ。 降り積もる物語は、 冷たい夜に 花が咲く・・・」 雪風の声だ。 動物たち

ぼくはピート、そしてレイじいさん 第10話

第10話 「物語の続き」 「時をなくした ウサギの話を 知っているかい?」 レイじいさんは、物語る。 春を告げる春ウサギ。 ある時、 胸を飾る金色の 時のボタンを なくしてしまう。 時のボタンは、 春の知らせ。 どんなに探しても見付からず、 春は、 いくら待ってもやってこない。 「それで、どうなっちゃったの?」 僕は、 物語の続きを聞く。 「冬さ。 ずーっと 冬のままなんだ」 その時、 ネズミのジーポが 慌てて部屋の壁の穴から 顔を出した。 「大変! 

ぼくはピート、そしてレイじいさん 第11話

第11話 「僕の将来」 青い光に日は落ちて、 対岸の姿が 少しずつ見えなくなっていく。 「しかし、惜しかったよなぁ」 「まあ言うなよ。 みんな、がんばったんだし」 船の中で、 みんなは、 ナッツ酒を飲みながら、 おしゃべりしている。 僕は、 船の一番後ろに腰掛け、 ナッツジュースを飲む。 「やっぱり5回裏だよな。 ピッチャー、ピートくん、 大ピンチの二死満塁でさ」 「バッターは、 トラヒゲのゲイリーさん」 「カキーン! ホームラン! だもんなぁ」 「ピートく

ぼくはピート、そしてレイじいさん 第12話

第12話 「時間の旅」 音楽の源を 探す旅に出た。 古い自動車を 空色に塗り替えて。 僕とレイじいさん、 それから 犬のポリと 猫のファニも一緒だ。 「コロボル族の眠る、 合い塚に行けば、 手掛かりが見付かるかもしれん」 レイじいさんは、 子供の頃に、 おばあさんに歌ってもらった コロボルドッポという歌を 思い出そうとしている。 それは 昔々、 この島に住んでいた コロボル族の歌で、 今はもう 誰も覚えていないもの。 忘れ去られた 昔の歌を取り戻しに 僕たちは

ぼくはピート、そしてレイじいさん 第13話

第13話 「すてきな種の育て方」 エングゲルグの港に、 小さなお店がオープンした。 オーナーは、 赤鼻のポーキーさんで、 世界をあちこち旅して 見付けてきた 不思議なものを たくさん売っている。 僕とレイじいさんは、 魚釣りに行く前に、 店に寄ってみた。 「うわっ」 とまず最初に驚いたのは僕。 白い山の模型を触ったら、 突然 火が吹き火山と化した。 続いて 「おおっ」 とレイじいさん。 赤い家の窓から、 僕そっくりの人形が飛び出した。 「これは、どういうこと?

ぼくはピート、そしてレイじいさん 第14話

第14話 「虹現象」 僕たちの夢のような現実の一つに、 虹現象というものがある。 二重虹が架かる時、 七通りの世界がやってくるのだ。 服作りのメジャーさんは、 世界は 水色もしくは涙色だと言う。 空と涙は 微妙に絡み合って溶け合って 藤の雫になる。 空は、 小さな涙を吸い上げて、 あれだけ広くなれるのさ と水溜りを見ながら メジャーさんは笑った。 パン職人のクーキーさんは、 世界は紅、 もしくは回り続ける風車だと言う。 結局、 回り続けるしかないのさ、 でも、