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ぼくはピート、そしてレイじいさん 第10話

第10話 「物語の続き」


「時をなくした
ウサギの話を
知っているかい?」

レイじいさんは、物語る。


春を告げる春ウサギ。

ある時、
胸を飾る金色の
時のボタンを
なくしてしまう。

時のボタンは、
春の知らせ。

どんなに探しても見付からず、
春は、
いくら待ってもやってこない。


「それで、どうなっちゃったの?」

僕は、
物語の続きを聞く。

「冬さ。
ずーっと
冬のままなんだ」

その時、
ネズミのジーポが
慌てて部屋の壁の穴から
顔を出した。

「大変! 
春ウサギのベイネが
時をなくした!」

レイじいさんと
僕は、
顔を見合わせた。

ベイネは
時計台のてっぺんに腰掛け、
足をぶらぶらさせていた。

「あそこで、
春を待つんだそうです。
時計のそばなら
春が来る時が
わかるだろうからって」

時計台守のレイシーが
心配顔で言う。

「ベイネ」

レイじいさんが
声をかけると
ベイネは、
振り向き
うっすらと
弱々しく笑った。

「時をなくしたウサギの話を
知っていますか?」

僕は、
小さくうなずいた。

「あれは、
単なる教訓話だと思ってた。
僕の祖先は皆、
真面目でしたからね。
僕以外は」

丸い月が出てきた。

冷たい風も吹いてきた。

「ピートくん。行くぞ」

突然、
レイじいさんが
僕の手を引っ張る。

僕らは
時計台を駆け降り、
走って
走って、
暗い森の中の
小さな湖に
辿り着いた。

静かな湖に
ぽっかり丸い月が
ゆらゆら映っていた。

ザブンと
いきなり
レイじいさんが
湖に飛び込み、
そして
金のボタンを手に
浮かび上がる。

「ハックション!
こりゃ、
本当の年寄りの冷や水じゃ。
すまんがピートくん、
これをベイネに届けておくれ。
ヘーックション!」 

こうして、
春は、
いつも通りやってきた。

僕は、
「どうして?」
と聞いた。

レイじいさんは答えた。

「物語の続きを考えたのさ。
答えはなくても
代わりはあるかもしれんとね」





To be continued. 

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